第4章 必要な「固有語」と「音変化」 2.固有数字「ハナ、トゥル…」
2018年12月01日
アンニョンハセヨ!
日本語で「イチ、ニ」と「ひとつ、ふたつ」という2通りの言い方があるのと同様、韓国語も数の数え方が漢字語と固有語の2通りあります。これを覚えておかないと、待ち合わせの時間を間違ったり買い物で損したりすることになります。
まず、漢字語は「一(イル)、二(イ)、三(サム)、四(サ)、五(オ)、六(ユク)、七(チル)、八(パル)、九(ク)、十(シプ)」と、日本語と何となく対応していますね。九はまったく同じ、ほかも「子音同一の法則」(9回目、10回目を参照!)で想像がつく数字が多いのではないでしょうか。
一方で「ひとつ、ふたつ」の方は、日本語と同様、法則がないので、とりあえず「ハナ(ひとつ)、トゥル(ふたつ)…ヨル(10個、「とお」ですね)」と呪文のように唱えて覚えましょう。日本の小学生が九九を覚えるように理屈抜きに。これらは固有語の中でも数詞なので、「固有数詞」と呼ばれます。
漢字語の「イル・イ・サム・サ・オ・ユク・チル・パル・ク・シプ」と固有数字をセットで覚えると使い分けが早そうです。
固有数詞を表にしてみると、こうなります。
「ひとつ」のハナは聞いたことがあると思います。日本語でも「ハナから信用できない」という風に、一番先頭みたいな意味で使うのと通じていますね。
「ふたつ」は、英語の「トウ-」を思い出して、「セッ」は「サード」を思い出して…と必死で関連づけようとしても、四つ以降は難しいでしょうね。指折り数えながら覚えるしかありません。
この表、実はけっこう難しいんです。
まず、下の段を見てください。固有数詞は1~10だけでなく、20台から90台まで、十の位ごとにあります。ちなみに「100」は固有語でなく「百」の漢字語読みです。
日本語で10以上の固有数字はありますか? 考えてみると少しありますね。
20歳のことを「はたち」と言います。30歳代のことを「三十路(みそじ)」と言ったりもします。アラフォー? これは違いました。「20台以上の固有数字」という日本にない考え方を覚えようとすると、気分的にすごく疲れそうですが、ここはあまりご心配なく。
というのは、この数の多い固有数字は、ほぼ年齢だけにしか使われません。ご自分の年齢が35歳だとすれば、「ソルヌタソッサル(サル=살は歳の固有語)」とまず覚えましょう。余裕があれば、身近な人、50代とか20代とかに広げていきましょう。自分のことは「サムシプ・オ・セ」(セは歳の漢字語読み)というよりも「ソルヌタソッサル」と言えた方が、若干格好がいいと思います。
韓国人も、外国人がこの数え方を苦手だと承知しているので、わからなくても漢字語に言い換えてくれます。…って妙に断定的ですが、少なくとも私は経験上そう思っています。
私自身、いまでも苦手ですし。ヨソッ、イルゴプ…と頭の中で指折り数えてしまいますし、インタビューしたお年寄りから「ヨドゥン…」とか聞くと、「パルシプ…ですね」と念を押さないと不安になってしまいます。逆に取材でおじいさんから「イェスヌ・イルゴプサル(67歳)」と言われて私がけげんな顔をしていれば、「ユクシプ・チルセ」などと言い換えてくれます。それほど心配ありません。買い物でも使おうとすれば使えますが、漢字語の世界で用は足ります。
さて、一覧表に戻ってください。八つのところで、パッチム(終声)が二つあるのにお気づきでしょう。左上に子音、右上に母音、下にパッチム二つと計四つの部品があります。
恐ろしいですね。このコーナーで、2文字から成る終声は初めてお目にかかったのではないでしょうか。こんなことが許されるのか! どう読んだらいいのか? と私は最初に見たとき、途方にくれました。そのうちに分かったことは2点。
まず、終声が2つあるタイプは無限にあるのではなく、計11種類であること。また、二ついっぺんに読むのは不可能なので、どちらかを読むこと、です。右側を読んだり、左側を読んだり、原則はなく文字によります。「八つ」の場合、「ヨドル」と左側を読みます。2文字の終声は固有語に特有で、漢字語にはありません。
日常で最も使われるのは、圧倒的に「없다(オプタ)=無い」と「많다(マヌタ)=多い」でしょうね。
反切表(日本の五十音に相当)とか、子音と母音の数とか、ハングルは「数」に圧倒されがちですね。ところが、「実際にどれだけ使われているのか」を調べていくと、どんどん少なくなります。下につくパッチムも、すべての子音・母音が使われるわけではありません。実はパッチムとなる可能性のある文字は19の子音のうち16種類。その発音をグループ分けすれば、「ク」「ッ」「ル」「プ」、あとは3種類の「ン」(ヌ、ム、ング)の計7種類だけです。
では、子音が二つならんでいるパッチムはどうでしょう。
理論上は、「ㄲ 」「ㅆ」など同じ子音が二つつながっている子音を含めて14文字×14文字=196種類あってもいいのですが、実際は11種類しかありません。私が数えたわけでなく、辞書などの受け売りです。誰かが全部の言葉を吟味してくれたのでしょう。ありがたや。11種類しかないのですから、いくつかの言葉を列挙してみます。2文字のパッチムのうち左右のどちらを読むかも示しています。
ㄼ 여덟(固有数字の八 ヨドル 左) 넓다(広い ノルタ 左)
*ㄼ 밟다(踏む パプタ 右)
ㅄ 없다(ない オプタ 左)
ㄵ 앉다(座る アヌタ 左)
ㄶ 많다(多い マヌタ 左)
ㄺ 읽다(読む イクタ 右) *「読んで」は읽고(イルコ、左)
ㄻ 닮다(似る タムタ 右)
ㅀ 끓다(沸く クルタ 左)
ㄾ 핥다(なめる ハルタ 左)
ㄳ 넋(魂 ノク 左)
ㄽ 외곬(一途 ウェゴル 左)
ㄿ 읊다(吟ずる ウプタ 右)
最後の四つは実生活ではほとんど見たことも聞いたこともありません。逆に上から七つは頻繁に使います。「*」は、同じパッチムの形でも単語によって左も右も読む場合があるということです。
全体を見ると左側を読む方が多いですね。ただ、読まない片方に意味がないわけではなく、後に言葉が続く時には合わせて読みます。「ないです」は「オプソヨ」ですが、なぜ「ソ」が出てくるのかといえば、パッチムの右側(ㅅ)をつなげて読んでいるからです。
表記は「없어요」ですが、発音は「업서요」となります。
「お座りください」を「アヌジュセヨ」といいますが、その「ジュ」も単体では読まないですが、つなげると「앉으세요」が発音は「안즈세요」となるのです。
列挙した最初の4つぐらいは毎日のように使いますのですぐに覚えるとは思いますが、なぜこんな字があるのか、長い間疑問に思っています。今回を機に文献やネットで調べて見ましたが、分かりませんでした。成り立ちがおわかりの方、ぜひ教えてください。
さて、固有数字の使い方に戻ります。
やや難しいのが、漢字語読み数字と固有数字の2つの使い分けが複雑なことです。
例えば、時刻の「時」はそのまま漢字語で「シ」と分かりやすいのですが、「5時」は「タソッシ」=「タソッ+シ」(固有数詞+漢字語)です。「オ・シ」ではありません。「11時」は「ヨル+ハンシ」ですが、「ル」と「ハ」がつながって(連音化、後述します)、さらに弱い「ㅎ」(ハ行)がほぼ脱落して「ヨラヌシ」と聞こえます。
一方、食堂で「1人前ください」という時に、韓国語では漢字語「1人分」をそのまま呼んで「イル・イヌ・ブヌ=イリンブン」となります。
さらにややこしいのは、「1名」「3個」など状況によって表記。発音が変化する場合があることです。「1名」の「名」はそのまま漢字語で「ミョング」ですが、「ハナミョング」はNGです。「한명ハンミョン」となります。하나の하に「ㄴ」パッチムが付いて「나」が抜けるわけです。あるいは하나のㅏが取れてㄴが前にへばりついたというべきでしょうか。
同様に「3個」の「個」は「ゲ」で分かりやすいのですが、「セッゲ」でなく、パッチムが取れて「セゲ」(세개)となります。
日程・日時に関する言葉や買い物は、原則として固有数詞が使われ、「~人分」のような時に漢数字を使うのは「例外」とされています。ただし、実際は数が多くなると漢数字が多く使われますし、漢数字しかしらなくても困ることはありません。1時から12時、そして数も一つから10個(とお)まではマスターしましょう。
固有数字や漢数字の後にくる「単位」(助数詞といいます)は、日本語と同様、限りなくあります。日本語でもウサギや魚の数え方など、クイズになるぐらいですから、あまり気にしないようにしましょう。ゲ、ゲ、ゲゲゲのゲでいきましょう。ちなみに「ゲ(文の冒頭だとケ)」は漢字語ですが、元の漢字は個、介、箇と3種類あるようです。
今まで説明した歳、個のほかに「回」を表す「번(ボヌ)=番の漢字語読み」、「枚」を表す「장(張の漢字語読み)」、酒や水の「杯」を表す「盞(さかずきの意味、漢字語)=잔(チャヌ)」などがよく使われます。「ハンジャン・ハプシダ」と言うと「一杯、やろうぜ」です。
「1時20分」は「한 시 이십 분=ハヌ・シ・イシップヌ」と、固有数字と漢数詞(漢字語読み)が混在します。ちなみに「24時間営業」の「24時間」は固有数詞を使わず「イ・シプ・サ・シガヌ」です。
ある出来事と日付は結びつきやすいですね。「5月1日」「5.1」と聞いてメーデーをすぐ思い浮かべる人は、一定年齢以上かもしれませんが。最近は日本で大震災の「3.11」や米国の「9.11」(ナイン・イレブン)などが悲しい意味で定着してしまいました。こうした「日付と出来事」を関連づけ、日付そのもので記念日を表すことが多いのは、韓国ならではの習慣だと思います。
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