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パリで感じる「ゴーン事件」の危うさ

日産はフランスの尾を踏んだ? 日本はやはり外国人嫌い? 陰謀説も……

山口 昌子 在フランス・ジャーナリスト

中央主権国家・フランスが持つ特殊性

 フランスは王政、帝政、共和制と体制が変わっても、中央集権国家であることに変わりはない。アメリカのように合衆国でも、ドイツのように連邦でも、イギリスのように立憲君主制でもない。「子供のケンカに親、すなわち国家が出てくる国」なのである。

 フランス人を相手にケンカをするときは、常に国旗「三色旗」と国歌「ラマルセイユーズ」が背後に控えていることを考えるべきだ。実際、マクロン大統領とゴーン氏は最近、ルノーによる日産合併で合意している。それで日産が慌てて、ゴーン氏を放り出したとの説もある。

 マクロン氏が経済相だった頃、ゴーン氏との関係は良くなかった。だが、大統領になれば話は別だ。中央集権国家フランスでは、マクロン氏の支持率がいかに低かろうが、大統領は“絶対君主”といえる。経済相としてのマクロン氏は軽視できても、大統領になれば絶対服従だ。その意味で、ゴーン氏とマクロン氏は今、密接な関係にある。

 日産は20年間もフランス企業と提携しながら、フランスという国のこうした特殊性に気がつかなかったのだろうか。フランスは今後、ゴーン氏を小菅の拘置所に放り込んだことに対し、メンツをかけて、あの手この手を尽くすはずだ。

 ルノーは、日産のメンツも考えて、実際は「買収」(仏経済記者)だったのに、「アリアンス」という言葉を使った恩情に対し、「恩を仇で返した」と思っているかもしれない。日産は「ルノーにはゴーンの後任は決めさせない」とも言っているそうが、その強気を貫くことができるのかどうか。

日本はやっぱり外国人嫌いの国

パリ郊外にあるルノー本社=2018年11月20日、ブーローニュ・ビヤンクール拡大パリ郊外にあるルノー本社=2018年11月20日、ブーローニュ・ビヤンクール
 「日本はやっぱり外国人嫌いの国」との印象を、フランス人をはじめ外国人に与えたのも確かだ。「サッカーのハリルホジッチ監督も解任したではないか」と言い出す人もいる。フランスのメディアも同様の論調だ。代表紙「ルモンド」や経済紙「レゼコー」は「陰謀説」も流した。「レゼコー」はその後、「陰謀説」には疑問符を付けたが、“ブルータス・西川社長”との表現を使い、主人シーザーに目をかけられながら、暗殺団に加わったブルータス、つまり“裏切り者”に例えている。

 日産とルノーが資本提携した当時、すでに日本通のパリっ子が「この結婚が不幸な結果に終わらないことを願う」と懸念していた。日本に長年、駐在していた彼は、最大の障害が広義の意味での「文化の差」にあることを見破っていたからだ。

 この20年間で外国企業の日本進出は進み、外国人がトップや重役に名を連ねることも珍しくなくなった。だが、その中でも特に「日仏関係」は相性が悪いと思っている人も多い。

 日本人にすれば、グルメやモードの軟弱な国と思っているフランスが偉そうな顔をするのは耐えられないのかもしれない。ただ、そもそも日仏のものの考え方の最大の相違は、司令官像、つまりトップ像にある。これは、フランスが「中央集権国家」であることとも大いに関係している。強力なトップの下で統率されないと、元来、自分勝手、自由気ままなフランス人は統率できないのだ。それゆえ、フランスは統率力のあるエリートを育てるのに熱心だ。いわゆるエリート校の学生には、“月給”が出ることが象徴するように、彼らは国を背負って立つ大事な人材なのだ。


筆者

山口 昌子

山口 昌子(やまぐち しょうこ) 在フランス・ジャーナリスト

産経新聞パリ支局長を1990年から2011年までつとめる。著書に『ドゴールのいるフランス』(河出書房新社)、『フランス人の不思議な頭の中』(KADOKAWA)、『原発大国フランスからの警告』(ワニブックスPLUS新書)、『フランス流テロとの戦い方』(ワニブックスPLUS新書)、『ココ・シャネルの真実』(講談社+α新書)、『パリの福澤諭吉』(中央公論新社)など。ボーン・上田記念国際記者賞、レジオン・ドヌール勲章シュヴァリエを受賞。

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