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[114]時には説教老人のように

金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

NHKのBS1で放送された『ラップと知事選 沖縄 若者たちの声』ドキュメンタリー『ラップと知事選 沖縄 若者たちの声』(NHKの公式サイトより)

11月27日(火) 午前中「報道特集」の定例会議。午後から日本橋人形町へ。今年公開されたドキュメンタリー映画を見まくる。今年はドキュメンタリー映画を見ているようで実はあんまり見ていなかったことを後悔する。

 19時からサントリーホールで、ズービン・メータ指揮のバイエルン放送交響楽団とエフゲニー・キーシンのピアノ。これは値段のお高いコンサートだったが、お客がたくさん入っていた。キーシンは本来サービス精神旺盛の人だが、この日のアンコールは3曲にとどまった。僕がこれまで聞いたキーシンのコンサートでも8曲くらいアンコールに応じたことがあったものなあ。後半はストラヴィンスキーの『春の祭典』。巨匠ズービン・メータは現在82歳。杖をつきつき、介助の人に支えられながらステージに登場した。少しはらはらした。けれども椅子に座って指揮棒を振り始めるや別人のように毅然となった。特に『春の祭典』のようなすさまじい曲は大丈夫なのだろうか、と若干心配になってしまったが、そんな心配なんぞどこかに吹っ飛ぶほどの素晴らしい指揮ぶりと演奏だった。音楽は生きる力と情熱を引き出す。

11月28日(水) 今日も朝から日本橋人形町でドキュメンタリー映画漬けになる。きのう3本、今日も3本。ドキュメンタリー映画は集中力が求められ気を抜けないので、とても疲労した。だが得られたものは大きい。

 途中、上映会場を抜けて近くにある喫茶店に入る。こんな喫茶店がまだ生き残っているのかと思うほどのレトロな喫茶店だった。快生軒。「創業大正八年」と看板に出ている。店内は喫煙OKでお客さんがスパスパ煙をふかしている。何だか今も店内にリベラルでハイカラな帝大生と、それを監視している特高がいそうな雰囲気の喫茶店だ。バーテンダーもレトロな感じだ。夕刻、映画を一緒にみた方々お二人と軽く喉を潤す。東京の下町の飲食店は好きだな。先日、大工哲弘さんたちとご一緒した浅草の店も気取らずでよかった。そういうところに惹かれるというのは自分が歳をとったという動かぬ証拠だろうな。

またノスタルジー病にかかったみたいだ

11月29日(木) 朝、早起きをしてプールへ行き、がっつりと泳ぐ。午後CSの『ニュースの視点』の取材。森美術館で開催中の『カタストロフと美術のちから』展を紹介するための企画。まずは練馬で写真家の畠山直哉さんにインタビュー。その後に品川に移動して、Chim↑Pomのメンバーのひとり卯城竜太さんに話を聞くことに。NディレクターとWカメラマンとは波長がぴったりと合うので、本当に仕事がしやすい。畠山さんはあれ以来、故郷・陸前高田を撮っている。それは何故なのか、写真を撮るという行為の意味は、あれ以前とあれ以降では本質的に変わったのか、変わらなかったのか。いくつもお聞きしたいことがあったが、誠実に答えていただき、これはきちんと紹介しなくてはならないという思いに駆られた。

「Chim↑Pom(チンポム)」の6人。左から水野俊紀、岡田将孝、エリイ、卯城竜太社会的メッセージ性の強い作品を発表し続ける「Chim↑Pom(チンポム)」。右から3人目が卯城竜太さん
 Chim↑Pomはコントラバーシャルなアート集団である。その挑発的な行為=アートは、
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