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中島岳志の「自民党を読む」(4)河野太郎

リベラルを志向しつつも、政策の中核は新自由主義。父からの自立を意識しすぎ?

中島岳志 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授

「小さな政府」論者

 河野さんの政治家としてのスタンスとして際立っているのは、明確に「小さな政府」を志向しているという点です。彼は繰り返し「小さな政府で経済成長」すべきことを訴え、行政のスリム化を強調します(③:19)。

 河野さんのいう「小さな政府」とは、どのような存在なのか。

 まずは「権力の小さい」政府を目指すことが示されます。とにかく余計な規制を作らない。国家が民間の活動に極力介入しない。羽田空港から国内線を飛ばすのか、国際線を飛ばすのかは航空会社とマーケットが決めることであって、国土交通省の役人が決めることではない。そう主張します(③:20)。

 次に目指すのが、「中央の権限が小さい」政府です。地方が担うことができる領域は地方に任せる。大胆な地方分権を行い、権限を地方に移譲していくことを訴えます(③:21)。この延長上で「文部科学省はいらない」と論じ、「義務教育に関する権限と財源を自治体に移譲」すべきことを説きます(⑦:228)

 三つ目が「公務員の数が小さい」政府。国が余計な口出しをしないことによって、国家公務員を減らす。道州制によって地方の行政組織をスリム化し、地方公務員も減らす。結果的に公務員の総数を減らし、コンパクトな行政を実現する。そんな構想が示されます(③:22)。

 最後は、「財政の小さい」政府、そして「税収の小さい」政府。税金が安い代わりに、過度な行政サービスは行わず、マーケットの自立性を尊重するというヴィジョンです(③:㉒)。

 河野さんは、自己責任型の自民党とセーフティネット強化型の民主党(当時)が切磋琢磨する二大政党制を構想しています(③:27)。この観点から、旧来の既得権益に依存する自民党政治を痛烈に批判し、新自由主義的な政党へとモデルチェンジすべきことを説きます。

拡大参院外交防衛委に臨む河野太郎外相=2018年11月29日

競争原理と規制緩和を推進

 河野さんにとって、かつての自民党は左派的な存在です。長年のしがらみに基づいて、効果を度外視した再配分が行われてきたことを「社会主義的」と捉えています。

 自民党は利権構造や規制によって、不透明な再配分をしてきました。これによって地方の雇用を守り、国土の保全を図ってきたのですが、河野さんは、手厚い保護によって競争原理が失われたことの弊害があまりにも大きいと捉えています。結果、国家や行政への甘えが生じることで、経済成長にブレーキがかかってしまうと言います。

 中道左派的な旧い自民党がやってきた敗者を弱者と半ば混同し、規制と補助金で守ってきた政策より、競争の中で強い経済を創り上げようという新しい中道右派の自民党の政策が、この国には必要だということを国民に理解してもらうためには、さらに時間がかかる。それでもそれ以外には、この国を救う道はない。(③:28)

 ここで河野さんが強調するのが、規制緩和の重要性です。「国内産業の生産性を上げるためには規制緩和による競争が必要」(③:32)であり、市場の効率化こそが重要だと訴えます。

 日本経済の中の非効率的な規制やルール、慣習を撤廃し、税制を改め、我が国の市場を世界で最も効率的で公平なものに作りかえることによって世界中からヒト、カネ、モノ、情報を日本に集める政策を実行しなければならない。それによって雇用を生み出し、国民所得を高め、世界で最高レベルの生活水準を保証することができる。(③:47-48)

 そのためにはグローバル市場における競争に打ち勝ち、常に利益をあげていく必要があります。もちろんTPPには賛成。「TPPは、世界的な投資のルールを統一することで、日本への直接投資を充実させていくための有効な手段」であり(⑦:49)、FTA(自由貿易協定)などによって成長するアジアの市場を日本に取り込んでいくべきと主張します(③:34)。また韓国との思い切った連携を打ち出し、貿易の自由化、サービスの自由化、人の移動の自由化を進めていくべきことを説きます(⑦:49)。

 日本経済が活性化するためには、企業が日本に拠点を作りたいと思えるような税制にすべきことを訴え、法人税減税によって日本に企業を誘致する構想が打ち出されます。

 付加価値の高い業務、付加価値の高い雇用を日本国内に誘致するために、障害となっているものを取り除いていくことがこれからの政府の役目である。(③:44)

 さらに企業活動を活発化するためには、解雇規制の緩和に踏み切る必要があがると言います(⑦:67)。日本はいったん正社員として雇用されると、よほどのことがない限り解雇されないシステムです。これが日本企業の深刻な足かせになっていると見なし、解雇規制の緩和はやむを得ないと説きます。ただし解雇は柔軟にできるかわりに、行政による教育・訓練プログラムを充実化し、転職や再チャレンジを支援する形態を導入すべきと主張します。


筆者

中島岳志

中島岳志(なかじま・たけし) 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授

1975年、大阪生まれ。大阪外国語大学でヒンディー語を専攻。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科でインド政治を研究し、2002年に『ヒンドゥー・ナショナリズム』(中公新書ラクレ)を出版。また、近代における日本とアジアの関わりを研究し、2005年『中村屋のボース』(白水社)を出版。大仏次郎論壇賞、アジア太平洋賞大賞を受賞する。学術博士(地域研究)。著書に『ナショナリズムと宗教』(春風社)、『パール判事』(白水社)、『秋葉原事件』(朝日新聞出版)、『「リベラル保守」宣言』(新潮社)、『血盟団事件』(文藝春秋)、『岩波茂雄』(岩波書店)、『アジア主義』(潮出版)、『下中彌三郎』(平凡社)、『親鸞と日本主義』(新潮選書)、『保守と立憲』(スタンドブックス)、『超国家主義』(筑摩書房)などがある。北海道大学大学院法学研究科准教授を経て、現在、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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