山口 昌子(やまぐち しょうこ) 在仏ジャーナリスト
元新聞社パリ支局長。1994年度のボーン上田記念国際記者賞受賞。著書に『大統領府から読むフランス300年史』『パリの福澤諭吉』『ココ・シャネルの真実』『ドゴールのいるフランス』『フランス人の不思議な頭の中』『原発大国フランスからの警告』『フランス流テロとの戦い方』など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
マクロンは式典での約20分の演説で、休戦の日の情景を劇的に描写したほか、詩人アポリネールの負傷や作家シャルル・ペギーの戦死、義勇兵として参戦した作家ジョセフ・ケッセルやアメリカ人作家ジュリアン・グリーンが弱冠17歳で米赤十字で働いたことなどに言及したが、多分、トランプにとっては、初めて聞く名前もあったかもしれない。
大半のフランス人を感動させた演説――マクロンだけでなく、古今東西の歴史や古典の引用などをちりばめた演説をよし、とするのがフランスの伝統だからだが――は、実利主義のアメリカ人にとっては、「クダラナイ」「タイクツ」「キザ」だったかもしれない。トランプも内心、「なにがアポリネールだ、何者だ。変な名前だ」と思ったかもしれない。
これはもう、マクロンとトランプという個人の問題でも、フランスとアメリカのどっちが良いとか悪いとかいう話でもない。米仏の「文化の相違」としか言いようがない話だ。過去、この「文化の相違」が何度、繰り返され、米仏関係悪化が喧伝(けんでん)されたことか。
米仏関係が最悪になったのは、2003年のイラク戦争の時だ。フランスが参戦せず、アメリカはカンカンだった。今回と異なり、時の大統領ブッシュだけでなく、アメリカが国をあげてフランスを非難した。フランス製品のボイコットだけでは気がすまず、レストランのメニューから「フレンチ・フライ」の名称が消え、「フリーダム・フライ」に変わった。
当時、フランスはイラクに「大量破壊兵器あり」とするアメリカの開戦理由を疑問視したほか、軍事介入を認める国連決議がないことを不参加の大きな理由に挙げた。歴史を尊重するフランスは、国連決議がないと、後世から「正義の戦争」とみなされないことを危惧し、勝ち目なしと踏んだのだ。ちなみに、1990年代初めの湾岸戦争の時は、
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