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本当は怖い国民投票 その前にやるべきこと

冷静な言論空間をつくるために「ランダム・アセンブリ―」の活用も一策

曽根泰教 慶應義塾大学名誉教授 日本アカデメイア運営幹事

憲法改正の政治日程に狂い?

 日本では、このほど閉会した臨時国会で、憲法審査会の入り口で野党が議論にのらず、実質審議に入れなかった。現状では公明党が簡単には自民党案には乗らないと表明しており、憲法改正の発議にかかる「三分の二要件」を考えると、議論がなかなか前に進まないという政治的な問題がある。安倍政権が当初もくろんだ「臨時国会での自民改正案の提示」という政治日程は、のっけから狂った。

 この分だと国民投票にまで進みそうもない。だから、国民投票のことまで考える必要はないという意見もあるが、私は疑問だ。憲法改正における国民投票にどう対処したらいいのかの検討は、憲法改正に制度として国民投票が伴っている限り、十分に検討しておくべき課題である。

 とはいえ、いま問われるべきは、今回、先送りされた期日前投票のなど投票環境改善ではない。現在、国民投票をめぐっては、もっぱら民放連が提起したテレビコマーシャルについて議論されている。確かに、それが重要でないとはいえないが、ポピュリズムはテレビコマーシャルだけから発生するわけではない。より奥行きのある、幅の広い議論が必要であろう。

イギリスの町中を走った赤いバス

 一つ目の懸念が準備不足だとすれば、二つ目のそれはポピュリズム的な煽(あお)りである。

イギリスの町中を走り回った赤いバス(筆者提供)拡大イギリスの町中を走り回った赤いバス(筆者提供)
 たとえばイギリスでは国民投票にあたり、「われわれは、週、3億5千万ポンドの拠出金を出している、それを国民健康保険の財源にしよう」と大書された赤いボディーのキャンペーン・バスが町中を走り回った。

 ここでの問題は二つ。一つ目は、英国独立党党首のファラージではなく、保守党の幹部のボリス・ジョンソンがこのバスを走らせていたという点。二つ目は、3億5千万ポンドの拠出金についてのみ大書して、EUとは再分配を行っている統治機関だという点が抜け落ちている点である。

 投票後、勝利した英国独立党党首のファラージは、その誤りを認めざるをえなかった。つまり、イギリスは拠出金を出すだけではなく払戻金をもらっている、と。その分を除くと、国民健康保険をまかなうことはできないからだ。

 実は、このような再分配は、農業、地域、科学、途上国支援など各分野に及んでおり、国民は知らなくても政治家は知らないはずはない。それなのに、その部分を伏せて、離脱を煽ったわけだ。「Post-truth」と言わずして、なんであろう。。

 イタリアでどうだったか。憲法改正の内容(大きくいって、両院の関係と中央地方関係の整理)は、イタリア政治を考えればしごく当然の改革案であった。しかし、国民投票の争点は憲法にはならなかった。途中から、レンツェ内閣の信任投票にすり替わってしまったのである。

 憲法問題に長年携わってきた中山太郎氏は「国民投票とは猛獣である。猛獣使いはまだ現れていない」と述べたといわれる。至言である。国民投票の怖さは、憲法改正派も反対派も心すべきことだ。ついでながらいえば、参加民主主義論者もそれに反対する者も、国民投票の怖さを知っておくべきである。

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筆者

曽根泰教

曽根泰教(そね・やすのり) 慶應義塾大学名誉教授 日本アカデメイア運営幹事

1972年慶應義塾大学大学院修士課程修了後、同大学法学部助手、85年同学部教授、90年総合政策学部教授、94年より政策・メディア研究科教授。2018年慶應義塾大学名誉教授。海外歴:イェール大学客員研究員、オーストラリア国立大学客員研究員、エセックス大学客員教授、 ハーバード大学客員研究員など。主な著書に、『日本ガバナンス』(東信堂、2008)、『「学ぶ、考える、話しあう」討論型世論調査』(共著、ソトコト新書、2013) など

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです