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欧州のポピュリズムと知性の闘い

永田公彦 Nagata Global Partners 代表パートナー

 ナショナリズム、排他主義、権威主義を旗印に世界で勢いづく右派系ポピュリズム。マクロン仏大統領は、これを悪魔と名指しした。はたして、歴史の中で刻まれた人類の知性は、悪魔に勝てるだろうか。

ホワイトハウスで共同会見するトランプ米大統領(右)とマクロン仏大統領=2018年4月24日、ワシントン

足並み揃わない世界の指導者たち

 去る11月11日、小雨降るパリ凱旋門。その下に眠る第一次世界大戦で命を落とした無名戦士のもとに、世界各国の指導者が静かに集結した。大戦終結100周年の記念式典に出席するためだ。ドイツのメルケル首相、アメリカのトランプ大統領、ロシアのプーチン大統領、カナダのトルドー首相、トルコのエルドアン大統領、イスラエルのネタニヤフ首相、日本の麻生副総理などが顔を並べている。

 式典を主催したマクロン大統領は、挨拶の中で、「自分たちの利益を最優先し、他人には無関心というのは国家の倫理的価値観を葬る」との表現で、ナショナリズムを批判した。自国を含め欧州各地で勢いづく極右政党だけでなく、まるで目の前にいるトランプ氏をけん制するかのようにだ。そして、先の2つの世界大戦を導いたこのナショナリズムと全体主義の世界的な拡がりを「古い悪魔が再び目覚めつつある」と表現し警鐘を鳴らし、この悪魔と戦い、世界の平和・自由・友愛を守りぬく必要があると連帯を呼びかけた。

 しかし一方で、同式典では、各国の足並みの違いも浮き彫りになった。その筆頭が、自国第一主義を掲げ、排他的な動きをするトランプ氏だ。各国首脳が式典会場の凱旋門まで並んで行進する中、その列に加わらず単独行動をとり、式典後の平和フォーラムも欠席した。また、ポピュリズム政党が支配するハンガリーやポーランドは欠席。これに加え、排他的な政策で右傾化した国民党とネオナチ的な極右政党「自由党」の連立政権を率いるオーストリアのクルツ連邦首相、今年6月に誕生したイタリアの新政権(ポピュリズム政党「五つ星運動」と極右政党「同盟」の連立政権)率いるコンテ首相の姿はなかった。

皮肉にも死者を多く出した国で進む右傾化

 先日の米中間選挙直後のホワイトハウスでの記者会見における、CNNのアコスタ記者など一部メディアに対するトランプ氏の威圧的な言動は、ある人物を想起させた。欧州で最も右傾化が進むハンガリーのオルバン首相だ。今や議会(一院制)の7割の議席を占める右派系ポピュリズム連立政権を率い、権威主義国家では定番政策ともいえるメディア統制を2010年に開始、2015年の欧州難民危機を受け、EU未加盟のセルビア国境に2重フェンスを設置するなど、移民排斥とハンガリーファーストを掲げ、政権運営を行う。このオルバン氏とトランプ氏が重なって見えるのは果たして筆者だけだろうか。

 さて、欧州で突出して右傾化が進むのが、このハンガリーと、同じヴィシェグラード・グループに属し同国と連携を強めるポーランドだ。実は、皮肉にもこの2国は、先の大戦で命を落とした国民が多い国々でもある。

 下記図1は、2つの数字を欧州各国で比較したものである。1つは、直近の国政選挙後に右派系ポピュリズム政党の議員が議会で占める割合(上の赤棒)、2つ目は、第二次世界大戦における死亡者数(兵士・市民)が1939年当時の人口に占める割合だ(下の青棒)。

図1. 右派系ポピュリズム政党による国政議会占有率と第二次大戦による死亡者数の対人口比 (2018年10月24日付フィガロ紙記載データ及びロベール・シューマン財団公表データを抜粋)

 これを見ると、ドイツ、ギリシャ、リトアニアを除き、総じて、先の大戦で多くの犠牲者を出している国々で、右傾化が進んでいることが読み取れる。

「十把一絡げ」にできない欧州

 欧州におけるポピュリズム台頭については、その社会背景も含め、欧州域外の人たちの目には、十把一絡げに映るかもしれない。

 もちろん、入る情報の量や質の関係で、そうなるのも不思議はないが、実態は複雑だ。まず、前述の図1が示すように、その台頭度合いが国により大きく異なる。次に、ポピュリズム政党といっても、その歴史(伝統政党、新設政党)、政治信条や政策(極右系、極左系、中道右派の右傾化等)、政治的立場(政権政党、非政権政党)など多様だ。

 さらに着目すべきは、ポピュリズム台頭の背景にある社会問題も国ごとにバラバラ観がある。それは、各国の国民が抱く心配ごとの違いを見ればわかる。なぜなら、ポピュリズムは、大衆が抱く心配ごとを逆手に取り支持者を増やす運動だからだ。

 そこで、本稿では、仏系調査会社イプソスが、長年にわたり定期的におこなう調査「World Warries(世界の社会不安)」に着目する。その中で、直近の3年(16年9月、17年7月、18年7月)の公表データを引用する。この調査は、26~28カ国の16~65歳の約2万人(各国1千人前後)に、17の心配ごと(「失業・雇用」「貧困・格差」「汚職・腐敗」「犯罪・暴力」「健康・医療」「テロ」「教育」「税制」「移民管理」「道徳低下」「インフレ」「過激主義」「社会保障」「環境問題」「気候変動」「児童肥満」「クレジットアクセス」)を示し、「この中から貴方の国にとり、最も心配な3つの要素はどれだと思うか?」と質問し、その回答を集計したものだ。

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