韓国の教育熱に確実に巻き込まれている私
「賢明なオンマ(お母さん)」になるプレッシャーに潰されそう!
藏重優姫 韓国舞踊講師、仁荷工業専門大学語学教養学科助教授
「賢明なオンマ(お母さん)」とは?
私が最近、気になるのが「賢明なオンマ(お母さん):현명한엄마」という言葉です。
テレビやラジオなど、色々な媒体や広告で「賢明なオンマは~~に行く」とか「~~を選ぶオンマが賢明なオンマ」というキャッチフレーズを耳にします。私は「賢明なオンマ」を「情報を早くつかみ未来を見据えて行動するオンマ」のことだと解釈しています。
あるお母さんは、自分の娘は国軍看護士官学校に入れて、看護将校になったらいいなあと語ります。パク・クネ前大統領の弾劾裁判で、セウォル号事件の時に彼女が何をしていたかという事も問題になりましたよね。その時、証言に立った看護師さんがいましたが、その方が看護将校に当たるのだそうです。
そのお母さん曰く、国家公務員のように安定していて、看護師さんよりは重労働でもなく、地位も有り女性の職業としてはとても良いという事でした。すごい先見の明であり、まさに賢明なオンマの一人です。
バドミントン・サークルの友達は、こうも言います。このイルサン(一山)からもカンナム(江南:高級住宅地で韓国の中では一番教育熱が高いと思われている)の塾までのシャトルバスが出ていると。
私たちの住んでいるイルサン(一山)はソウルの中心部を挟んで、カンナムとは正反対のところに位置し、しかもソウルの恐ろしい渋滞を考えると、そんな遠いところの塾に通わすなんて考えられませんが、賢明なオンマたちにとっては貴重な情報であり重要な選択肢の一つなのでしょう。
受験生を持つ母はPTAの係から除外される
私が韓国のお母さんたちの言い訳をするのも何ですが、大学進学を重視する社会の雰囲気にも驚くことしばしばです。
去る11月15日は「修学能力試験(日本のセンター試験に当たる)」でした。この日は、試験に遅刻しそうになった生徒をパトカーが試験会場まで送ってくれる光景など、日本でもニュースになることがありましたね。しかし、そうとは知らず車で通勤していた私は、ラジオから流れてくる交通情報に少し驚いたのです。
「今日は入試の日ですね。○時○分からは、英語の聞き取りのテストがあります。試験会場の周辺を通る車両は、パンパンとクラクションを鳴らしたりせず、いつもより気をつけて走行してください」
聞き取りの試験があることにもビックリしつつ、「やはり入試の日は社会全体がここまで協力態勢になるんだ」と改めて社会全体で重要な日であることを認識しました。
入試の終わった次の日、近くの公園には、こんな垂れ幕も見られました。
「受験生、学父母(保護者)の皆さん、お疲れ様でした」

ソウル市内の公園に張られた垂れ幕。「受験生、学父母(様)お疲れ様でした」と書かれている(筆者撮影)
「共に民主党」の都議会委員と市議会委員の連盟でメッセージが書かれてありました。また、PTAやバドミントン・サークルでも何かの係を決める時には、まず受験生を持つお母さんは係から除外されます。子どもの面倒で忙しく神経を使う大切な時期だからという配慮です。
このように周りをよく見てみると、日ごろから大学受験について意識することが多々あります。私ですらこんなに感じるのですから、ここで生まれて育ったお母さんたちならなおさらのことでしょう。
自分の経験にも照らし合わせつつ、少しでも先を行く、少しでも楽に受験できる方法を塾でも何でもいいから探そうとするのも理解できると思いました。賢明なオンマというキャッチフレーズ。うまく付けたなと感心します。
でも、最近私は、以前のような自信のある「自分は自分」ではなく、若干諦めや傍観者としての「自分は自分」になってきています。
先日、WEBRONZAの「日本人よ、韓国人よ、在日コリアンよ、私は私だ!」に、私はニュートラル(日韓の境界人)で、いつでも韓国人になれるし、いつでも日本人になれる!と書きました。しかし、私の幼い娘はまだまだそうはいきません。さらに韓国の大学に行くなら、ここの入試を克服しなければならないのですから娘にはニュートラルはないのです!