旧米軍用地の原状回復に注がれた日本の129億円
日米地位協定の歪みを映す沖縄の現実。これは汚染処理や建物撤去に使われた氷山の一角
島袋夏子 琉球朝日放送記者
米国の原状回復義務を免除する日米地位協定第4条1項
沖縄防衛局によると、1972年以降、沖縄では351回に分けてアメリカ軍基地が返還された。
しかし、そのうち19事案でしか土壌調査は実施されていない(※他1カ所は近く予定、2018年8月10日現在)。理由は単純だ。長く軍用地の汚染について、関心を持たれていなかったのだ。
そのため、法整備は遅れ、結果としてほとんど調査もされないまま多くの土地が返還されていた。以下に示す資料は、1995年に返還特措法が施行されて以降、沖縄防衛局が返還軍用地で土壌調査を実施し、原状回復措置をとった土地だ。
最も原状回復費がかさんだのは、キャンプ瑞慶覧・西普天間住宅地区だ。
普天間基地の傍、西海岸が一望できる傾斜地には、青々とした芝が敷かれ、149棟の米軍人住宅が建っていた。庭には、遊具やバーベキューセットが置かれ、家族が団らんする風景も見られた。子どもの頃は、その前を通るたびに、自分が住んでいる狭いアパートに比べ、アメリカ人は贅沢な暮らしをしていると羨んだものだった。

琉球朝日放送提供
返還は2013年、アメリカ軍再編計画の一環で、日米合意された。再編計画には、普天間基地も含まれている。つまり、辺野古新基地建設と同じ文脈で語られているということだ。
2015年4月4日、返還式典に出席した菅官房長官は、次のように語っていた。
「安倍政権としては、沖縄の負担軽減を目に見える形で一つ一つ実現してまいります」
しかしこの土地からは、新たな負担の実相が見えてきた。土壌からは、環境基準を上回る鉛や油、そして発がん性が指摘されるジクロロメタンなどが検出されていたのだ。

西普天間住宅地区。149棟の米軍住宅が建っていた=2015年4月(提供:琉球朝日放送)
汚染された土壌の処理や、返還時にそのまま残されていた古い建物の撤去などに、日本政府は巨額な費用を投じていた。約51ヘクタールの土地の返還には、約65億1700万円が費やされていた。
多額の原状回復費を支払う背景には、日米地位協定の存在がある。日米地位協定第4条1項では、アメリカが土地を返還する際、原状回復の義務を免除している。
日本外交史の専門家で、沖縄国際大学法学部地域行政学科の野添文彬准教授は、1960年の安保改定時、日本側がアメリカに駐留を求めていたことを指摘する。その上で「日本側としては、基地が返還された後、元に戻してくださいという発言権が無いという構造になっていて、その構造の中に沖縄が置かれ、負担を負わされていることを土壌汚染問題は示しているのでは」と語る。