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世界の潮流に逆行する水道民営化

決定の手順にも疑問の余地が大きい改正水道法

六辻彰二 国際政治学者

 12月6日に衆議院本会議で可決された改正水道法案は、水道事業に民間企業が参入できることを眼目とする。しかし、これは一度民営化されていた水道事業が再び公営に戻される世界の潮流と逆行するものであるだけでなく、決定の手順にも疑問の余地が大きい。

なぜいま水道民営化か

拡大南部山浄水場=宮城県白石市
 まず、なぜ公営が原則だった水道事業が民営化しやすくされたのか。これに関して、政府は「収支が悪化する水道サービスを存続させるため」と強調する。

 少子高齢化、人口減少が進むなか、水道使用量は減少し続けているが、水道料金は独立採算が原則のため、使用量が減れば減るほど、世帯当たりの負担額は大きくなる。実際、多くの自治体では水道料金が段階的に引き上げられている。

 その一方で、敷設されている水道管などの施設の老朽化も進み、さらに自然災害が多発して復旧作業のニーズも高まっているが、水道事業の収益が伸び悩んでいるため、水道関連の投資額は減少している。厚生労働省によると、平成10年に1兆8000億円を超えていた水道事業への投資額は、平成25年には約1兆円にまで下落している。

 これに加えて、団塊世代の退職なども手伝って、水道職員は30年前と比べて30パーセントも減っている。

 このままでは水道サービスそのものの存続が危ぶまれるなか、政府が提案したのが「民間の資金、人材、ノウハウの活用」だった。民間企業の参入には、公営より効率的に水道事業が経営され、収支悪化に歯止めをかけることへの期待がある。

 とはいえ、人間に不可欠な水を民間企業に委ねることへの懸念もあるため、国鉄や電電公社の民営化と異なり、水道事業では経営権のみを民間企業に委ね、施設などの所有権は地方自治体が握る「コンセッション方式」が採用されている。これにより、地方自治体による管理・監督が可能と政府は説明している。

再公営化の波

 ただし、水道民営化は世界の潮流に全くといっていいほど逆行している。

 そもそも、世界を見渡すと水道民営化は新しいテーマではなく、欧米諸国では1980年代から行われてきた。当時、石油危機によって財政赤字が深刻化し、各国で「小さな政府」を掲げる新自由主義が台頭したことは、その大きな原動力となった。

 さらに、財政難に陥った開発途上国に資金協力を行う国際通貨基金(IMF)や世界銀行も赤字削減の一つの手段として推奨した結果、水道民営化の波は先進国以外にも広がったのである。その際、今回の改正水道法で導入されたコンセッション方式は、多くの事例で採用されていた。

 ところが、開始から20年以上経つ現在、いったん民営化された水道事業が再び公営化されるケースが目立つようになっている。

 トランスナショナル研究所と国際公務労連の調査によると、民営化されていた水道事業が再び公営化された事例は、2000年から2014年までの間に世界35カ国で180件にのぼった。そのなかには、水道民営化の先駆けとなったフランス(49件)やアメリカ(59件)の事例も多く含まれる。

 イギリスのシンクタンク、スモール・プラネット研究所によると、民営化された事業が再公営化される割合は、エネルギーで6パーセント、通信で3パーセント、輸送で7パーセントだったのに対して、水道の場合は34パーセントにのぼる。

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筆者

六辻彰二

六辻彰二(むつじ・しょうじ) 国際政治学者

1972年生まれ。博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。アフリカを中心に世界情勢を幅広く研究。著書に『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、共著に『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)など。その他、論文多数。Yahoo! ニュース「個人」オーサー、NEWSWEEK日本版コラムニスト。

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