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自民党は天皇国日本のモノサシ1本つくれなかった

籠池泰典氏に聞く「天皇国日本」、教育、安倍政権

永尾俊彦 ルポライター

安倍政権「天皇国日本」と教育、安倍政権への評価などを語った籠池泰典・森友学園前理事長=撮影・筆者

 これまで3回にわたり、森友小学校の教育理念とはどのようなものだったのか、そしてその理念が一国の首相をも巻き込む社会的な広がりを持つ「思想事件」になった背景にはどのような潮流があるのかを追った。最後に、取材を通して感じた疑問点を籠池泰典氏(森友学園前理事長)に質した。

――「瑞穂の國記念小學院」(以下森友小)の「教育勅語」や「五箇条の御誓文」を重視し、「歴史と伝統に基づいた教育」という理念は、教育の現状に対する「解決策」として提唱されたと思いますが、今の日本の社会と教育のどんなところに問題を感じていますか。

籠池泰典 子殺し、親殺し、それから最近も報道されましたが、子どもへの虐待が増えていますね。親が子どもに目をくれないなどの個人主義が蔓延しています。自由と放任をはき違え、規範や規律が崩れ、日本が「溶け出している」と思うてます。これは40年前から出ている現象ですが、どこまでいくのか。政治も経済も行き詰まっていますが、一番行き詰まっているのが教育です。

 日本の子どもたちにとって今の教育は全く機能していませんね。行政は「教育はサービス」と言う。教育を喫茶店のお茶くみと同じようにとらえている。親は高学歴化して教師への敬愛の念がなく、子どもの前で平気で教師批判をする。子どもの心はズタズタになりますよ。

 だから、どの価値が正しいのか確立せねばならん。道路交通法にたとえると、右側通行なのか左側通行なのかハッキリさせておかないと大事故につながる。自由の中にも規律と規則のある形をつくりあげないといかん。

――籠池さんの考える「正しい価値」とは何ですか。

籠池 「天皇国日本」が根本です。ご皇室が一番大事。それがモノサシで、今はモノサシがないからグチャグチャになっている。自民党は保守の政党と言いながら、モノサシ1本つくれなかった。

 何のために生きて、何のために活躍するのか。子どもたちが何をするにもこの問題にぶち当たります。その時、「あ、これなんだ」と思えるものが重要です。それは、ご先祖様が活躍してきた日本という国に誇りを持ち、共通認識を持ちつつ日本社会を繁栄させていくことです。それは、家庭を持ち、子どもをつくり、教育を与え、その子どもが将来に向けて活躍していくことです。

写真左奥にある奉安殿に納める御真影(天皇・皇后の写真)を高く掲げた校長と思しき人物(中央)と、続いて教育勅語をうやうやしく戴いた教頭と見られる人物らを軍装し、捧げ銃(つつ)で迎える生徒たち(右)(1928年11月/小野雅章・日本大学教授提供)左奥にある奉安殿に納める御真影(天皇・皇后の写真)を高く掲げた校長と思しき人物(中央)と、続いて教育勅語をうやうやしく戴いた教頭と見られる人物らを、軍装し、捧げ銃(つつ)で迎える生徒たち(右)=1928年11月/小野雅章・日本大学教授提供

「ボクは憲法9条改憲に反対」

――教育勅語は、「天皇のために命を投げだせ」と国民を洗脳し、あの無謀な戦争に国民を動員する原動力になったと言っても過言ではないと思います。だからこそ、戦後国会で排除、失効が決議されましたが、その教育勅語をなぜ教育の理念にしようとしたのでしょうか。

籠池 長い間幼稚園で教育をさしてもらう中で、さきほど述べた社会と教育の現状をふまえ、子どもたちに教えるべきことをまとまりのあるものにしたいと考えていました。それで、中国の古典から西洋の古典からいろいろと模索し、教育勅語に行きついたということですわ。

 「朕思うに」という部分や、「天皇のために命を投げだせ」という部分にアレルギーを持っている方がいらっしゃるが、そこは抜いてもらったらええ。他のところ、「父母には孝行しなさい」「兄弟姉妹は仲良くしなさい」などの徳目が重要なんですよ。こういう中身がいいの。

――しかし、教育勅語で挙げられている「父母には孝行しなさい」など全部で12の徳目は、すべて最後の徳目である「天皇のために」という徳目に収れんし、「ここにこそ、教育勅語の大きな特色があった」と教育学者で組織する「日本教育学会」は指摘しています(同学会教育勅語問題ワーキンググループ編『教育勅語の教材使用問題に関する研究報告書』、2017年12月)。

籠池 そこを軍人が活用したことはあるでしょうね。

――また悪用されてしまう危険性があるのではないでしょうか。

籠池 私が今一番危惧しているのは、安倍政権のとっている対応が昭和1ケタから開戦前夜にいたる状況によく似ていることなんですよ。麻生(太郎)さん(副総理兼財務大臣)がかつて改憲について「ナチスの手口に見習え」と言いましたが(注1)、国民がどこまで眼を見開いているかによって戦争になるか否かが変わってくるんやと思うてます。そのこともあって、ボクは早く小学校をつくらないかん、人材育成を早くせな間に合わんでと思うてました。

――ん? 籠池さんは憲法9条を変えて、戦争ができる国にし、戦争になったらお国のために戦う人を育てるために森友小をつくろうとしていたのではないのですか。

籠池 現行憲法で変えるべきなのは家族について規定した24条と前文です。2016年くらいまでは憲法9条を変えた方がいいと思っていたが、安倍首相の言動を見て考えが変わりました。国民をうとんじ、だましている。今は改憲はあかんだろうと思っています。ボクは憲法9条改憲反対です。

――えっ、そうなんですか?

籠池 世間の人たちは、ボクのことを自分たちの思いたい方向に思うてるんですよ。今上陛下も憲法9条改憲反対です。

 今、この国は自衛隊の職業軍人によって守られています。9条を改憲したら、安倍首相は大東亜戦争の指導者のように、自分は戦争に行かないが、「悪いけど君たち行ってくれんか」と彼らを戦場に送るのではないかと見ています。安倍政権は、徴兵制を導入するかもしれん。ボクはあの人の心の奥が見えるんでね。その暴挙は止めなければならず、そのためにも憲法9条改憲は阻止すべきです。
(注1)麻生太郎副総理兼財務相は2013年7月29日夜、都内で講演し、改憲の手法をめぐってドイツのナチス政権時代に言及し、「ドイツのワイマール憲法はいつの間にか変わっていた。誰も気がつかない間に変わった。あの手口を学んだらどうか」(2013年7月31日付、中日新聞)と述べた。

「安倍政権はニセモノ」

籠池 そもそも安倍政権はアメリカの言いなりになっている。ボクは日米安保は、悪いとは言わんが、不平等な日米地位協定については大同団結して潰してしまう方向に持っていくべきでしょう。

 安倍政権は日本会議の関係で「超保守」やと言われているが、あんまり実績、あがってないんですよね。先の国会では働き方改革関連法案を成立させましたが、あれは大企業へのヨイショだし、カジノ法案も成立させましたが、安倍首相が力を入れてきた教育改革との整合性から見れば、バクチを広める法律なんてマイナスです。私どもの学校を潰した段階で実績をあげられなくなったんです。

 私どもの小学校の問題がきっかけになって国会で教育勅語について議論が行われ、昨年(2017年)3月には教育勅語の教材としての使用を容認する閣議決定をしましたが、あれは安倍さんの意地でしょう(注2)。

 しかし、それをもって教育改革が前に進んでいるかというと決してそうではない。教育勅語の教材使用の容認はそういう方向を目指していますという「ポーズ」であって、実態は違う。日本会議はだまされているんやと思いますわ。

 第1次安倍政権の教育改革熱はついえ去っています。そのまま第2次政権以降に引き継がれていると思っているから日本会議もその他の保守団体もついていっているが、安倍さんは自分の名前を歴史に残し、自民党を長続きさせるにはどうしたらよいか、大企業を優先するにはどうしたらいいのか考えて、政権の延命にカジを切ったんでしょう。

 ボクは、今でも安倍さんにはある部分でシンパシーがあるが、

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