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企業主導型保育所の「突然の休園」で見えたこと

保育士が一斉退職。世田谷区はどう動いたか

保坂展人 東京都世田谷区長 ジャーナリスト

 

拡大写真と本文は関係ありません

保育士が一斉退職、突然の休園

 世田谷区で、突然の「保育園休園」という話が飛び込んできたのは10月末日のことでした。

「上北沢にある企業主導型保育所で、保育士が一斉退職するということで、明日から休園すると連絡がありました」

 区の保育認定・調整課長が息せき切って区長室に飛び込んできたのです。次の日から転園できる保育園があるのかどうか、大至急の照会作業が始まりました。

 この保育運営事業者は、近隣の下高井戸に企業主導型保育所を運営しているので、当面は上北沢の子どもたちも下高井戸で受け入れるという話でしたが、翌日11月1日になると、この下高井戸の保育所でも保育士等が一斉退職することがわかりました。

 困惑する保護者から区に相談が入り、すぐに預かることの可能な保育所を紹介する等、緊急対応に追われました。下高井戸にある保育所は預かる子どもの規模を縮小して存続しています。(11月20日現在)

保育士の一斉退職、企業主導型で相次ぐ 世田谷で休園も(2018年11月2日 朝日新聞)
 企業主導型保育所は2016年度に創設。保育士の配置基準や保育室の面積などは、認可より緩いが、一定の基準を満たせば、認可並みの助成金が出る。審査や指導を担う公益財団法人「児童育成協会」によると、今年3月末の時点で、全国の2597施設(定員5万9703人分)に助成が決まっているという。
 同協会によると、同区上北沢の保育所で10月末、保育士ら7人が一斉に退職し、1日から休園。同じ会社が運営する同区赤堤の園でも11人が退職した。協会の調査に対し、職員らは「給与未払いがある」と話したという。区の職員が1日に現地で確認したところ、臨時の職員が数人を預かっている状態だった。

 企業主導型保育は、認可保育所とは異なり、「自治体の関与を必要としない」ところに制度的特徴があります。保育所運営事業者は認可外保育所として都道府県に届けた上で、補助金等の助成申請の窓口は自治体を関与させず、「児童育成協会」となります。

 ところが、「保育士一斉退職で休園に 世田谷区」「世田谷区は関与せず」等と報道されると、制度を認識していない多くの区民からの誤解を招き、苦情の声も出てきました。「突然の休園なのに、区が関与しないとは何事だ」「保育所の監督に熱心ではなく逃げの姿勢はおかしい」との批判です。

 次の記事が、企業主導型保育と自治体の関与について解説しています。

緩い設置基準×自治体無関与 代償は子どもに(2018年11月7日 東京新聞)
 (企業主導型保育所は)都道府県などへの届け出だけで原則、審査を受けずに設置できることや、保育士資格者が半数でよいなど認可保育所に比べて基準が緩いにもかかわらず、運営費などが認可並みに助成されるため、助成金目当ての参入や、保育の質に対する懸念が導入当初から指摘されていた。実際、制度を所管する内閣府から委託された「児童育成協会」が17年度、800カ所を調べたところ、76%で保育計画などに不備があった。今回のトラブルでは、自治体や公的機関が保育内容に責任を持たず、突然の休園という事態を食い止められない構造が浮き彫りになった。

 「待機児童対策の切り札」として、2016年からのわずか2年間で、2597カ所(定員6万人分)と急膨張した企業主導型保育所ですが、政府はさらに2020年までに定員の倍増をはかろうとしています。

 今回、世田谷区で起きた事態は、決して偶発的なものではなく、制度設計が生んだ構造的なものではないでしょうか。国会でも、議論が始まろうとしていました。

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筆者

保坂展人

保坂展人(ほさか・のぶと) 東京都世田谷区長 ジャーナリスト

宮城県仙台市生まれ。教育問題などを中心にジャーナリストとして活躍し、1996年から2009年まで(2003年から2005年を除く)衆議院議員を3期11年務める。2009年10月から2010年3月まで総務省顧問。2011年4月より世田谷区長(現在3期目)。 著書:「相模原事件とヘイトクライム」(岩波ブックレット)、「脱原発区長はなぜ得票率67%で再選されたのか?」(ロッキング・オン)、「88万人のコミュニティデザイン 希望の地図の描き方」(ほんの木) 近著に「〈暮らしやすさ〉の都市戦略 ポートランドと世田谷をつなぐ」(岩波書店2018年8月)、「子どもの学び大革命」(ほんの木2018年9月)他

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