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29時間で身につく「にわか韓国語講座」(14)

第4章 必要な「固有語」と「音変化」 4.中級、上級に進むために

市川速水 朝日新聞編集委員

韓国で最も知られる日本の女優の一人、中山美穂さん。1999年、韓国である日本語を流行させました

「読める」「書ける」を優先し、「話せる」を後回しにしてきました

 アンニョンハシムニカ!

 前回は予定のちょうど中間地点でした。一番難しい部分を突破しました。「読む」に関しては、すでにかなり進歩しているはずです。

 私自身も嫌になるほど音変化の様々なパターンを羅列しました。次回からは助詞の使い方などを経て、いよいよ「話す・書く・聞く」ための仕上げに向かいます。今回はその間の「踊り場」のようなものだと考えてください。「読み飛ばし可」の巻です。

 この講座の基本概念(偉そうな…)は「通じりゃいいじゃん!」です。言ってみれば、「中級をすっ飛ばして初級と上級を同時並行的に食い散らかす」方法でした。いま、改めて「韓国語習得の王道」について考えてみたいと思います。

 韓国語の留学はだいたい次のように進みます。もちろん大学や語学学校ごとに独自のテキストを使っていますので、細部の違いはありますが、おおむねということで。

初級(1級)=ハングルをひととおり書けるように。道を聞かれた時に「まっすぐ」「右側に」「銀行」など簡単な答えを言えるように。固有数字など数の数え方。
初級(2級)=友達同士の会話(くだけた口語)がある程度できるように。「~だって」「誰々が~と言っていました」と伝聞調、間接話法をある程度話せて理解できるように。
中級(3級)=2級をさらに深めていく。
中級(4級)=新聞を読んで簡単な記事を理解する。仲間や先生と少し難しい会話ができるように。
…… …… ……  ここまでで日常会話OKレベル  …… …… ……
上級(5級)=4級をさらに深めていく。随筆や小説の一節など長文をなめらかに読めて理解できるように。クイズのような遊びや討論もできるように。
上級(6級)=難しい論文や詩、新聞記事を深く理解できるように。
…… …… …… これで「語学」の基本は極めたレベル …… ……

 各クラスとも、家庭での会話、友人同士、会社での上司と部下の会話、食堂での注文など、場面を設定して韓国の文化や慣習も学べるような工夫がされています。歌や芝居の発表会を通じて様々なジャンルの言葉・文化を学び、「サムルノリ」(韓国の田楽風の器楽・踊り)といった伝統文化を習うこともできます。

 この「にわかん」では、5、6級のある程度の知識(主に漢字語)と1、2級での初歩を同時に進め、ほかの語学であれば真っ先に取り組むべきであろう「文法」や「発音」「語彙」については「日本とほぼ同じ」と知らんぷりして可能な限り省いてきました。「読める」「書ける」を優先し、「話せる」を後回しにしながらやってきたわけです。

 固有語ややわらかい言い方はさらに後回しにしましたので、語学学校でいうと、2~4級が最後の関門となります。

 言葉というのはゴールがありません。新聞記者をしていても、日本語を相手にしているのに、「なぜ自分はこの歳になるまでこの単語の本当の意味を知らなかったのだろう」と愕然とすることがあります。

 言葉を学ぶのにはゴールがないわけですから、中間点もありません。それぞれの心の中に「このあたりまでは到達したい」というのがゴールで、その半分が中間点といえるのではないでしょうか。

 私の場合は何度かふれましたが、ゴールとは「長く話していてもストレスを感じず気楽に過ごせる」「分からない時にうまくごまかし、何がどう分からないかを別な言い方で確認できるかどうか」ということになります。

 そして何よりも、「言葉を通じて韓国の文化や韓国人の考え方が自分の体に染み入ってくる喜び」を感じることがゴールです。

 どうすれば「なかなかやるじゃん」と思ってくれるかを考えてみました

身の回りにあふれる韓国語の教材。どれが早道なのか迷いますね。
 さあ、前置きが長くなりました。長い文を使いこなすためには、「形容詞(形容動詞)+名詞」や「副詞+動詞」など、正しい文法に合致した滑らかさを身につけたり、あるいは「ああ、そうなんだってね」という伝聞の形などをマスターしたりする必要があります。

 前者の場合、「形容詞+名詞」の形が難しければ、「ここに住む学生」を「学生はここに住んでいる」と言い換えればいいし、後者の場合、「誰かがこう言った」と伝聞調を消して直接的に言えばいいのです。

 ただ、日本語とまったく同じような発想で言えた方が、頭の切り替えが必要なくてリラックスできますよね。

 そこで、「どうしたら中級・上級を極められるか」を考えてみました。「この人、なかなか日本語が上手だなあ」と外国人に感じる時はどんな時でしょうか?

・現在形や未来、過去形といった時制を的確に操れること
・「歩くの人」(私の身の回りの外国人にすごく多い間違いです)など「の」や助詞の違い方が自然なこと
・「そうだったようです」「みたいです」と、あいまい表現や相づちがうまいこと
・「やれっていったんです」など、命令口調と「ですます」をうまく組み合わすことができること
……などが思い浮かびます。

 これを韓国語にあてはめ、どうすれば韓国人にとってスムーズに聞こえるか、「なかなかやるじゃん」と思ってくれるかを韓国人の友人と一緒に考えてみました。

 硬く分類して、ここでは「形容詞・形容動詞の는・은の使い方」「伝聞・間接話法と曖昧・推測語」「口語体の習得」に分けて考えたいと思います。

連体形をつくる用言の末尾「는・은」をスムーズに使い分ける

 その品詞が形容詞なのか動詞(形容動詞)なのかで少し形が変わります。パッチム(終声音)が脱落したり変化したりするケースが目立つことに注意が必要です。

 形容詞+名詞では形容詞が変化し、「ㄴ」(ニウン)が挿入されます。

・「温かいコーヒー」  따뜻한 커피(タットゥッタヌ コッピ)
 「温かい」で辞書を引くと「따뜻하다」(タットゥッタダ)と載っています。でも、この原形のまま会話で使うことはほぼありません。後に名詞が続く場合は最後の「다」が脱落して、「하」が「한」となります。続けて名詞が来ます。形容詞はすべて「~다」「~하다」で終わりますが、全部にこの原則が通用します。
・必要なもの 필요한 것(ピリョハヌ ゴッ)
・大きな犬  큰 개(クヌ ケ)
・まずい食事 맛없는 식사(マドムヌヌ シクサ)

 では、次に「寒い朝」は?
・추운 아침(チュウヌ アッチム)

 「寒い」は原形が춥다(チュプタ)。名詞が後にくるとずいぶん形が変わりますね。原形から「ㅂ」が脱落する仕組みです。ほかにも原形が変わるパターンがたくさんありますが、今後の講座でまとめて説明します。

 次に、動詞と名詞が結びつく場合です。形容詞の時と少し違って「는」(ヌン、ヌヌ)が挿入されます。
・好きな人 좋아하는 사람(チョアハヌヌ サラム)
・待っている客 기다리는 손님 (キダリヌヌ ソヌニム)
・歩く動物  걷는 동물(コヌヌヌ トングムル)
・飛ぶ鳥 나는 새(ナヌヌ セ) 「飛ぶ」の原形は날다
・住む学生 사는 학생(サヌヌ ハクセング) 「住む」の原形は살다

 最後の二つは、「寒い」とは別な「ㄹ」脱落のパターンですが、これも近く説明しますね。

ちょっと寄り道⑳ 流行語を織り交ぜて
 若者がよく使う言葉や世相を表す言葉が、いつの間にか定着していくのは日韓共通です。日本の今年の流行語大賞は「そだねー」でしたね。でも、音引きのない韓国や、「そうだね」と何が違うのか分からない人には通じません。「半端ない」も外国人には理解が難しいでしょう。流行語というのは、その国の国語を極めたかどうか、笑えるか笑えないかで語学力の水準を示すのですね。だから、たまに使うと相手が「お、知ってるの?」と驚いたりニコっとしたりします。そんな言葉を紹介します。
〈386世代〉(サムパルユク・セデ)
 民主派弁護士から国会議員、大統領に転身した盧武鉉(ノ・ムヒョン)氏の登場とともにはやりました。30歳代、(19)80年代に大学生として過ごし、(19)60代生まれの3つの条件を備えた年齢層です。2000年代の話ですから、今は50代前半ぐらいでしょうか。日本でいうと、いわゆる全共闘世代、団塊世代ということになります。1980年、光州で起きた大規模な民主化運動弾圧事件に強い影響力を受け、反権力・民主化に好感を持ち、自分たちで今の新しい韓国を形作ってきた自負があるという主流を担う世代。私もぎりぎり当てはまるので「386世代だ」と何度か主張したことがあるのですが、日本人には適用されないのか、なぜか無視されています。
〈56盗〉(オリュク・ト)
 56歳になっても会社や組織に留まろうとすることは給料泥棒(盗っ人)みたいなものだというキツイ悪口です。韓国では「386」のような社会の主流が若手に世代交代するに伴い、事実上の定年がどんどん早まりました。同期や後輩が上司になったら、やめろという合図だとか、それでも同じ組織にいるのは韓国人としてのプライドが許さないとかの理由で50代前後には進退を考えざるを得ません。釜山(プサン)の湾口の「五六島」と呼ばれる小島群が、潮の満ち引きによって5つに見えたり6つに見えたりすることが由来なのですが、島と盗の発音が同じ「ト」で、かけ言葉なのですね。
〈짱〉(チャン、チャング)
 もともとは「最高!」という感じの俗っぽい言葉でしたが、何かの後につけることによって、「イケメン」の「イケル」のような意味で使われています。2000年代、中年女性が、抜群のスタイルを保つエクササイズの本を出してバカ売れした時には、「モムチャン」と言われました。몸짱。「モム」は「体」です。ナイスバディ、「体、半端ない」というニュアンスです。コリアンタウン・新大久保の駅前には、「~짱」という看板がたくさんありました。料理を「最高!」とアピールしているのですね。
〈심쿵〉(シムクン、シムックング)
 「萌え」ですね。심は心、心臓のこと。心がクン!と。キュン!と、です。一目惚れした時や悪い意味でも衝撃を受けた時に使います。嬉しくてキュンとなった時も驚いた時も「아! 심쿵했어」。
 余談の余談ですが、韓国人に大流行した日本語ってご存じですか?
 「お元気ですか」です。1999年、韓国で爆発的にヒットした日本映画「Love Letter」(ラブレター、岩井俊二監督)の中で主演の中山美穂さんが叫んだ言葉です。
 雪の小樽を舞台にした恋愛物語のストーリーが受けたのでしょう。今も小樽に韓国人観光客が多いのは、ラブレターの「聖地」だからです。中山美穂さんは、今も韓国で最も知名度が高い日本の俳優の一人です。30代後半以上の人に「オゲンキデスカ!」というとけっこう受けます。流行語の逆輸入というのでしょうか…。

「チャン!」は新大久保でたくさん見つけました。この看板は「トンチャン」。「トン」は豚なので豚料理ですね。『ブタ最高!』でしょうか。
 本題に戻ります。

伝聞・間接話法や曖昧・推測語

 これはけっこう難しいです。文の間に命令調や依頼する言葉、疑問文も挟まっている場合が多いので。日本語と同じぐらい難しいと考えてください。私なりに頭をひねって駆使した例文を考えてみました。このビョンホンとヨンジュンの会話さえ覚えればいくつものパターンを習得できるでしょう。

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