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百田尚樹著「日本国紀」から憲法を考える(後編)

内山宙 弁護士

幣原は天皇制を守ってくれた人

首相に就任した幣原喜重郎=1945年10月6日拡大首相に就任した幣原喜重郎=1945年10月6日
 さらに百田氏は、幣原はワシントン軍縮会議でアメリカの策略に乗って日英同盟を破棄したとか、中国にいる日本人が苦労しても自重するようにと言って助けなかったということなどを指摘しています。幣原は日本に不利なことをしてきた人物なので、9条という戦争放棄の条項を受け入れたのだと言いたいのでしょうか。

 しかし、日本に不利なことをする人なのだということで言えば、9条を発案してもおかしくないことにもなるはずです。ちなみに百田氏は幣原が嫌いなようで、華族制度廃止に際して、男爵であった幣原が地位に恋々としたようなことを書いています。しかし、ある出来事の真偽を判断する時には、人格攻撃をして貶(おとし)めようとするのではなく、その出来事に関する資料や前後の言動や出来事から検討していくのが、歴史家としてのあるべき姿なのではないでしょうか。

 しかし、百田氏もそんなに幣原を嫌いにならなくてもよいのではないかと思っています。

 当時の連合国は、日本が戦争をしたのは天皇制があったためだという厳しい考え方を持っていました。「百田尚樹著「日本国紀」から憲法を考える(前編)」で明治憲法や教育勅語に触れた箇所で説明したとおり、一大事が起これば天皇のために命がけで戦うように教育されてきたからです。マッカーサー自身は、占領下の日本を統治するためには、天皇の政治責任を問わない方が望ましいという考え方を持っていましたが、それが通用しないような状況だったのです。

 そのような状況の中で、天皇制を存続し、天皇の政治責任を問わないようにするために、戦争放棄をセットにして状況を打開しようとした側面がありました。日本が二度と戦争できない状況になれば、象徴としてであれ天皇制が存続できる、という読みがあったのです。百田氏のような右翼側からすれば、幣原は天皇制を頑張って守ってくれた人なのですから、もっと感謝してもいいのではないでしょうか。

 そうした様々な要素を併せ持つ幣原は、小説の主人公にしても面白いのではないかと思います。この日本国憲法制定の経過を書いた小説としては「憲法はまだか」(ジェームズ三木)や「白洲次郎 占領を背負った男」(北康利)などがありますので、お読みいただけたらと思います。

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筆者

内山宙

内山宙(うちやま・ひろし) 弁護士

1974年、愛知県生まれ。中央大学法学部卒、成蹊大学法科大学院修了。裁判所勤務の傍ら夜間の法科大学院に通い、2007年司法試験合格。08年弁護士登録(静岡県弁護士会)。静岡県弁護士会・憲法委員会委員、日弁連・法科大学院センター委員。エンタメ作品を題材とした憲法の講演を多数回開催している。著書に『これでわかった!超訳特定秘密保護法』(岩波書店・共著)、小説『未来ダイアリー もしも、自民党改憲草案が実現したら?』(金曜日)などがある。

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