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安倍官邸が主導する日朝秘密交渉の行方

細る外務省のパイプ。警察庁出身・北村内閣情報官のルートは機能するか

鈴木拓也 朝日新聞記者

日本政府内の「保衛部信仰」

 日朝はこれまでも、本格交渉に入る前には必ず水面下の接触を図り、相手の意思を探ってきた。今年8月末、米ワシントン・ポスト紙(電子版)は、安倍首相の側近である北村滋・内閣情報官と、北朝鮮の対南工作機関・朝鮮労働党統一戦線部の金聖恵統一戦略室長が7月にベトナムで極秘に会談していたと報じた。

拡大安倍首相の側近である北村滋・内閣情報官

 この後も、北村氏が北朝鮮側と第三国で、秘密裏に接触したとの報道が続いている。再び本格交渉に向けて「水面下の接触」が始まったのだろうか。

 その解に迫る前に、過去の日朝交渉がどのように行われてきたのかについて触れたい。

 日朝交渉史で特筆すべきなのはやはり、金正日総書記が日本人拉致を認め、訪朝した小泉純一郎首相と国交正常化に向けた「平壌宣言」を署名した2002年の日朝首脳会談だ。外務省の田中均アジア大洋州局長が前年から、「ミスターX」と呼ばれた北朝鮮国家安全保衛部の柳敬第1副部長と秘密交渉を重ねた結果だった。

 複数の日朝関係筋によると、日本外務省が北朝鮮の秘密警察機関である保衛部と関係を築いたのは2000年ごろ、田中氏の前任者、槙田邦彦アジア局長(在任中にアジア大洋州局に改組)時代だったとされる。外務省は2002年の小泉訪朝以降も、柳敬氏が粛清された後の一定期間を除き、担当者を代えながらこのパイプをつなげてきた。

 最近では2014年に、北朝鮮が拉致被害者や行方不明者をはじめ、すべての日本人に関する調査を包括的に実施すると約束した「ストックホルム合意」が記憶に新しい。

 この時も前年から秘密交渉が始まり、その任を小野啓一・北東アジア課長が担っていた。保衛部側のカウンターパートは、柳敬氏の部下だった50代の「課長」。その上司の「参事」と、伊原純一・アジア大洋州局長も同席し、北朝鮮の在外公館がある中国やベトナムなどで、通訳を交えて2対2の秘密協議が重ねられた。

 この「参事」を名乗る男は、「2代目ミスターX」なのか。田中氏の交渉相手だった柳敬氏は副部長の肩書を持ち、協議の場で日本側の要求に即答することもあり、ある程度の裁量権を与えられていたようだ。一方で、「参事」の肩書は副部長より格下。日本側の提案に、その場では意思を示さず、「本国に持ち帰る」などと回答を保留する場面が目立ったという。

 かつての柳氏ほどの権限は与えられていないのではないか――。秘密交渉を知り得る立場にあった首相官邸と外務省のごく一部の関係者の間にはそのような評価もあった。

 ただ、金正日氏が拉致を認め、被害者5人の帰国につながった2002年の日朝首脳会談の記憶から、日本政府内には、保衛部を相手に事前交渉を進めれば、拉致問題に関して新たな局面が期待できるとの「保衛部信仰」があった。

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筆者

鈴木拓也

鈴木拓也(すずき・たくや) 朝日新聞記者

1975年、神奈川県生まれ。産経新聞社を経て、2003年に朝日新聞社入社。社会部で警視庁捜査1課、政治部で首相官邸や外務省などを担当。2017年4月から国際報道部に所属し、北朝鮮問題や日韓関係を中心に取材している。

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