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29時間で身につく「にわか韓国語講座」(10)

第3章 漢字語読みの「密かな法則」

市川速水 朝日新聞編集委員

第3章 漢字語読みの「密かな法則」
3.語尾・発音、ナゾの法則続々 4.日本語の「ん」が「ング」にならない法則

ナゾの法則が続々登場します!

 ヨロブン、アンニョンハセヨ!

 さあ、「にわかん」も中盤にさしかかっています。前回では、日韓でどうしてよく似た発音があるのか、そこには共通点があるのか、子音が共通している「子音同一の法則」を紹介しました。

 今回は、漢字語の語尾に焦点を当ててみます。語尾といっても、語幹に対応する語尾ではなく、一つひとつの単語の発音の最後に来る音という意味です。

1965年当時の釜山国際市場。「商会」とか「洋装」のハングルが見えます。遠くの方に「遵法性昂揚強調期間」と横断幕があるのが分かりますか?

 まず「ク」についてです。例えば日本語の語尾が「く」になる言葉は、韓国語の語尾でも「ク」が非常に目立ちます。

 ほかにも、「し」は「サ」、「つ」と「う」が「プ」という語尾になる傾向があります。見てみましょう。

①語尾が「く」から同じ「ク」に
六(ろく)→육(ユク) 各(かく)→각(カク) 国(こく)→국(クク)
核(かく)→핵(ヘク) 陸(りく)→육(ユク) 悪(アク)→악(アク)
築(チク)→축(チュク) 得(トク)→득(トゥク) 特(とく)→특(トゥク)
福(ふく)→복(ポク) 北(ほく)→북(プク) 若(にゃく・じゃく)→약(ヤク)
約(やく)→약(ヤク) 欲(よく)→욕(ヨク)
②音が「し」から「サ」に(語尾といっても1音しかありませんが)
史(し)→「サ」 死(し)→「サ」 事(じ)→「サ」 *全部「사」です。
③「つ」「う」が「プ」に
立(りつ)→입(イプ) 法(ほう)→법(ポプ) 入(にゅう)→입(イプ)

 これらは謎の法則なのです。とにかくいろいろ整理してみると、こうなるのです。

 まだまだあります。韓国語の身近さならでは、ですね。①と②の大部分は前回の「子音同一の法則」にも合致しています。

 このへん、「謎の法則」のおかげでこんがらがってきた方、軽く読み飛ばしてください。実は先週と今週は、法則を覚えることは重要ではなく、「なぜ発音が似ているのか」「こんなに似ているのか」を実感していただくため、また、知らない漢字語の読みを推測するための一種の「遊び」ととらえていただいてけっこうなのです。一つひとつの字の音読み、そして2文字、3文字の熟語に当たった時にどういう発想と道筋で日本語から韓国語に転換するか(あるいは逆に韓国語から日本語へ)のヒントが詰まっています。

 「読み飛ばしてもいい」と言ったら最初から読んでくれないでしょうから、このあたりまで引っ張りまくったわけです。どんな漢字語でも推測が可能で、推理と謎の法則を駆使すれば当たる可能性がかなり高いということを実証しているにすぎないのです。

 では、「読み飛ばし可」の法則を続けます。最後は、語頭も語尾もひっくるめた漢字語の「変な法則」を並べてみます。

④「かく」は「ファク」になりやすい法則
確(かく)→확(ファク)
拡(かく)→확(ファク)
*「各」は①の法則により「カク」です。
⑤フク・ボク反対の法則
福、服、複(ふく)→복(ポク) 北(ほく)→북(プク、ブク)
⑥語尾「た行」が「ル」に変わる法則
語尾が「た行」(特に「つ」)の時、「ㄹ=リウルパッチム」が付くことがあります。
説(せつ)→설(ソル) 一(いち・いつ)→일(イル) 八(はち)→팔(パル)
設(せつ)→설(ソル) 察(さつ)→찰(チャル)
札(さつ)→찰(チャル)室(しつ)→실(シル)
質(しつ)→질(チル)
⑦「ざい」「さい」と読む字は「チェ」になりやすい
再 財 在 才→재
最 崔→최        *「歳」「細」は세(セ)
⑧「こう」と読む字は「コ」になりやすい
高 稿→고

 ふう。疲れましたか?。

 語尾の法則のうち、さらに重要なものがあります。もう習い済みです。思い出してください。

 日本語の「ん」が「ング」になりにくい法則です。これは7週目でやりました。日本語の「ん」「ン」に当たるものがハングルでは3種類あるという話でしたよね。

 その「法則」を改めて確認してみましょう。

(1)日本語で「ん」と読む時には韓国語の「ング」にはなりにくく「ヌ」「ム」が多い。
(2)日本語で「い」「う」が語尾にくる時には韓国語の「ング」になることが多い。
(3)韓国語で「ム」になるのは、たいがいが日本語読みの「ん」の時だが、「ん」が「ヌ」になる言葉ほど多くない。

(1)の例
安、案(あん)→안(アヌ) 恩(おん)→은(ウヌ)
健(けん)→건(コヌ) 珍(ちん)→진(チヌ)
韓(かん)→한(ハヌ) 天(てん)→천(チョヌ)
金(きん)→김、금(キム、クム) 参(さん)→참(チャム)
感(かん)→감(カム) 点(てん)→점(チョム)
店(てん)→점(チョム) 南(なん)→남(ナム) 男(だん・なん)→남(ナム)
*例外  瓶(びん)→병(ビョング)
(2)の例
名(めい)→명(ミョング) 命(めい)→명(ミョング)
令(れい)→령(リョング) 慶(けい)→경(キョング)
寧(ねい)→녕(ニョング) 生(せい、しょう)→생(セング)
京(きょう)→경(キョング)
(3)の例=(1)の例と一部ダブります。
感(かん)→감(カム)  検(けん)→검(コム) 林(りん)→림 임(リム、イム)
三(さん)→삼(サム) 沈(ちん)→침(チム)

 習っていなくても読める漢字語が続々と手に入ります!

 さあ、今回の「とどめ」です。流し読みした方も、もう飽きた方も、ここからはどうぞ真剣に。これまでに羅列してきた漢字語を見ながら気がついた方が多いのではないかと思いますが、これらの法則をさらに細かく見てみると、「つくり」「へん」「発音」に共通点がある漢字同士は、韓国語の世界でも同じ読みをすることが多いのです。

 これは今、こう書いていても少しこんがらがるのですが。例を示しましょう。

 たとえば「方」と「訪」。日本語で両方とも「ほう」と読み、つくりも「方」で同じです。

 韓国語だと、ふたつとも방(パング)と読みます。

 次に「問」と「門」。日本語では、どちらも「もん」。韓国語では、どちらも문(ムン)なのです。
「動」と「働」。日本語音読みは「どう」。韓国語はいずれも동(トング)。

 ついでに東と棟(とう)も동(トング)。

 さらに、「同」と「動」は同じつくりやへんではないけれど読み方は「どう」。すると、韓国語も同じ「동トング」というわけです。園と円(えん)も形が違う「えん」なのに、いずれも원(ウォン)と読みます。

 どうです、不思議でしょう? この妙な法則は、言葉の「親」である中国語で似た読みをする漢字に集中しています。その流れで日韓の言葉も大きな影響を受けたのでしょう。

 さあ、このいろいろな法則を掛け合わせるとどうなるのか。習っていなくても読める漢字語が続々と手に入ることになるのです。

 例えば、「訪問」をどう言うか。こう発想します。

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