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核軍縮の「橋渡し役」日本のジレンマ

「最後の被爆地」長崎で打開策を考える

田井中雅人 朝日新聞・核と人類取材センター記者

 朝鮮半島の非核化の兆しの一方で、米トランプ政権の中距離核戦力(INF)全廃条約離脱表明による「新冷戦」がささやかれるなか、長崎市で開催された外務省主催の「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」(11月14、15日)と、市民などの実行委主催の「核兵器廃絶――地球市民集会ナガサキ」(16~18日)を取材した。

 前稿「核兵器禁止条約がもたらす核時代の終わりの始まり」で論じたように、昨年、核兵器禁止条約(核禁条約)が国連で採択され、発効プロセスが進んでいる。発効には50カ国の批准が必要だが、核保有国が条約推進国に批准しないよう圧力をかけている。批准を済ませたのは19カ国(11月18日現在)で、核兵器が非人道的な「絶対悪」だとの認識がじわじわと国際社会に広まっている。日本政府は自国の安全保障の「必要悪」だとして米国の「核の傘」にいつまで依存し続けるのだろうか。

 核禁条約の誕生で、核軍縮の進め方をめぐって核保有国と非核保有国との間の溝が深まり、非核保有国の間でも核禁条約を推進するか、「核の傘」に依存し続けるかをめぐって足並みがそろわない。さらに、日本国内でも核禁条約の早期発効を求める被爆地(市民)とこれに背を向ける政府との分断があらわになっている。複雑な核軍縮のアプローチの岐路に立って、「橋渡し役」を自認する日本政府に打開策はあるのか。市民社会は何ができるだろうか。

3600人が参加した「地球市民集会」

拡大閉会集会後、横断幕を掲げピースウォークをした「核兵器廃絶――地球市民集会ナガサキ」の参加者ら=11月18日、長崎市平野町
 2000年に始まり、5年ぶり6回目となる地球市民集会は、国内外の市民やNGO、専門家らが核兵器廃絶に向けて議論。「朝鮮半島非核化」や「被爆の継承」、「次世代」、「NPT体制と核禁条約」などの分科会に、のべ約3600人が参加した。3日間の議論を踏まえて採択された「長崎アピール2018」(文末に骨子)は、日本政府の核政策の現状について、こう指摘した。

 日本のいわゆる「核のジレンマ」(「核兵器廃絶の目標」と「核の傘依存」)は、ますます深まりつつある。日本政府は、核保有国・「核の傘」国と非核保有国の「橋渡し役」を果たすために賢人会議を設置した。それは建設的な一歩ではあるが、いまだにそのための効果的な提言をしていない。それどころか、日本政府は核禁条約に反対の立場をとっているため、核軍縮・不拡散政策で方向性を見失っているかのようだ。その結果、核兵器廃絶を促進する主要な担い手としての地位と信用を失いつつある。そのうえ、莫大な量のプルトニウム在庫量を抱えているため、日本の核政策に対する疑心が生まれてきているのだ。

 外務省主催の賢人会議は昨年、岸田文雄外相(当時)の提唱で始まり、広島、東京に続き今回の長崎が3回目。来年春に開かれる核不拡散条約(NPT)再検討会議の第3回準備委員会に日本政府が提出する文書に、賢人会議の「橋渡し」提言を盛り込みたい考えだ。日本人7人と外国人10人(米国2人、ロシア、中国、フランス、オーストラリア、ドイツ、カナダ、エジプト、ニュージーランド)の計17人の有識者らが議論している。必ずしも核問題の専門家ばかりではなく、被爆者の委員は朝長万左男・日赤長崎原爆病院名誉院長だけである。今回、中国の沈丁立(シェン・デンリー)委員(復旦大学教授)は「賢人会議には参加できなかった。理由は言えない」として、地球市民集会だけに参加した。関係者によると、何らかの理由で中国当局の許可が出なかったとみられる。

 過去2回の賢人会議の議論を踏まえた中間提言が事前に公表され、安全保障と軍縮の関係に関する「困難な問題」として、次のような論点が盛り込まれている。

・国家存立に関わる究極的な状況において、国際人道法を勘案し、核兵器の人道的結末や文民・非戦闘員および環境を考慮したうえで、限定的な核による威嚇や核使用の可能性などについて検討する誠実な対話の場を立ち上げるべきだ。
・核抑止は安定を促進する場合もあるとはいえ、長期的な国際安全保障にとり危険なものであり、すべての国はより良い長期的な解決策を模索せねばならない。

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筆者

田井中雅人

田井中雅人(たいなか・まさと) 朝日新聞・核と人類取材センター記者

1993年、早稲田大学政治経済学部卒業後、朝日新聞社入社。福山・横浜・横須賀支局、ヘラルド朝日編集部、外報部などを経て、2007~10年カイロ特派員。イラク難民やイスラエル軍のガザ侵攻などを取材。国際報道部デスクを経て2012年度フルブライト・ジャーナリスト(米ハーバード大客員研究員)。2015年から現職。単著『核に縛られる日本』(角川新書)。共著『漂流するトモダチ アメリカの被ばく裁判』(朝日新聞出版)、『ヒロシマに来た大統領』(筑摩書房)。共訳書『核兵器をめぐる5つの神話』(RECNA叢書)。

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