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「ベルサイユのばら」と日本国憲法

エンタメ を楽しみながら、日本国憲法のエッセンスを体得する(1)

内山宙 弁護士

個人の尊厳・幸福追求権とオスカル

 日本国憲法とオスカルの人生について、さらに突っ込んで考えてみましょう。

フランス革命を舞台に、男装の麗人オスカル・フランソワが人気を呼んだ「ベルサイユのばら」。革命に身を投じるオスカルのりりしさとあでやかさが、原画では余すところなく描かれている。
©池田理代子プロダクション拡大フランス革命を舞台に、男装の麗人オスカル・フランソワが人気を呼んだ「ベルサイユのばら」。革命に身を投じるオスカルのりりしさとあでやかさが、原画では余すところなく描かれている。 ©池田理代子プロダクション
 オスカルは、女性でありながら男性として育てられ、軍人になりました。では、オスカルがこれを嫌がっていたかというと、さにあらず。軍人としての才能があったため、むしろ活躍し、充実していました。女性であれば軍人になることもできなかったということもありました。その意味では、憲法13条や22条の問題にはなりません。

 オスカルが軍人という立場に苦しむようになるのは、フェルゼンに対する恋心に気づいてからです。軍人たるもの恋にうつつを抜かしていてはいけないと、恋心を押しつぶしてしまうのです。ここではじめて憲法13条の問題が出てきます。

 憲法13条は、個人の尊厳や幸福追求権を保障しています。尊重されるのは個人であって、「みんな違ってみんないい」ということです。「みんなこうだから、こうしなさい」という押し付けに従う必要はありません。自分がしたいことを選んでいいよ、あなたの望む生き方をしていいよ、あなたなりの幸せを目指していいよ、ということを憲法が言っているのです。

 これまでの人生で、そういうことを言われた経験はあまりないかもしれません。でも、実は憲法がそう言ってくれているというのは、なんだかスゴくないですか。

 とすれば、オスカルは、軍人だからといって、恋心を押しつぶす必要はなかったことになります。でも、そうは考えられない時代だったのかもしれませんね。オスカルに日本国憲法を教えてあげたかったと思います。

 現代の日本でも、たとえばアイドルは「恋愛禁止」と言われ、苦しい思いをしているかもしれません。確かに、アイドルは自分の選んだ道でしょう。でも、人間なのですから、契約で心を縛ることは難しいのではないかと思います。

平等原則・婚姻の自由とオスカル

 男性として生きてきたオスカルは、今度は女性として親の決めた結婚相手と結婚し、女性の幸せを掴(つか)むようにと父親から言われます。父親の同意どころか、貴族同士の結婚だと国王の許可が必要なのです。平民なら好きな人と結婚できたはずなので、平民と貴族で異なる取り扱いをされていて平等ではありません。平民と貴族が結婚できないのも差別と言えるでしょう。

 とんでもない、と思われるかもしれませんが、日本でも戦後、日本国憲法ができるまでは、結婚時には戸主の同意がなければなりませんでした。民主的な日本国憲法の制定に伴い、憲法に反する民法の婚姻の規定が削除され、愛し合う二人の意思だけで結婚できることになった。皆さんが恋愛結婚できるのは、実は日本国憲法のおかげだったのです。

 日本国憲法の下であれば、オスカルも父親から結婚相手を押し付けられそうになることもなかったでしょう。アンドレとの結婚に反対されたら、駆け落ちをすればいいわけで、幸せになれたかもしれません。ただ、アンドレの愛に気づくまでには、様々な困難を乗り越えていかなければならなかったので、あまり簡単に認められていたら、結ばれなかったかもしれませんが……。

 ただ、現代の日本でも、皇族は簡単に好きな相手とは結婚できないようで、かわいそうだなと思うこともあります。皇室典範では、婚姻したら皇族の身分を離れるという効果だけが記載されていますが、そこに現れない様々な儀式もあるようです。駆け落ちをしたくてもできない皇族には、人権が保障されていないということもできるでしょう。

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筆者

内山宙

内山宙(うちやま・ひろし) 弁護士

1974年、愛知県生まれ。中央大学法学部卒、成蹊大学法科大学院修了。裁判所勤務の傍ら夜間の法科大学院に通い、2007年司法試験合格。08年弁護士登録(静岡県弁護士会)。静岡県弁護士会・憲法委員会委員、日弁連・法科大学院センター委員。エンタメ作品を題材とした憲法の講演を多数回開催している。著書に『これでわかった!超訳特定秘密保護法』(岩波書店・共著)、小説『未来ダイアリー もしも、自民党改憲草案が実現したら?』(金曜日)などがある。

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