2018年11月28日
「美しすぎる検事」と日本でもネット界のアイドルとなったナタリア・ポクロンスカヤさん(38)が、ロシア政治の「台風の目」ともいえる存在になり始めている。いまは政権与党「統一ロシア」会派に所属する下院議員だが、ロシア帝国最後の皇帝ニコライ2世とバレリーナとの恋を描いた映画『マチルダ 禁断の恋』の上映に、皇帝の姿をひどくゆがめたなどの理由で猛烈な反対運動を起こすと思うと、最近はプーチン大統領の支持率低下につながった年金改革案に与党会派でただ一人、反対票を投じたことが大きな論議を呼んだ。その本人に朝日新聞は、下院近くのレストランでインタビューした。動きがことごとく注目を集め続ける若き政治家のパワーの源に2回にわたって迫る。
「最後の瞬間まで疑いを持つことはありませんでした。統一ロシアとしては支持しなければならない。でも示された論拠は、私を納得させず、賛成できなかった。なぜなら、私を信じる人びとへの裏切りになるからです。私たちの仕事で最も重要なことは、人びとの信頼です」
今年7月、年金改革案に反対投票をしたことをポクロンスカヤさんは、こう振り返った。「統一ロシア」内には規律違反で議員辞職や会派からの除名を求める強硬意見も出た。しかし、改革案への賛成で「統一ロシア」への支持も急降下したことで、彼女が委員長を務める下院議員の収入・資産監視委員会を別の委員会に統合し、ポストを奪うことしかできなかった。世論の動きを正確に読んだ彼女の実質的な勝利である。
「私は反腐敗委員会の副委員長でもあります。議員だけでなく、役所をはじめ国全体の腐敗もひどい。役人に飲ませて汚職の病気がなおるような薬はまだ開発されていないのです。腐敗・汚職の問題にどんどん力を注ぎます」。意気はさらに軒昂だ。
ポクロンスカヤさんが世界の注目を集めたきっかけは、クリミアの地元政府が2014年3月11日にウクライナからの独立を宣言した時に、33歳でクリミアの検事長に任命された彼女が行った記者会見だ。動画にあるように、ヤヌコビッチ前大統領を逃亡させたウクライナの「マイダン(広場)革命」を「国家クーデター」と、検事の制服姿で激しく非難した。これがロシアから世界に広まり、アニメ化されてブームへとつながった。
そのポクロンスカヤさんはインタビューに、白いブラウス、茶色のベストにスラックスという普段着姿でにこやかな笑顔とともに現れた。制服を着た4年前の動画の姿のきびしさとはぜんぜんイメージが違う。ところが話がウクライナのことに及ぶと、表情はたちまち動画のようなけわしいものに変わった。
ロシアのクリミア編入については、「私たちの誇り、正義です。クリミアが自動小銃でロシアに戻ったなどといわれますが、これはうそです。国境の向こうから過激なウクライナの民族主義者たちがきました。彼らはファシストの支援者です。ロシア人をすべて滅ぼすというイデオロギーを持っています。このため私たちは自分の土地を守りました」と、絶対に正しいとの立場である。
ウクライナ正教会によるロシア正教会からの独立問題でも、「ロシア国民とウクライナ国民はいつも一つのものです。分けられません。一緒にキリスト教を受容したのです。私たちを結びつける鎖は信仰です。精神性です。敵はまさに精神性に対して分裂をたくらんでいます。でも人びとには精神、歴史、信仰があります。変えることは不可能です」という。
さらに、「米国のふるまいがあります。クリミアでは住民の自由な意思表示を無視しました。国連憲章にうたわれた民族自決の権利を実行したのに、なぜ明らかに人びとが白いと言っているものを、黒いと言いくるめようとするのか。米国の目的はロシアによくないことをし、分裂を持ち込むことです。ウクライナでの事態も同じです。こうしたことは、ずいぶん前から試みられてきました」と米国の対ロシア政策に強い不信感を示した。
一方で、日本には好感を持っている。アニメを通じた日本での人気については、「私との関係がこんなふうにつくられているのは、日本人が自分の祖国を愛し、大変に愛国主義的だからでしょう。私の顔をアニメに描くなかで、人びとはそのことを理解して、気に入っています」。
日ロ関係では、プーチン大統領が平和条約を今年中に無条件で結ぶ提案をしたことに触れ、「大統領の決定を議論しませんが、国同士がすべてのことで、自分の国家的利益のもとで相互関係を発展、強化し、互いの尊敬のもとに独立して誠実に関係を築く。わが国の指導者たちは、そう志向していると思います」と語った。関係改善にとても意欲的だ。
ここでロシアでの彼女の人気ぶりを見てみよう。
「ルースキー・レポルチョール」という雑誌は2016年5月、「ロシアの最も美しい女性20人」という記事を掲載し、ポクロンスカヤさんが1位に選ばれたと報じた。
調査の方法は、最初にスタイリスト、カメラマン、映画監督、デザイナーなどの「美の専門家」30人が女優、アスリート、社会活動家、学者、実業家ら有名人から89人の「美しい女性」を選び出す。さらにこれを、1週間のインターネット投票にかけるなどした。ネット投票には24万人が参加したという。
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