西田 亮介(にしだ・りょうすけ) 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授
1983年生まれ。慶応義塾大学卒。同大学院政策・メディア研究科後期博士課程単位取得退学。博士(政策・メディア)。専門は情報社会論と公共政策。著書に『ネット選挙』(東洋経済新報社)、『メディアと自民党』(角川新書)、『マーケティング化する民主主義』(イースト新書)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
安倍晋三首相は10月開会した臨時国会で、自民党の憲法改正案を国会に提示する意欲を改めて強調しました。思惑通り改憲論議が加速するのか、見通しはまだ不透明ですが、もし数に物を言わせれば国民投票が実現するかもしれません。そのとき有権者は準備ができているのでしょうか。
朝日新聞は「フォーラム面」や「声欄」で、改憲を巡る読者の意見を募り、紹介してきました。ところが、若い世代からの反応はいま一つでした。私たちの呼びかけに反応がないのは、なぜなのか。政治とメディアの関係に詳しい西田亮介・東京工業大准教授(社会学)に聞きました。(聞き手 声編集部・吉田晋)
――若い世代に「一緒に憲法を語ろう」と呼びかけたのですが、投稿がほとんど頂けませんでした。
西田 憲法ができて70年以上の歳月が経過し、今の大半の世代が戦争も、戦後の護憲・改憲論争についてのリアリティーも当然のことながら理解できないでしょう。安保闘争しかり学生運動しかり、60年代末の世界的な反権力のムーブメントしかり。ちなみに80年代生まれのぼくも、経験的にはよくわかりません。
たとえば今の大学生は、東西冷戦が終わってから生まれた世代です。それどころか、90年代末生まれですから、地下鉄サリン事件やは9・11の時でさえ物心がついていなかったという、ごく基本的な事実が忘れられがちです。東西いずれかの陣営が理性を踏み外したら世界が破滅しうるんじゃないか、世界戦争に日本も巻き込まれるんじゃないか、というリアリティーを世界中が持っていた冷戦の時代は遥か彼方になり、現代の世界はもっと複雑になりました。
国家と非国家主体の間の緊張関係、世界の警察と思われてきたアメリカの地位の低下、そして中国の台頭。全体の構造がよく分からなくなってきていて、憲法をはじめ「戦後民主主義的なもの」を支えた共通感覚が自明じゃなくなっている、ということは言えるんじゃないでしょうか。であれば、主に年長世代の「常識」を前提にしてなされてきた、あるいはなされている憲法を巡るコミュニケーションが、若者との間に成立しがたくなったとしても何ら不思議ではありません。
論座ではこんな記事も人気です。もう読みましたか?