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百田尚樹著「日本国紀」から憲法を考える(前編)

内山宙 弁護士

「日本すごい」の歴史エッセイ

 歴史に関する本というと、どの文献にこういう記述があるとか、文献の間で記載ぶりが違って、比較するとこちらが正しいのではないかとか、こういう新しい資料が見つかって、こういうことが分かったとか、参考文献の引用がされていたりして、小難しいことが書いてあって、とっつきにくい感じがする方もいるかと思います。しかし、この「日本国紀」にはそのようなものはなく、その分読みやすくなっています。随所に百田氏独自の解釈が盛り込まれていて、百田氏のファンであれば「そういう見方もあるのか」と面白く感じる方もいらっしゃることでしょう。

 ただ、日本史の通史と銘打っているにも関わらず、評価が分かれている点について学問的な根拠やその評価に触れずに断定したり、確実な根拠に触れずに事実のように書いたりする点が見られ、残念ながら歴史書としては信頼性が低いと言わざるを得ません。百田氏自身も、受験では使えないと認めています。小説であれば、実はこうだったのではないかと想像して書くことも許されるでしょうが、小説としては平板な記述が続くのでつまらないと思います。

 さらに、この時代であれば、この出来事が取り上げられているべきなのに取り上げられていないとか、その一方で、なぜこのようなエピソードを取り上げているのか不思議に感じることもありました。百田氏が興味を持っていることだけを取り上げている感じがあります。

 そうすると、歴史エッセイという位置付けになると考えられます(ただ、長いです)。内容的には、最近流行りの「日本すごい」モノになっているので、そういうものが好きな方には気持ちよく読めるだろうと思います。

実は高度な知的エンターテインメント

 しかし、ヒットメーカーの百田氏が、果たして歴史書としては信頼性がなく、エッセイとしては長すぎ、小説的なものとしてはつまらないものを書くだろうかというと、違うのではないかもしれないとも思うのです。というのも、私が弁護士として気になる憲法との関連事項について、「日本国紀」でどのように書かれているかをチェックしていて、いくつか問題のある記述を見つけ、その裏取りをしている作業の中で、実は極めて高度な知的エンターテインメントなのではないかと気づいたからなのです。

 つまり、百田氏が、自分なりの歴史観を示して書いているものの中に、いくつもの問題が仕込んであり、それを別の文献に当たって調べて間違いを確認していく作業は、極めて知的な営みであり、そうやって調べたことは忘れることはないでしょうし、調べること自体の楽しさを教えてくれるものだということもできるでしょう(ただ、その分、今回の執筆はとても大変でした…。)。

 間違い探しをしてTwitterに投稿している人もたくさんいます。「日本国紀」はただ単に読むだけのものではなく、そこから他の歴史書に手を伸ばし、確実な歴史上の事実はなんだろうかと広げていくことまで含めたエンタメ作品ということができるのではないでしょうか。

 ということで、憲法が絡むところとしては、17条憲法、明治憲法、日本国憲法の制定、憲法改正の四つポイントがありましたので、それぞれじっくり解説していきたいと思います。

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筆者

内山宙

内山宙(うちやま・ひろし) 弁護士

1974年、愛知県生まれ。中央大学法学部卒、成蹊大学法科大学院修了。裁判所勤務の傍ら夜間の法科大学院に通い、2007年司法試験合格。08年弁護士登録(静岡県弁護士会)。静岡県弁護士会・憲法委員会委員、日弁連・法科大学院センター委員。エンタメ作品を題材とした憲法の講演を多数回開催している。著書に『これでわかった!超訳特定秘密保護法』(岩波書店・共著)、小説『未来ダイアリー もしも、自民党改憲草案が実現したら?』(金曜日)などがある。

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