メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

無料

プーチン氏が抱く懸念

 プーチン氏には、歯舞・色丹を日本に「引き渡」せば、そこで米軍が活動するのではないかという強い懸念がある。首相周辺によると、これまでの首脳会談でプーチン氏はそう語り、安倍氏は否定したというが、この問題は安倍氏とプーチン氏の信頼関係では済まされない難しさがある。

 というのも、日米安全保障条約6条で、米軍は日本国内のどこでも「極東の平和と安全」のために活動できることになっているからだ。日米地位協定2条は、米軍が使う施設や区域ごとに日本の同意が必要とは定めてはいる。だが、歯舞・色丹での活動に日本は同意しないということを、安倍氏の言葉だけでロシアは信用するだろうか。

 確実な保証は、日米間の文書で、「歯舞・色丹は安保条約6条や地位協定2条の例外」と確認することだが、それは日本にとって難しい。冷戦終結後も米国と様々な火種を抱えるロシアに配慮して日本国内で米軍の活動を制限すれば、日米同盟が揺らぎ、安保体制を弱めかねないからだ。

 56年宣言で「引き渡し」が明記されている歯舞・色丹をめぐってすら、交渉は難航しそうだ。そうなれば、明記されていない国後・択捉についても交渉の厳しさがさらに増すのは必至だろう。

国後・択捉は棚上げ?

日ロ両政府が認めるビザなし交流で択捉島を訪れた。散布山(1582メートル)をのぞむ草原=2016年7月、筆者撮影拡大日ロ両政府が認めるビザなし交流で択捉島を訪れた。散布山(1582メートル)をのぞむ草原=2016年7月、筆者撮影
「56年宣言を基礎に平和条約交渉を加速させる」(安倍氏)場合、国後・択捉に関するリスクは何か。前述のように、両島の帰属をめぐる議論が棚上げされて返還の望みがほぼ絶たれるか、日本がかなりの譲歩を迫られるか、である。

 現在、日ロともに国後・択捉の主権を主張しているが、実効支配しているのはロシアだ。日本が解決を急げば、よくて痛み分け、悪ければロシアに有利な形で決着することになるだろう。

 もし国後・択捉の帰属が日本に有利な形で決まるとすれば、それはプーチン氏が中国の浸透を懸念する極東・シベリアでの開発で、日本が支援に踏み込むなど、北方領土以外の分野で日本がロシアにかなり譲った場合の見返りとしてだろう。

 手っ取り早いのは、「56年宣言を基礎」にすると強調する一方で、「4島の帰属の問題を解決して平和条約を締結する」という93年の東京宣言の「解決」の解釈を緩めることだ。平和条約締結で歯舞・色丹は「引き渡」され、国後・択捉はすでに合意済みの共同開発を進めながら継続協議にするといった手が考えられる。

 しかし、その手には反論が噴出するだろう。「それなら56年に平和条約が結べたではないか。60年以上も続けた外交努力は何だったのかということになる」と。対ソ・対ロ外交に腐心してきた外務省幹部らがずっと語ってきたことだ。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


関連記事

筆者

藤田直央

藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)、日独で取材した『ナショナリズムを陶冶する』(朝日新聞出版)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

藤田直央の記事

もっと見る