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中島岳志の「自民党を読む」(4)河野太郎

リベラルを志向しつつも、政策の中核は新自由主義。父からの自立を意識しすぎ?

中島岳志 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授

保育園も規制緩和で増やす

 規制緩和の徹底した推進は保育、教育、医療なども例外ではありません。

 例えば、保育園をめぐる待機児童問題も、思い切った規制緩和によってコストカットを行い、参入規制を撤廃することで数を増やすべきと主張します。

 現状では、認可保育園以外は国の設置基準に合わせた施設ではないため、公費補助が少なく、保護者負担が増えるとともに、保育士の人件費が抑えられます。正規職員を雇うことは難しく、どうしても非正規の契約職員が増えることになります。当然、離職率は高くなり、安定した運営が難しくなります。安全面でも懸念すべきことが多くなるでしょう。

 しかし、河野さんは言います。「それはデメリットだけなのでしょうか」

 公費負担が少ない分、園の数を増やすことができます。それにより子どもを預けて就職する親の数は増加します。給与は安いですが、保育園での雇用も増やせます。子どもを産んだ女性を労働市場に戻すことが政策課題となっているわが国では、非常に重要なことではないでしょうか(⑦:55)

 この競争原理の徹底化は教育にも導入すべきと主張し、教える技術の高い教員には待遇を良くし、不適格な教員は排除すべきと訴えます(③:62)。

「敗者」と「弱者」を混同してはならない

 河野さんが繰り返すのは「敗者」と「弱者」を混同してはならないという点です。

 「敗者」は資本主義社会の中で「勝負」に負けた人たちで、条件が整えば再び「勝負」に挑むことができます。政府は再チャレンジを促進するための制度を整えるべきで、例えば雇用保険や職業訓練などを強化すべきだと言います。

 一方で「弱者」は身体に障害があったり難病を患っていたりと、他の人と同じスタートラインに立つことができず、公平な「勝負」ができない人たちのことを言います。この「弱者」には社会保障制度を整え、支援する政策が必要だと言います。

 市場で競争して敗れたプレーヤーには、再び挑戦することができる機会を保証することが大切だ。そしてそもそも市場で公平に競争することができない弱者に対しては、市場メカニズムの外で安心を提供する仕組みが必要だ(③:51)

 従来の日本の施策は「敗者」=「勝てないプレーヤー」を過剰に保護することで、公平な市場を用意することができなかったと言います。その結果、競争原理が働かず、経済が停滞する要因となってきたと主張します。だから、もう既得権益の保護は必要ない。「勝てるプレーヤー」になる努力をしてもらう必要がある。もしそれが出来ないのであれば、市場から出て行くしかない。そう厳しく突き放します。

 勝てないプレーヤーをこれ以上守るのではなく、勝てないプレーヤーに、勝てるプレーヤーになるか市場から退出するかの選択を求めざるを得ない。(③:52)

 そして、「社会は勝者を称え、尊敬する」。これに対して「勝者は汗を流して、稼いだお金の一部を社会のために使う」(⑦:47)。それは税金として政府に委ねるか、自分の価値観に基づいて寄付などを行うか、選択肢を与えられるべきだと言います。

 小泉政権が終わると、格差社会の問題が取り上げられ、構造改革の弊害が説かれることが多くなりました。これに対し、河野さんは真っ向から反論します。構造改革が悪いのではない。構造改革を徹底してこなかったことが、日本経済の停滞を招いている。構造改革によって競争力をつけるしか生き残る道はない。そのために国家ができることは、徹底した規制緩和であり、効率的な市場を創り上げること。マーケットの障害になっているものを取り除いていくことが国家の役割。そう強く主張します。

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筆者

中島岳志

中島岳志(なかじま・たけし) 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授

1975年、大阪生まれ。大阪外国語大学でヒンディー語を専攻。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科でインド政治を研究し、2002年に『ヒンドゥー・ナショナリズム』(中公新書ラクレ)を出版。また、近代における日本とアジアの関わりを研究し、2005年『中村屋のボース』(白水社)を出版。大仏次郎論壇賞、アジア太平洋賞大賞を受賞する。学術博士(地域研究)。著書に『ナショナリズムと宗教』(春風社)、『パール判事』(白水社)、『秋葉原事件』(朝日新聞出版)、『「リベラル保守」宣言』(新潮社)、『血盟団事件』(文藝春秋)、『岩波茂雄』(岩波書店)、『アジア主義』(潮出版)、『下中彌三郎』(平凡社)、『親鸞と日本主義』(新潮選書)、『保守と立憲』(スタンドブックス)、『超国家主義』(筑摩書房)などがある。北海道大学大学院法学研究科准教授を経て、現在、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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