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2島先行返還に潜むリスク

 56年宣言には国後・択捉への言及はない。4島返還にソ連が応じなかったからだ。当時は冷戦のまっただ中。日本は、ソ連との戦争状態を終わらせ、ソ連を盟主とする社会主義陣営から日本の国連加盟に支持を得るため、歯舞・色丹を「引き渡す」だけの明記で妥協した。

56年宣言に署名した日ソ交渉を終えて帰国した鳩山首相(中央)=1956年11月1日拡大56年宣言に署名した日ソ交渉を終えて帰国した鳩山首相(中央)=1956年11月1日
 だが、日本は56年宣言を平和条約とはしなかった。平和条約締結への努力を、残り2島の国後・択捉まで取り戻すためのテコとしてきた。換言すれば、日本は4島返還を求めるがゆえに、平和条約締結には踏み込んでこなかったのだ。

 その後、ソ連は米軍の日本駐留を理由に、領土問題については「解決済み」までいったん後退。だがソ連崩壊後の1993年、日本はロシアと首脳間で「東京宣言」をまとめ、「4島の帰属の問題を解決して平和条約を結ぶ」という目標を共有するところまでこぎつけた。

 こうした経緯をふまえると、安倍氏が「56年宣言を基礎」と強調し、平和条約締結を急ぐことに伴うリスクが浮かび上がる。すなわち、国後・択捉の返還をあきらめることにならないか。さらに言えば、安倍氏の「リーダーシップ」による今回の政治決断が大局観を欠き、国益を損じないかということだ。

 実際、これまで23回を数える安倍・プーチン両首脳の会談が熱を帯びる一方で、早くもそのリスクが顕在化している。

歯舞・色丹のハードルを上げるロシア

「56年宣言を基礎」にしたつばぜり合いはすでに始まっており、ロシアはハードルを上げている。日本は歯舞・色丹の返還を前提として国後・択捉の議論に持ち込みたいところだが、プーチン氏は、歯舞・色丹でまだ大いに議論の必要ありという姿勢を示しているのだ。

 安倍氏と会談した翌日の11月15日、プーチン氏は記者会見で56年宣言について、「(歯舞・色丹の)2島は『引き渡す』が、どちらの主権になるかは触れていない」と語った。

 例えば本土復帰前の沖縄は、主権は日本にあるが、米国の施政下にあった。そんなイメージをプーチン氏が抱いているかどうかは定かでないが、日本の立場からはほど遠い。菅義偉官房長官は16日の記者会見で「歯舞・色丹が返還されれば、当然日本の主権も確認される」とクギを刺した。

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筆者

藤田直央

藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)、日独で取材した『ナショナリズムを陶冶する』(朝日新聞出版)

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