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政治学者が分析。大谷翔平が新人王を獲った理由

鈴村裕輔 名城大学外国語学部准教授

代名詞は「二刀流」

 大谷選手といえば、北海道日本ハムファイターズ時代の2016年にパシフィック・リーグの最優秀選手(MVP)に選ばれており、球界を代表する選手であったことは周知の通りだ。

本拠地初登板で好投したエンゼルスの大谷=2018年4月8日拡大本拠地初登板で好投したエンゼルスの大谷=2018年4月8日
 また、投手としても打者としても活躍する「二刀流」は大谷選手の代名詞であり、2017年12月にエンゼルスに入団することが決まってからは、大リーグでも「二刀流」として試合に出場するのか、投手か打者のいずれかに専念するのかという点が、日本だけでなく米国内でも大きく注目を集めたことも広く知られるところだ。

 その一方で、スプリング・トレーニングの際には、投打ともに大リーグへの適応に苦しみ、精彩を欠いていた大谷選手の様子から、「二刀流」に懐疑的な見解を示す関係者は少なくなかった。

 だが、投手として初登板した試合で勝利を収め、打者として2試合目の出場となった本拠地開幕戦で本塁打を放つなど、春先の不振を拭い去る活躍を示すと、「二刀流は無理」という意見は影を潜め、代わりに「投打でどれだけの成績を残せるのか」という点に注目が集まった。

新人王獲得は「二刀流」だったから

 右肘の内側側副靱帯の損傷で故障者リスト(DL)に入り、シーズンの3分の1を欠場することになった大谷選手が、最終的に残した記録は、投手としては10試合に登板して4勝2敗、防御率3.31、打者としては出場試合104、打率.285、22本塁打、61打点であった。

3試合連続となる本塁打を放つ大谷=2018年4月6日拡大3試合連続となる本塁打を放つ大谷=2018年4月6日
 奪三振数(63個)が投球回数(51.2回)よりも多かったことや、出塁率(.361)と長打率(.564)が「ヤンキース・デュオ」を上回ったことは評価に値するものの、シーズンを通して活躍できなかったこと、さらに「ヤンキース・デュオ」が打撃面でヤンキースの地区優勝決定戦進出の原動力となったのに対し、エンゼルスがアメリカン・リーグ西地区の4位に留まったことなどは、大谷選手にとって必ずしも好ましい結果ではなかった。

 それでも、大リーグ公式サイトの記者であるマット・ケリー氏のように「出場試合数が限られた中でも指名打者として2018年のアメリカン・リーグで最高の成果を示した」と、打者としての大谷選手の活躍を高く評価する声があるのも事実だ。

 くわえて、MLB公式サイトのエンゼルス担当記者のマリア・グアルダード氏が「電子機器のように精密」と表現した投手としての活動も見逃せない。

 大リーグ関係者の多くは、「大谷よりもよい打者も優秀な投手もいる。だが、大谷のようによい打者であり優秀な投手である選手はいない」という点で意見が一致している。すなわち、大谷選手は肘の故障のため、登板数こそ10試合であったが、10試合の中で人々に深い印象を与えることが出来たために、「ヤンキース・デュオ」よりも優れた活躍を示したと考えられたのである。

 すなわち、大谷選手は「二刀流」であったことで、新人王を獲得することが出来たと言えるだろう。


筆者

鈴村裕輔

鈴村裕輔(すずむら・ゆうすけ) 名城大学外国語学部准教授

1976年、東京生まれ。名城大学外国語学部准教授、法政大学国際日本学研究所客員所員。法政大学大学院国際日本学インスティテュート政治学研究科政治学専攻博士課程修了・博士(学術)。専門は比較文化。主著に『メジャーリーガーが使いきれないほどの給料をもらえるのはなぜか?』(アスペクト 2008年)、『MLBが付けた日本人選手の値段』(講談社 2005年)がある。日刊ゲンダイで「メジャーリーグ通信」、大修館書店発行『体育科教育』で「スポーツの今を知るために」を連載中。野球文化學會会長、アメリカ野球愛好会副代表、アメリカ野球学会会員。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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