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[4]中間選挙は米国の民主主義をどう変えるのか

沢村亙 朝日新聞論説委員

中間選挙の結果を受けてホワイトハウスで記者会見するトランプ米大統領=2018年11月7日、ワシントン、ランハム裕子撮影

 11月6日に投票されたアメリカ中間選挙は、上院でかろうじて過半数だった共和党が議席差をわずかに広げる一方、下院は民主党が大きく逆転して過半数を獲得。連邦議会は「ねじれ」となった。

中間選挙の結果を伝えるCNNのサイト

 トランプ大統領は、上院の選挙結果を挙げて「とてつもない勝利」と自賛し続けている。その上院にしても今回改選された35議席だけをみれば、「民主24、共和11」と民主が圧勝で、情報を歪曲して自身を大きく見せる恒例トランプ流の「強がり」にしかみえない。

 一方でトランプ氏が投票前1週間で応援演説のために駆け巡った8州(11カ所)をみれば、フロリダ、ミズーリ、インディアナといった上院激戦州を民主党から奪い返し、さらにフロリダ、ジョージア、テネシー、オハイオの各州では知事選も制した。この結果をみれば「投票用紙の私の名前がなくても(私のために)投票する人が大勢いる」と豪語するトランプ氏の言い分も、あながち的外れではない。事前の世論調査でも、米有権者の6割が「トランプ氏への賛否」を、候補を決める判断材料にすると回答していた。

何を基準に投票するかを訪ねた世論調査結果

アメリカ社会の「ねじれ」

 トランプ氏が今後、「ねじれ」に伴う政治混乱を逆手にとって、「腐った主流派政治家のせいで大切な政策が前に進まない」という論法で議会を糾弾し、国民の支持を引き寄せようと試みるのはほぼ確実で、必ずしもトランプ氏にとっての「逆境」と言い切ることもできない。

 要するに、民主、共和のどちらが勝ち、負けたのか、という構図よりも、「トランプ」に否定的な層がますます厚みを増す一方、好きな人はその支持の度合いがますます高まるという現象が如実に示された選挙結果といえる。その意味ではアメリカ社会が一種の「ねじれ」になったといってもいい。

 今回の中間選挙を子細に見てみると、米国の民主主義の今後を考える上で示唆に富む予兆がそこかしこに現れている。日本ではさほど注目されなかった点も含めて、改めて振り返っておきたい。

神通力に陰り

 数々の「豪語」や「自賛」は別にして、中間選挙後のトランプ氏は何かと不機嫌だ。その理由として取りざたされるのは、2016年の大統領選でトランプ氏勝利の原動力となったとされる中西部の「ラストベルト(さびた製造業地域)」で、かつての神通力に陰りがみられることだ。

 ラストベルトのペンシルベニア州、ミシガン州、ウィスコンシン州では上院選と知事選の双方で共和党は敗北を喫した。鉄鋼業などの衰退でグローバル競争に不満を募らせる白人労働者層の支持をつなぎとめるべく、保護主義的な通商政策を推進してきたトランプ氏にとっては大きな誤算と映っただろう。

 トランプ氏にとってのもう一つの衝撃は、これまで共和党にとって固い支持基盤と思われていた地域で「取りこぼし」が出たことだ。

 たとえば女性新人同士の対決となったアリゾナ州の上院選では民主党候補が接戦を制し、同州では1994年以来初めて、民主党が上院議席を獲得した。

 かろうじて共和党が議席を守ったものの、伝統的に共和党が強いテキサス州の上院選では、若く、演説も上手なことから「オバマ再来」として脚光を浴びた民主党のベト・オルーク候補が、共和党の重鎮テッド・クルーズ議員に肉薄した。

演説会場には入らず、屋外で待ち受ける支持者にハンドマイクで演説をはじめたオルーク氏=筆者撮影

 下院ではさらにそれが顕著で、オクラホマ州オクラホマシティーやカリフォルニア州南部のオレンジ郡など、共和党の「岩盤」とされていた選挙区での民主党候補の勝利が大きな驚きをもって受け止められている。

都市郊外の有権者が民主党支持へ

 その要因の一つが、都市郊外の有権者が共和党支持から民主党支持へと一気に振れたことだ。自由貿易、国際協調といった伝統的な共和党の政策に共鳴してきた穏健保守層の多くが、保護貿易や孤立主義に傾斜するトランプ流に違和感を募らせていたことをうかがわせる。

 さらに注目されるのは、都市郊外に住む白人女性層の「離反」だ。治安に敏感で、道徳的価値観を重視する層だが、女性を軽視し、マイノリティーや移民への過度の反感をあおって地域社会の分断を深めるトランプ氏の発言や政策に不安を募らせた結果といえる。テキサス州、フロリダ州、バージニア州などをはじめ全米各地で起きた「郊外の反乱」はまさに今回の中間選挙の最大の特徴だ。

 人口動態の変化も理由に挙げられるだろう。アリゾナ州、ニューメキシコ州、テキサス州など南部では、民主党を支持する傾向が強いヒスパニック系の人口が増えている。さらにこれらの州では、ITなどに従事し、リベラルな考えを持つ高学歴層が他州の大都市圏からどんどん移住してきている。東西の両海岸地域は民主、中央部は共和といった従来の政治地図もまた塗り変わりつつある。

◆「郊外の反乱」をとりあげた米メディアの報道から

https://www.usatoday.com/story/news/politics/elections/2018/11/08/midterms-suburbs-republicans-democrats-trump/1921590002/

https://www.businessinsider.com/midterm-election-gop-democrat-vote-urban-suburban-rural-us-2018-11

テキサス州ヒューストンのトランプ氏応援演説で薄暗い早朝から支持者が並んだ=ランハム裕子撮影

 一方、トランプ氏にとって逆風と言い切れないのは、先述したようにトランプ氏自身が選挙演説に回った地域では共和党の候補が勝利・善戦したことだ(もちろん、そうした地域を選んでトランプ氏が遊説したからでもあるが)。

 今回の中間選挙を機に、トランプ氏とは距離を置いてきた共和党のベテラン議員が少なからず引退をした半面、上下両院でトランプ氏が積極支援した75人の候補者のうち半数を超える42人が勝利。大統領のおかげで当選できた「トランプ・チルドレン」の忠誠心はきわめて高く、共和党はますます“トランプ党”へと変貌していきそうだ。

 大統領選挙で各州に割り当てられた「選挙人」の数が多く、全体の勝敗の行方に大きく影響するフロリダ州で、接戦の末に知事選・上院選ともに共和党が勝利をおさめたことも2020年の大統領再選を目指すトランプ氏にとっては追い風だ。

過去最多の女性議員

 さらに、歴史に刻まれるかもしれない現象が、今回の中間選挙が起きた。

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