
共和党の集会で、トランプ大統領の演説中に声援を送る参加者=2018年11月4日、ジョージア州メイコン
10月30日(火) 時差調整がうまくできないまま、ホテルを午前12時にチェックアウト。フロリダに午後3時の便で移動する予定を変更して、トランプ大統領夫妻がシナゴーグ(ユダヤ教の礼拝所)を訪れる現場を取材し終わってから、ここピッツバーグにもう1泊してから早朝の便でフロリダに移ることにする。トランプ大統領を「歓迎しない」という住民たちの意思が昨日の取材で痛いほど伝わってきたからだ。
その判断は間違っていなかった。午後3時45分に空港着だから、このシナゴーグの現場に来るのは、午後4時半頃か。それまでにたくさんの市民たち、ユダヤ系の団体の人々らが献花や祈りを捧げていた。それらの市民たちが警備の警察官によって排除(Sweep)された。警察犬が到着している。爆発物処理車も到着した。ものものしい警備態勢が敷かれる。僕らメディアの人間も、所属と氏名を登録させられ、機材をプリセットして人間と警察犬によって徹底的に調べられ、人間の方は歩道上に行列を作らされて、一人一人、氏名所属確認とボディチェックを受ける。見渡すと、日本のメディアは僕ら以外には共同通信の記者が一人いるだけだ。数十人の記者、カメラマンが並んでいる途中、誰かが「これはフェイク・ニュース・グループの集合写真だぜ」とか冗談を飛ばしながらカメラで自撮りしている。
オートバイの先導でトランプ大統領とメラニア夫人が到着した。別の車には、娘のイバンカ氏と夫のクシュナー氏が同伴している。クシュナー氏はユダヤ教徒で、頭にユダヤ教徒の印であるキッパを着けている。ホワイトハウスの同行記者・カメラマンらが直前に到着した。トランプ氏は案内されるままにシナゴーグの中に入って行った。
僕らはその模様を規制線の最前列でリポートしていたのだが、横にいたCNNの中継クルーが機材用のバッグを置いて、勝手に自分たちの「領分」を宣言してきたのには腹が立った。若いCNNの女性記者が何やらまくし立てていたが、彼らにしてみれば、何でこんな場所にアジアの東京くんだりから来てリポートなんかしてやがるんだ、お前らに場所なんかないよ、というような感覚かもしれない。場所取りは生命線だ。
20分以上たってから外に出てきたトランプ大統領は神妙な表情で、夥しい数の花や11人の犠牲者をかたどった星型のオブジェの前をゆっくりと移動しながら、持参した白い花と石を供えていた。トランプ夫妻らがシナゴーグの現場にいたのはせいぜい30分ほどだった。ユダヤ教のしきたりに従って、「遺体を土に埋葬するまでは来てほしくない」という声が出ていたという。「ビル・ペドゥート市長やペンシルベニア選出の連邦議会議員らは大統領の弔問の現場には姿をみせていません。中間選挙の隙間を縫った形での弔問ということに反発があるようです」とのリポートを撮る。
その後、トランプ来訪反対の市民集会に回る。シナゴーグからそれほど遠くないはずだが、各所で警察が交通規制をしているので、現場にはギリギリの時刻に到着した。何と予想以上にたくさんの人々が集まっているではないか。「Words Matter」(言葉こそが重要だ)というプラカードが目につく。集会の最後の方で、ユダヤ人とモスレムの女子高校生が2人並んで、ヘイトを許さず共存を訴える宣言をヘブライ語も使って発言していたのが強く心に残った。ヒスパニックやアジア系の人々も目についた。大多数は白人だ。ピッツバーグという都市がデモクラッツの強い地域であることが体感できた。なるほどなあ、何事も来てみなければわからないことがある。