書類審査のみ。「すべてが初めて」の事業者も
11月13日に、立憲民主党の「子ども・子育てプロジェクトチーム」に私が招かれ、今回の問題の背景にある「企業主導型保育」の制度的問題点について話をする機会がありました。冒頭で、私が強調したのは、「保育は誰のためにあるのか?」というシンプルな問いかけです。
企業主導型をめぐる議論の土俵には「女性の就労環境をよくするため」「企業の人材確保のため」等の言葉が飛び交いますが、私たちは「子どもの成長と発達を支援するため、子どもの生命を守り育む」ことを第一義に置いています。
世田谷区では「保育の質ガイドライン」(2015年3月)を策定し、公開しています。世田谷区内で、認可保育所等の運営に参入しようとする事業者がすでに開設している保育所に外部の有識者を含む事前審査チームが出向いて「子どもの立場を尊重した保育の質が保たれているかどうか」を評価する基準としています。
たとえば、「保育環境」に関してはこんな記述があります。
保育施設は子どものための施設であり、子どもが快適に心地よく生活できる環境を整えることが大切です。
少人数や一人でじっくりと遊びこむことができる環境、ホッと一息つくようなくつろげる環境、友達と一緒に思いきり身体を動かすことができたり協同した活動ができる環境など、子どもが長時間生活する場として静と動の両方の環境を保障し、人と人との関わりを育むことのできる保育環境を構成します。
そして、保育内容を評価する項目を並べています。保育所の中に入り、保育のあり方をガイドラインにもとづく事前審査によって、参入希望の事業者でも、「保育の質」に問題があったり疑義があれば認めていません。
さらに、事業者の財務内容のチェックは念を入れて行います。専門家の分析から「破綻の可能性」のみならず「改善を要する」と判断された事業者も選定しません。こうして、運営途上での保育所での事故や経営破綻のリスクをあらかじめ排除しているのです。
ひるがえって、企業主導型保育ではどうでしょうか。
助成申請先の児童育成協会は書類審査のみで、実地調査はありません。また、保育事業者としての「実績」も求めていないので、すべてが初めてという事業者もあります。「企業主導型保育」で検索すると、たくさんの企業主導型保育の助成申請から保育士募集、運営までを支援するコンサルタントのサイトが上位に出てきます。開園後の運営能力に疑問符がつく保育事業者でも、申請書類の作成技術にたけたコンサルの腕で審査をパスすることも容易なのではないかと想像がつきます。
続いて11月15日には、参議院内閣委員会で日本共産党の田村智子議員が、企業主導型保育所の実態について取り上げました。すでに、「助成取り消し」や「破産手続き」に入っている事例があることを挙げて、内閣府に現状の認識を質しました。内閣府の宮腰光寛大臣は「定員はどの程度充足をしているのか。保育の人材確保はどうなっているか等、利用実態の把握についてはこれまでしっかりと対応できておらず、不十分であると言わざるをえない状況にあります」と調査の準備をすると答弁しました。
また、立憲民主党の相原久美子議員に対しても、宮腰大臣は「事業の適切な運営を図るためには、実施体制の強化を図ることが急務であると考えております」と答弁しています。