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小さな「ブルーウエーブ」で終わった米中間選挙

民主党の「青い波」はなぜ、大きくならなったのか?2020年大統領選の行方は

芦澤久仁子 アメリカン大学講師(国際関係論)及びジャパンプログラムコーディネーター

中間選挙の結果を受けてホワイトハウスで記者会見するトランプ米大統領=2018年11月7日、ワシントン中間選挙の結果を受けてホワイトハウスで記者会見するトランプ米大統領=2018年11月7日、ワシントン

民主主義の運命がかかる選挙

 「トランプ大統領の信任投票」、さらには「アメリカの民主主義の運命がかかる選挙」とも言われていた米中間選挙。投票から既に1週間近く経過しているのだが、最終結果が出てない議席がまだ15余りと、接戦区がいかに多かったことを物語っている。

 この原稿を書いている時点で、定数435議席の下院では、民主党が32議席増やして227議席を確保。過半数の218議席を十分に上回る形で下院を奪回した(まだ10議席の結果が出ていないのだが、そのうちの4議席は民主党が獲得すると予想されている)。

 一方の上院(定数100議席)では、共和党が2議席増やして51議席を確保し、多数派党の立場を維持。こちらも3つの選挙区でまだ結果が出ていないのだが、そのうちの2議席は共和党となる可能性が高い。

「大勝利」宣言のトランプ大統領、抑え気味の民主党

 トランプ大統領は選挙後すぐさま、ツイッターで「大勝利」宣言。一方の民主党側は、「下院奪回で勝利」「次に向けての大切な一手を決めた」など、抑え気味の声が目立った。

 こうした反応は、これまでの中間選挙の結果と比べてみれば、ある程度自然である。

 戦後行われた中間選挙(今回までで18回)で政権党が上院の議席を増やしたのは、わずか3回。それから考えれば、上院での2議席増加はトランプ共和党の立派な勝利と見ることが出来る。

 一方の下院選挙で政権党が議席を減らしたケースは、これまでの18回中の16回を占める。そして大統領の支持率が50%以下の場合、その政権党が失った議席数は平均で37。今回の選挙前のトランプ大統領の支持率が40%前後だったことを考えると、民主党の32議席獲得(最終的に36議席以上になる可能性が強いが)は、勝って当たり前の数字だった言える。

「ブルー・ウエーブ」は起きなかったのか?

 ということは、筆者がWEBRONZAの前回の論考「アメリカ民主党は本当に勢いがあるのか」で触れた「ブルー・ウエーブ」(民主党の青い波)は、結局起きなかったのだろうか?

 今回の投票結果をもう少し詳細に見ると、答えが見えてくる。

 まず、全国の投票数で見ると、民主党は共和党よりも500万票近く多くの票を集めた。2016年の大統領選での得票数差が約300万票(クリントン候補者が多く得票)だったことを考えると、今回の中間選挙における民主党への投票者たちは、共和党側に比べてより盛り上がっていたと言える。

ニューヨークタイムズによる下院選挙区の投票者動向の分析ニューヨークタイムズによる下院選挙区の投票者動向の分析(ニューヨークタイムズのHPから)
 また、ニューヨークタイムズによる下院選挙区の投票者動向の分析によると、選挙区内での民主党候補者支持の率が2016年の時よりも増加した選挙区は、全435区のうちの317区と、全体の7割以上を占めた。

 その317区には、もちろん今回共和党から民主党になった選挙区が含まれる。その中で民主党への振れが最も大きかったのは、ダラス市周辺のテキサス州第32区で、その増加率はなんと80パーセント近くに達する。共和党から民主党へひっくり返った選挙区すべてを平均すると、21パーセントの増加率だった。

 また、317区の中には、最終的に共和党候補者が勝った選挙区(現時点で198議席)のうちの171区も含まれる。これは、従来から共和党が強い選挙区の多くで、民主党支持が増えたことを意味する。

 ただし、共和党支持の比率が増えた選挙区も80区余り存在したので、全選挙区の平均では民主党支持の割合は約10パーセントの増加となる。それでも、全国レベルの民主党支持の割合は、2016年に比べて1割増えたことになる。

下院での民主党の勝利を受け、同僚議員らと喜ぶ同党下院のペロシ院内総務(右)=2018年11月7日、ワシントン下院での民主党の勝利を受け、同僚議員らと喜ぶ同党下院のペロシ院内総務(右)=2018年11月7日、ワシントン

州政府レベルでも重要議席を獲得

 こういった全国選挙区の数字に加えて、州政府レベルの結果も見過ごしてはいけない。

 今回の中間選挙では36の州で州知事選挙が行われ、これまで共和党知事だった州のうちの7州で民主党候補者が勝利した。この7州には、2年前の大統領選でトランプ支持基盤となったラストベルト地帯のミシガン州とウイスコンシン州、そして伝統的な保守派地盤のカンザス州も含まれる。貴重な勝利と言えよう。

 その結果、去年の秋のニュージャージ州とバージニア州知事選での民主党勝利を加えると、トランプ政権が誕生して以降、9つの州のトップが共和党から民主党へと動いたことになる。加えて、フロリダ州とジョージア州の州知事選で(両方とも現職は共和党)まだ最終結果が出ておらず、民主党知事がさらに増える可能性が小さいながらも残されている。

 同時に、州議会レベルでも民主党は議席を増やし、これまで共和党支配の州議会(合計33州)のうちの6州で政権党の立場を奪回した。

 ちなみに、これら州政府レベルの選挙結果は、国政選挙に直接の影響を持つ。連邦議会の下院の選挙区区割りは、それぞれの州政府の管轄であり、知事と州議会の少なくともどちらかを抑えることは、今後の選挙区割の際に非常に需要となるからだ。

禁じ手なしのトランプ選挙

中間選挙を前に最後の演説をするトランプ米大統領=2018年11月5日、米ミズーリ州ケープジラード中間選挙を前に最後の演説をするトランプ米大統領=2018年11月5日、米ミズーリ州ケープジラード

 このように見てくると、「ブルー・ウエーブ」は確かに起きていた、と言えるのだが、その波は、民主党に議席数の上での「大勝利」をもたらすまでの大きさには至らず、いささか中途半端な「小玉サイズ」で終わったのも事実である。

 その理由として、次の二つが考えられる。

 まずはトランプ大統領の選挙のやり方が、その是非は別にして、非常に効果的だった。上院での共和党勢力の維持に焦点を絞り、テキサス、ミズーリ、インディアナといった重点州を週末ごとに訪問。お得意の「移民攻撃」と「主流メディア攻撃」を中心に、支持者達の怒りと憎悪の感情を扇動し、盛り上げる作戦を徹底した。

 その作戦のためには、文字通り手段を選ばなかった。演説会場に大統領専用機「エアフォースワン」で乗りつけるパフォーマンスで盛り上げ、明らかに事実とは違うことも平然と繰り返し、支持者を煽(あお)り立てた。

 実際、ワシントンポスト紙のファクト・チェッカーによると、一回の選挙応援演説でトランプ大統領は、事実と異なる発言(例えば「民主党は急進的な社会主義者だ!」)を35回から45回もしている。これにツイッターやメディアインタビューを含めると、「嘘発言」は、中間選挙前の7週間で一日平均30回にものぼったそうだ。

 大統領就任から9ヶ月間での「嘘発言」は、1日平均で5回だったことを考えれば、中間選挙戦術として確信的に「嘘発言」を多用していたことは明らかである。

 ただし、今回の上院の改選対象35議席は、民主党現職にとって不利な州が相対的に多かったので、その点ではトランプ大統領はラッキーだったと言える。それでも、この「禁じ手無し」の支持者扇動作戦が、伝統的な共和党州における民主党「ブルー・ウエーブ」への防波堤の役割をしたのは確かであろう。

民主党には不利な選挙区構造

米中間選挙で投票用紙に記入する有権者ら=2018年11月6日、米メリーランド州シルバースプリング米中間選挙で投票用紙に記入する有権者ら=2018年11月6日、米メリーランド州シルバースプリング

 もう一つの理由として、下院選挙区が民主党にとって相対的に不利な構造になっていることがあげられる。

 民主党支持者が都市部に集中しているため、民主党が1議席を増やすためには、共和党に比べてより多くの得票数を獲得しなければならない。その状況が、最近行われた「ゲリマンダリング」と呼ばれる恣意(しい)的な選挙区割りのためにさらに悪化している、とされているのだ(ニューヨーク大学、Benjamin Center for Justiceレポート参照)。

 実際、今回の選挙での全体得票数では民主党が共和党を500万票近く上回り、その得票数差は最終的に5~6パーセント・ポイントの間と予測されている。この差で、民主党は下院の32議席増やしたわけだ。

 これを、オバマ政権下で共和党が大躍進した2010年の中間選挙と比べると、共和党の得票数は6.8パーセント・ポイントで民主党を上回ったのだが、その際、なんと63議席も増やしている。つまり、得票数差の比率は比較的近いのに、増やした議席は共和党が倍以上となっている。

 単純に比較することは出来ないが、民主党が議席を増やすには、共和党より多くの得票が必要なことが、この例からも浮かび上がる。

2020年の大統領選は?

 では、今回の中間選挙の結果を受けて、2020年の大統領選はどうなるのか?

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