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続・日韓「いやな感じの正体」

米国やロシアへの配慮と、韓国との向き合い方は、なぜこれほど違うのか

市川速水 朝日新聞編集委員

「前政権の検証」は日本には通じない

 一方の韓国も煮え切らない。

 今年中に対応策を決めるとしているが、年内にまだ数件の判決が出て、さらに10余件の裁判があり、これから裁判を起こそうという人もいる。ここまで火が付いた状態をどう鎮めるのか。日本側の不安をどう払拭するつもりなのか。

 数日前に会った韓国大統領府の要人は私に言った。「あくまで三権分立の中の司法判断であり、政策の変更はない。純粋な国内問題なので、日本は過渡に刺激しないでほしい」と。

 それは、難しいことだろう。この情報が瞬時に行き交う現代に、日本から見れば「蒸し返し」「これ以上何をしろというのか」という反感が芽生える土壌が常にある。その言葉が韓国に跳ね返って反日感情に火がつく。それが日本に伝わる…キャッチボールのたびにどんどん関係が悪化していく。

 韓国政府幹部の説明では、文在寅政権が今やっていることは、決して反日が目的ではなく、前政権が秘密裏に決めてきた数々の政策の決定を改めて検証し、過程をオープンにすることだという。その理屈が日本政府や国民に通じているとは到底思えない。

加害行為にも被害者救済にも冷たい態度が司法に浸透し、定着した

 韓国の説明不足と、日本の冷淡な態度。その背景には、戦後補償に関する半世紀以上の風土の違いも関係している。

 日本政府は原爆投下やシベリア抑留といった日本人の被害について、サンフランシスコ講和条約で日本政府としては責任を追及できないとし、「個人請求権は消滅していないので相手国で訴える権利はある」と政府が補償責任を負わない論拠としてきた。

 東京大空襲など空襲の日本人被害者に対しても、司法は「すべての国民は悲惨な経験を受忍しなければならない」と「受忍論」を展開し、我慢を強いてきた。行政も司法も足並みそろえて冷淡だった。

 シベリア抑留は、いまだに実態が解明されていない。日本とロシアの首脳が何度親しく会ったとしても、日本側が「シベリア抑留の被害の全容を徹底的に明らかにせよ。遺骨を全部返せ、個人補償の道を開け」と迫ったとは聞いたことがない。それでも被害者は黙っている。

 安倍首相は2016年9月、ロシア訪問の帰途にシベリア抑留中に死亡した日本人の慰霊碑に献花したことがあるが、戦後の抑留そのものの責任問題は決着がついていない。

 日本にとっては、サンフランシスコ講和条約で独立を実現し、戦勝国への賠償も免除された。「リセット」したまま、加害行為にも被害者救済にも冷たい態度を崩さなかった。それが司法判断にも浸透し、政治体制に大きな変化もなく、いつのまにか定着していった。

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筆者

市川速水

市川速水(いちかわ・はやみ) 朝日新聞編集委員

1960年生まれ。一橋大学法学部卒。東京社会部、香港返還(1997年)時の香港特派員。ソウル支局長時代は北朝鮮の核疑惑をめぐる6者協議を取材。中国総局長(北京)時代には習近平国家主席(当時副主席)と会見。2016年9月から現職。著書に「皇室報道」、対談集「朝日vs.産経 ソウル発」(いずれも朝日新聞社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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