2018年11月19日
11月13日、衆議院本会議で外国人労働者の受け入れ拡大に向けた出入国管理法改正案の審議が始まった。
目下、新しい在留資格で想定されているのは14業種、人数は最大約35万人。来年4月からの初年度で、受け入れ外国人は約4万8000人が想定されている。これらは二つの「技能」に分類されている。すなわち、強い知識や経験を求められない介護や飲食など12種の「特定技能1号」と、建設と造船の熟練した技能をもつ2種の「特定技能2号」だ。
推計されている人手不足数は初年度で約62万人、5年目までに約135万人とされる。もしこの数に合わせようとすれば、現在議論されている最大人数を受け入れたとしても、まるで不足している。
ただし、在留外国人の実数で言えば、2017年末は256万人、そのうち労働者は128万人とされている。つまり、5年間で最大人数の35万人を受け入れた場合、外国人労働者は27%増加することになる。
政府はこの法改正によって、来年4月から外国人労働者の受け入れ拡大を導入しようとしているが、立憲民主党など野党は制度設計が不十分なままで、時期尚早と強く反発している。
実際、現在の外国人技能実習制度をめぐっては、賃金の低さ、待遇のひどさなどに加え、勤務先を変えようとしてもできないなど、制度上の問題が多く報じられている。来日した外国人が失踪したり、自殺に追い込まれたりするケースが少なくないことも明らかになっている。
ただ、問題は技能実習制度にだけあるわけではない。
現在、外国人に関する諸制度には、自治体に丸投げになっているものが少なくない。
たとえば教育だ。
いまも公教育は学習指導要領に基づいて教科指導がなされているが、そうした文部科学省の政策の中には、外国人(および外国にルーツをもつ)の子どもに対する日本語教育のシステムは入っていない。各自治体の教育委員会や都道府県の教育部などが協力して、そうした子どもたちへの教育プログラムを開発し、独自に提供している。
たとえば、筆者が先ごろ取材した新宿区では、区と外郭団体が協力して、「日本語初期指導」「新宿区日本語学習支援」というコースを設けて、子どもの日本語習得を支援していた。総計で130カ国以上と日本でもっとも多様な国が集まる区だけに、スタッフには多数の母国語(中国語、韓国語、英語、スペイン語など)を扱える人がつき、基本的なコミュニケーションからはじめ、日本語での授業についていけるレベルにまでもっていくようになっていた。
ただし、こうした新宿のような多彩なプログラムを、財政や人的資源が限られるほかの自治体ですぐに提供できるかと言えばむずかしいだろう。
あるいは、医療や介護、年金といった社会保障制度。
現在でも、外国人が自治体に住民登録したり、会社に就職したりすれば、健康保険や厚生年金保険など社会保険への加入が必要になっている。それ自体は、相互扶助的に社会生活を送るうえで必要なものだろう。
問題は、こうした制度を“都合よく”利用する外国人が出つつあることだ。
今年7月にNHKが報じたケースでは、がんの治療で本来自費で200万円かかる医療費が日本の健康保険を利用したことで、本人負担20万円で済んだ60代の中国人女性が紹介されていた。彼女自身は労働や留学を目的に日本に来ていたわけではない。彼女の娘が日本人男性と結婚したあと来日し、娘の夫の扶養家族になっていた。日本人男性の扶養家族という形で日本の健康保険が使われて、安く医療を利用していたのである。
外国人が国民健康保険に加入し、半年以内に80万円以上の高額な医療を受けたケースは、2017年だけで1597件あったとされる。いずれも行政手続きだけで可能なケースで、自治体ではそうした不正に近い行為を防ぐのは、なかなか難しい。
番組で、葛飾区の職員は「聞き取りしても、『実は治療目的のために入国した』とは言わない」「もしそのようなことが頻繁に起こっているんだとすれば、何らかの手を打たなきゃならない」と強い懸念を語っていた。
要は、国が制度的に曖昧(あいまい)にしていた部分は、すべて現場=自治体に判断を任せてきたのが実態であり、混乱はそのままに放置されている。
そうした懸念を象徴するかのように、毎日新聞が行った50市町村へのアンケートでは、「外国人労働者の受け入れ拡大」に対して27自治体が「賛成」としつつも、「来年4月は時期尚早でさらに議論すべきだ」という選択肢を選んでいた。
一般の日本人も「受け入れ」に積極的とは言いがたい。
時事通信が10月に行った地域社会に関する世論調査(対面調査、男女2000人)では、入管法改正で「外国人労働者や移住者を積極的に受け入れる」と答えた人は14.6%にとどまった。
実際、これまで述べてきたように、諸制度が不十分な環境であれば、多くの人が不安を抱くのも無理はないだろう。
今回の国会では、もう一つ大事な視点が抜け落ちている。それは、どんな外国人をどのように集め、入国の際に国がどの程度関与するのかという、いわゆる「水際」の問題だ。
2002年春、大分県山香町(現杵築市)で、中国人の男子留学生数名が、身元引受人となった恩師の男性(73)を刺殺するという事件が起きた。当時筆者が現地で取材した際、犯行を行った留学生たちが所属していた大学は、いわゆるブローカーに留学生の募集を任せっぱなしだったことを認めた。ブローカーは、留学生の向学心はおろか志望動機なども確認せずに、「数を合わせていたのが実態に近い」とし、吉林省と遼寧省、福建省から多数の「留学生」を集めていた。
この事件に象徴されるように、1990年代後半から私立大学には、来日意図がややあやふやな「留学生」が多く増えた。背景には私立大学の経営不振があり、不足する学生数を埋めるために海外から粗っぽく人員を調達。その結果、素行不良の留学生たちが集まるという結果となっていた。彼らの中には東京の繁華街などに集まり、暴行や違法行為など問題を起こしていたものもいる。
そうした事情を知ってか知らずか、安倍首相は今国会で、永住権を得る資格として「素行が善良で、独立の生計を営むに足る資産や技能を有する」と説明。さらに「自動的に(永住権は)得られるものではない。ハードルは高い」と強調した。
外国人労働者の受け入れを拡大していくのであれば、どのような経路を通って、どのように人材が集められるかという入り口部分の制度設計を、もう少し丁寧につくりこむ必要がある。
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