高橋 浩祐(たかはし・こうすけ) 国際ジャーナリスト
英国の軍事専門誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」東京特派員。1993年3月慶応大学経済学部卒、2003年12月米国コロンビア大学大学院でジャーナリズム、国際関係公共政策の修士号取得。ハフィントンポスト日本版編集長や日経CNBCコメンテーターを歴任。朝日新聞社、ブルームバーグ・ニューズ、 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版、ロイター通信で記者や編集者を務める。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
米ソの極秘作戦プロジェクト・フラはなぜ、長い間知られなかったのか?
筆者は2018年10月10、11両日、北方領土問題の取材で、北海道根室市と羅臼町に行き、根室市長や羅臼町長、北方4島の元島民らの方々の話を伺った。その際、納沙布岬にある北方館の小田嶋英男館長から、この「プロジェクト・フラ」という米ソ極秘作戦の史実を初めて知った。
日本では、戦後70年となった2015年度から「北方領土遺産発掘・継承事業」に取り組んできた根室振興局北方領土対策課の手によって、プロジェクト・フラの具体的な史実が判明した。
同課は、サハリン州の歴史研究者、イーゴリ・A・サマリン氏が樺太南部と千島列島での上陸作戦に投入された全艦船を調べ上げた論文や、国後島の地元紙「国境にて」の過去記事など各種資料を照らし合わせ、北方4島の占領作戦には、前述のアメリカの貸与艦船149隻のうちの11隻を含む18隻(輸送船を含む)が使用されていたことを突き止めた。このアメリカの貸与艦船は、ソ連海軍によって千島列島のほか、南樺太や朝鮮半島北部の上陸作戦にも使われた。
北海道新聞が同課の調査結果をもとに、2017年12月30日付の朝刊1面のトップ記事で大きく報じた。筆者も2018年11月2日のTOKYO MXテレビ「モーニングCROSS」で紹介したところ、ネットで大きな反響があった。
北方館の小田嶋館長は取材に対し、「これは多くの方が大変なショックを受けた。今まではソ連の一方的な侵攻によって4島が占領されたと思われていた。しかし、いろいろな昔の話の中では、国籍不明の船がどうもいたというような見方をしていた人がいた。どうもソ連の船じゃないようだと」と述べた。
作家の半藤一利氏も筆者の取材に対し、「プロジェクト・フラの話は初めて聞いた。確かに当時、ソ連には上陸用舟艇がなく、日本陸軍もソ連の北海道への上陸を心配していなかった。私も(ソ連の北方4島上陸作戦については)おかしいなとは思っていた。ソ連時代は、こうした昭和史の資料がなかなか出てこなかった。ロシアになり、民主化されてから徐々に出るようになってきた。このため、私もソ連時代はなかなか資料を入手できなかった」と述べた。