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「ベルばら」で差別と平等を考えてみた

エンタメ を楽しみながら、日本国憲法のエッセンスを体得する(3)

内山宙 弁護士

平民と貴族は結婚できないの?

ベルサイユのばら=©池田理代子プロダクション 拡大ベルサイユのばら=©池田理代子プロダクション
 この他にも、「ベルサイユのばら」では、不平等な出来事が起こる場面がいくつか出て来ます。

 前回はあまり触れなかったのですが、平民は貴族と結婚できないということで差別されていました。そのため、アンドレはオスカルとの結婚が許されず、オスカルの影として生きることを決意するのでした。二人が愛し合っていても、平民が差別をされて結婚を許されないという差別、不平等があったということなのです。

 その後、アンドレはオスカルの父親から「お前が貴族だったら良かったのに」と言われるほど認められるようになるのですが、やはり結婚は認められませんでした。最後の方で、オスカルが貴族の地位を捨てることになって、ようやく結ばれることになるのです。

 一方、オスカルが近衛隊から転属した衛兵隊には、貴族出身のアラン・ド・ソワソンという兵士がいました。アランにはディアンヌという妹がいて、ディアンヌは他の貴族との結婚が決まりました(ディアンヌも一応貴族なのです。)。ところが、結婚相手の貴族は、小金に目がくらんで平民の金持ちの娘と結婚してしまい、ディアンヌは世を儚(はかな)んで自殺してしまったのです。ということは、貴族でも平民の娘と結婚できたわけです。

 この辺りの違いはどう整理をすればよいのか、「ベルサイユのばら」を読むだけではちょっとよく分かりません。実は、貴族でも平民の女性と結婚した事例自体はありました。ただ、結婚してもその女性は貴族としては扱われなかったり、子孫が王位継承権を得られなかったりするということがあったのです。

 ルイ14世自身、平民の女性と秘密裏に結婚していたという話もあったりします。一番有名なのは、イギリスのエドワード8世とウォリス・シンプソンの結婚でしょうか。離婚歴のあるアメリカ人女性との結婚が周りから受け入れられず、エドワード8世は国王を退位して、結婚することになりました。このような事例から見る限り、貴族と平民の結婚はできないことはないけれども、結婚相手は貴族とは扱われないし、周りの理解が得られない場合には、貴族の地位を捨てないと結婚ができなかったということになるでしょうか。

 それにしても、子どもは親を選ぶことはできないわけで、親がどのような結婚をしたかによって扱いが違ってしまうのは不平等ですよね。日本でも、非嫡出子の相続分が嫡出子の半分という民法の規定が、平等原則に反して違憲無効であると判断されたことがあります。もっとも、そもそも貴族制度自体が平民との身分差別ということで平等原則違反でもあります。日本国憲法は、貴族の制度を否定しています(14条2項)。

貴族の中にも差別があった

 さて、前出のアランですが、一応貴族の出身です。しかし、貴族であるにも関わらず、一兵卒として衛兵隊の兵士をしていました。それを不思議に思ったオスカルが、『お前ほどの腕があれば少尉に戻ることも、それ以上に昇進することも可能だろうに』と聞いたところ、アランは、4代続いて貴族でないと役職に就けないという「1781年の規則」があるからダメなのだと答えました。

 これは、大貴族が役職を独占するために作った規制でした。つまり、同じ貴族の中でも、先祖代々の貴族とそれ以外の貴族を差別していたということになります。ただ、この規則が出された年に着目すると、フランス革命の8年前です。差別に差別を重ねて貴族が自分たちの地位を安泰にしたつもりが、革命で崩壊してしまうのです。

 ここで、ちょっと解説が必要なのですが、なぜ「4代続いて貴族」が条件になるのか、です。貴族というのは、先祖代々貴族なのではないかと疑問に思われるかもしれません。実は、当時のフランスでは、お金を積めば法服貴族の地位を得ることができたのです。国家財政が深刻な赤字を抱えていたこともあって、それを補うために官職が売られたという側面もありました。この地位は相続することができたようで、「何代か続けて貴族」が起こるのです。これに対し、昔から代々封建領主だった貴族は「帯剣貴族」と呼ばれていました。

 さて、このような差別的な規制は、日本国憲法だとどうなるでしょうか。日本国憲法14条では、「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」とされ、差別が禁止され、平等であるべきという原則が示されています。家柄とか、何代続いた貴族かどうかで差別するのは「門地」による差別ということになりますので、1781年の規則のようなものは、平等原則に違反し違憲無効になります(もちろん、貴族制度自体が憲法違反なのですが)。

 仮に、現代の日本で、4代続いた自衛官でなければ、自衛隊で高い役職には就くことができないなどという規則があったとしたら、有能な自衛官が昇進できず、無能でも親のおかげで高い役職に就く自衛官が出てくることになります。そのようなことで国が守れるでしょうか。あるいは、4代続いた代議士の家系でなければ国会議員になれないとなったら、世襲でしか議員になれず、有能な議員が出てこず、日本の将来は暗いものになるでしょう(もっとも、今でも世襲議員がかなり多いのが現状ですが)。そのようなことでは、有能な人材がやる気をなくしてしまうことも考えられます。

 最近では、親が医師だと医学部の入試で優遇されたり、女性だと男性よりも高得点を取らないと合格できなかったりするという差別があることが発覚しました。「生まれ」や性別という自分の力ではどうにもできないもので冷遇されたり、優遇されたりということがまかり通る社会では、努力する気にもなれず、社会は発展しないのではないでしょうか。

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筆者

内山宙

内山宙(うちやま・ひろし) 弁護士

1974年、愛知県生まれ。中央大学法学部卒、成蹊大学法科大学院修了。裁判所勤務の傍ら夜間の法科大学院に通い、2007年司法試験合格。08年弁護士登録(静岡県弁護士会)。静岡県弁護士会・憲法委員会委員、日弁連・法科大学院センター委員。エンタメ作品を題材とした憲法の講演を多数回開催している。著書に『これでわかった!超訳特定秘密保護法』(岩波書店・共著)、小説『未来ダイアリー もしも、自民党改憲草案が実現したら?』(金曜日)などがある。

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