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人間にまで値札 外国人労働者拡大の危うさ

堤未果 国際ジャーナリスト

政府が触れない影の側面

 2014年3月、安倍政権は「毎年20万人の外国人受け入れ」の検討を開始。2014年10月には「風俗店従業員名簿から国籍記載義務をなくす内閣府令」を発動し、2016年5月には2020年までに外国人の就職率を30%から50%に引き上げる目標を閣議決定。2017年5月には、「移民50万人計画」を発表した。

 今回の入管法改正は、技能実習生についての新たな資格を増やす方針だ。3年間の実習を終えると在留資格が5年延長される「特定技能1号」という資格を得られ、さらに5年働くと「特定技能2号」に格上げされて、本国から家族を連れてきて無期限に在留資格を更新できるという。後者の受け入れ人数は無制限のため、今後移民人口の拡大は加速してゆくだろう。

 だが、ここには政府が触れない影の側面がある。

 劣悪な労働環境が海外からも問題視されている我が国の外国人技能実習生は、今年上半期だけで4279人も失踪しているのだ。失踪した彼らは、不法移民として日本社会に残る。

 資金の流れから見えてくるもの

 ニュースを多角的に見るもう一つの方法は、資金の流れを見ることだ。

 法案骨子によると、外国人労働者と直接雇用契約を結ぶ企業のほか、政府が税金から予算を入れ、支援計画の作成・実施を国から請け負う「登録支援機関」なるものがある。例えば、こうした一連の移民拡大政策を主導している政府有識者会議(国家戦略特区会議、経済財政諮問会議、規制改革会議など)の主要メンバーである竹中平蔵氏が会長をしている総合派遣ビジネスの株式会社「パソナ」もその一つ。登録支援機関である同社のグローバル人材部門は、アジア10カ国22拠点で外国人向けの就職相談窓口を精力的に展開している。

 ニュースを点でなく面で見る三つ目の方法は、世界の動きと照らし合わせることだ。2018年12月に発効予定のTPP11や、日本政府が締結を目指すRCEPなどの国際条約を前倒しで検証すると、何が見えるだろう?

米国を除く11カ国による環太平洋経済連携協定(TPP11)の関連法が可決した参院本会議=2018年6月29日拡大米国を除く11カ国による環太平洋経済連携協定(TPP11)の関連法が可決した参院本会議=2018年6月29日

 TPPの最大目的は、締結国ブロック内での「人・モノ・カネ」の自由な移動だ。2015年4月。かつてクリントン政権で政策顧問を務めた共和党の政治評論家リチャード・モリスは、TPP条約を「大量移民をもたらす条約」だとして警鐘を鳴らす論考を発表した。

 「TPPの条文の中には、移民規制を無効化し、締結国間の労働者に自由な移住を認める内容の項目が盛り込まれている。
 高度人材が中心になるかのように書かれているが、よく読むとそれ以外の労働者の移住も認められるような解釈も可能だ。
 批准すればEU創設時と同じパターンで、米国議会は無制限の移民流入に歯止めをかけられなくなる。そしてあっという間に1920年代以前に逆戻りしてしまうだろう」

 来月の条約発効までに国内法の整備を間に合わせることを考えると、重要箇所の不確定さや移民政策でないという総理発言の矛盾をいくら野党が追及しようが、政府が今国会で入管法改正をなんとしても急ぐ理由が腑(ふ)に落ちるだろう。

 中国主導のRCEPも、TPP同様、労働者の自由な移住を認める内容になっている。

 ことを急ぐ理由が国民向けのそれとは別なところにあるために、政府の説明のつじつまが合わなくなっているのだろう。

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筆者

堤未果

堤未果(つつみ・みか) 国際ジャーナリスト

東京生まれ。ニューヨーク州立大学大学院国際関係論学科卒業。国連、証券会社を経て現職。米国の政治経済医療教育農政エネルギーなど、現場取材と公文書による調査報道を幅広く手がける。2006年『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』で日本ジャーナリスト会議黒田清新人賞。2008年『ルポ・貧国大国アメリカ』(三部作、岩波新書)で日本エッセイスト・クラブ賞、2009年に中央公論新書大賞。多数の著作は海外でも翻訳されている。近著に『日本が売られる』(幻冬舎新書)。

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