2018年11月23日
トランプ米大統領がツイッターでマクロン仏大大統領を攻撃、米仏関係が悪化して大騒ぎだ。ただ、実は両国は一度も交戦したことのない“永遠の同盟国”。アメリカがフランスに不満、不平を抱いての罵詈(ばり)雑言も今に始まったことではない。今回の関係悪化も一種の「イヌも食わない夫婦げんか」の感じがしないでもないが、実態はいかに。
「米国とフランスは同盟国だったし、今後も同盟国であるべきだし、他の事は聞きたくないし、ツイッターに答えるつもりはない」
マクロンは11月14日の仏テレビとの会見でこう答え、トランプの一連のツイッター攻撃をかわした。
11月11日の第1次世界大戦の休戦記念日100周年式典に出席のためにフランスを訪れたトランプは、訪仏前の9日にまず、マクロン提案の「欧州軍」創設構想を、「侮辱的な話」と非難。「欧州は北大西洋条約機構(NATO)に公平な分担を支払うことが先決事項」と指摘した。帰国後の13日にも、マクロンの「低支持率(26%)」や仏の「高失業率」をあげつらい、仏ワインの貿易慣行は「不公正」と攻撃を続けた。
マクロンは「欧州は、中国、ロシア、米国から自らを守る必要がある」として「欧州軍」創設構想をぶち上げ、トランプの逆鱗(げきりん)に触れたわけだが、TV会見では、「『欧州軍』の目的は、仏独中軸の統合欧州としての戦略的自衛」と弁明。「(米国を含む)他国に頼らずに我々が自衛するため」と述べ、米国などの他国が、欧州のためにいつも戦うとは限らないと指摘した。
マクロンが11日の式典で行った「ナショナリズム」批判も、トランプは自分の「米国一国主義」を批判されていると受け取り、癇にさわったようだが、多分、式典におけるマクロンの演説全体に苛立(いらだ)ったに違いない。同日午後にあったパリ市内での「平和に関するパリ・フォーラム」をすっぽかして、予定外のパリ郊外の米兵墓地を訪問した。ただ、これには、前日にパリから約100㌔のベローの森の米兵墓地訪問を、「悪天候でヘリが飛ばない」との理由でドタキャンし、米メディアから非難轟々(ごうごう)だったことへの埋め合わせの意味もあったらしい。
マクロンは式典での約20分の演説で、休戦の日の情景を劇的に描写したほか、詩人アポリネールの負傷や作家シャルル・ペギーの戦死、義勇兵として参戦した作家ジョセフ・ケッセルやアメリカ人作家ジュリアン・グリーンが弱冠17歳で米赤十字で働いたことなどに言及したが、多分、トランプにとっては、初めて聞く名前もあったかもしれない。
大半のフランス人を感動させた演説――マクロンだけでなく、古今東西の歴史や古典の引用などをちりばめた演説をよし、とするのがフランスの伝統だからだが――は、実利主義のアメリカ人にとっては、「クダラナイ」「タイクツ」「キザ」だったかもしれない。トランプも内心、「なにがアポリネールだ、何者だ。変な名前だ」と思ったかもしれない。
これはもう、マクロンとトランプという個人の問題でも、フランスとアメリカのどっちが良いとか悪いとかいう話でもない。米仏の「文化の相違」としか言いようがない話だ。過去、この「文化の相違」が何度、繰り返され、米仏関係悪化が喧伝(けんでん)されたことか。
米仏関係が最悪になったのは、2003年のイラク戦争の時だ。フランスが参戦せず、アメリカはカンカンだった。今回と異なり、時の大統領ブッシュだけでなく、アメリカが国をあげてフランスを非難した。フランス製品のボイコットだけでは気がすまず、レストランのメニューから「フレンチ・フライ」の名称が消え、「フリーダム・フライ」に変わった。
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