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安倍政権が続く限り、沖縄の民意は無視され続ける

辺野古へ土砂投入、そして県民投票へ。沖縄国際大学の前泊博盛教授に聞く

岩崎賢一 朝日新聞社 メディアデザインセンター エディター兼プランナー

米軍キャンプ・シュワブの護岸に囲まれた海域に土砂投入が始まり、近くには抗議船も集まった=2018年12月14日、沖縄県名護市

 米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設計画で、政府は12月14日、海上からの土砂投入を始めました。

 来年2月には、辺野古の新基地建設を巡る県民投票が予定されています。沖縄で今何が起き、県民はこれらの事態をどう受け止めているのか。

 元琉球新報論説委員長で現在は沖縄国際大学・大学院教授の前泊博盛さんにインタビューしました(12月6日夜、普天間飛行場がある宜野湾市の沖縄国際大学でインタビューし、土砂投入などについて14日に改めて聞きました。インタビューには学生も同席しました)。

沖縄国際大学の前泊博盛教授

前泊博盛(まえどまり・ひろもり) 1960年、宮古島市生まれ。1984年、琉球新報入社。社会部、政経部などを経て、論説委員長。この間に、2004年、外務省機密文書のスクープと日米地位協定改定キャンペーン記事「検証 地位協定から不平等の源流」で第4回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。2011年から沖縄国際大学・大学院教授。専門は、沖縄経済論、基地経済論。経済安全保障論、日米安保論など。

「強権的政治家」安倍首相の本領を発揮した行為

――土砂投入について、どう受け止めていますか。

 土砂投入は、この国が無法国家、放置国家、強権的国家であることを示す暴挙だと思います。

 選挙で再三再四示された基地建設反対の圧倒的な「民意」を国家権力が強引にねじ伏せ、他国軍隊の新基地建設を強行する。しかも、2兆5500億円とも試算される国民の血税で建設する。屈辱的な行為です。そこまでして造られる辺野古新基地は、何から何を護るための基地なのか。全く理解できません。

 体を張って基地建設に抵抗する住民は、この国の戦後民主主義の末路を示すものです。警察権力によってねじ伏せられ、排除されている姿が、この国の悲しい民主主義の実態を示しています。

 「強権的政治家」としての安倍晋三首相の本領が発揮された行為です。

 選挙で示された民意を踏みにじり、問答無用の国家の暴力が、なぜこの国では許されるのか。この国の圧倒的多数の国民の姿勢も含め、この国の政治の貧困さを実感します。

いま沖縄で起きていること

――今、沖縄で何が起きているのでしょうか。

 12月6日の沖縄の地元紙『琉球新報』朝刊の1面には、三つの重要な記事が同時に掲載されていました。

前泊教授が「三重苦を表している」という12月6日の琉球新報朝刊1面

 一つは、辺野古の埋め立て工事を差し止めるよう、沖縄県が国に求めた訴訟の控訴審判決の記事です。控訴審で沖縄県は、辺野古の埋め立て工事には、知事の岩礁破砕許可が必要なのに、国が許可なく工事を進めているのは違法だと訴えましたが、裁判所は「審理の対象にはならない」として、控訴を棄却しました。再び、沖縄県は救済を求めた司法の場で門前払いを受けたということです。

 次に、「琉球セメント」という私企業の桟橋から、国が辺野古の埋め立てに必要な土砂を運搬船に積み込む作業が再開したというニュースです。本来、セメントの原材料と製品を運搬するために造られた桟橋から、「目的外使用」の形で県の許認可も無視して土砂の運び出しを行う。国なら、法を無視してもいいという傍若無人な対応です。

 三つ目は、米軍伊江島補助飛行場で、F35Bステルス戦闘機3機が離着陸訓練を初めて実施したという記事です。沖縄の負担軽減のために「普天間基地の返還」「空中給油機の岩国基地移転」「県道越え実弾射撃演習の本土移転」などを決めたはずでしたが、ここ数年、沖縄の負担は増すばかりで、米軍機の爆音被害や墜落・不時着事故、部品落下事故などひっきりなしに起きています。

 この沖縄国際大学も、最近は涼しくなったので窓を開けて授業をしていますが、ここ数日は普天間基地に飛来する外来機の戦闘機の爆音がひどくて、窓を閉めざるを得ないような状況です。普天間基地近くの小中学校では、キーンという金属音がものすごく、日ごろからヘリの爆音などには慣れているはずの小学生、幼稚園生が、「怖い!」と恐怖を訴えるほど大変だったそうです。大変な被害がでています。

オスプレイが駐機場に並ぶ米軍普天間飛行場=沖縄県宜野湾市

「三権分立」はすでにこの国では崩壊している

 裁判に訴えても救済されません。土砂の積み出しも、琉球セメントが県に届けを出したから許可は当然だという態度で政府は土砂搬出を始めます。まだ県は許認可を留保しているのに、それを無視して国が私企業の桟橋の目的外使用を平然と行う。

 司法、行政、立法がお互いを牽制し合って、法の執行を正しく行うという「三権分立」の原則は、すでにこの国では崩壊しています。行政と立法の横暴を許さない相互監視機能(チェック&バランス)を果たすはずの司法が、事実上、行政(内閣)と結託してしまったら権力の横暴がまかり通ってしまう。そういう状況が沖縄で露骨にでてきています。

 国民が、行政に対して不平、不満、不服があったとき、適正に行政が執行されるために訴える制度として「行政不服審査法」があります。にもかかわらず、国の機関である沖縄防衛局がその制度を悪用して国土交通相に救済を求め、沖縄県を訴えています。これはいわゆる国の自作自演です。行政不服審査法の専門家たちも、この法律は「私人」が使うものであって、国が使うために作られたものではないと言っています。

 国は、「私人」としての沖縄防衛局が、同じ国の立場にある国土交通相に県の埋め立て承認撤回取り消しを求める審査請求をし、救済してもらいました。

 では、沖縄防衛局は「私人」として何をしているのでしょうか。「私人」が公有水面の埋め立てをして、外国軍隊のための施設を造ろうとしています。「私人」が、「承認撤回は日米安全保障条約に重大な影響を与える」という話をしています。国は事ある度に「外交や安全保障は国の専権事項」といいながら、外交と安保にかかる新基地建設の事業を「私人」が担っているという矛盾が出てくるわけです。

 こういう矛盾が十分に議論されていません。裁判に訴えても訴訟の対象にならないと、はじかれてしまいます。こうなってしまうと法治国家ではなく、問題を放置している放置国家ですよね。

 また、そういうことに国民があまりに無知で、無関心で、問題を放置してしまう。

 メディアも、そのことについて問題点を追及しきれていない面があります。

 そして国会では、この問題は無かったかのことのようにしています。

埋め立て土を運び出す琉球セメントの桟橋は警備員が入り口を固めるものの、周辺は静かな海と集落だった=沖縄県名護市安和

沖縄の企業が基地の仕事をやらなれば本土の企業が持っていく

――前泊教授が指摘するように、国民でも無関心な人たちは「沖縄の人たちが反対なら、なぜ地元企業の琉球セメントが桟橋を使わせているのか」と疑問に思っています。「沖縄が割れているのか」と思う人もいるでしょう。

 企業は儲かるところに動いていくのは当たり前です。埋め立てに伴って滑走路を造る際、セメントを使うわけですから。こんなに儲かる仕事をやらない手はありません。やらなければ、本土系企業が来て、仕事を持って行ってしまう。そうすれば被害だけが沖縄に残るかたちになります。

 脱基地経済を訴えた翁長雄志さんが知事に就任したとたん、安倍政権は基地関係の公共事業予算を増やして、一般の公共事業予算を減らしてきました。こういうことを国民はほとんど知りません。

 安倍政権下の沖縄は、まるでいじめっ子たちに校舎の裏に連れて行かれてボコボコに暴行され、いじめにあっている小さな子供のような感じです。そのことを教師も保護者も他の生徒たちも知らないか、あるいは知っていても自分たちがいじめの対象にならないように、知らないふりをしているのかもしれません。

 内閣府沖縄総合事務局が出している一般の公共事業(道路や港湾、農地開発など)の発注額と防衛省沖縄防衛局による基地関連の公共事業の発注額を地元の沖縄県建設業協会の「現況」で比べると、2014年度を境に沖縄防衛局からの発注額が上回っています。

 脱基地の経済を目指すと、基地に依存しないとやっていけないような予算の出し方をする。政府にとって、沖縄のような貧乏県をつぶすのは、赤子の手をひねるより簡単なことなのかもしれません。

 そもそも沖縄の公共工事は、水をザルで受けるような「ザル経済」の実態もあります。沖縄に落とされる公共工事の多くが本土ゼネコンを中心とする他都道府県の企業に、多い時は6割ほどを持っていかれています。沖縄に公共事業をどんどんつぎ込んでも、ザルの目を抜けて、本土企業の受け皿に落ちて、本土に還流していく。そんな「ザル経済」と揶揄される現状も、沖縄経済の課題になっています。

 こうした、基地関係の公共事業を増やしていき、建設業界が揺さぶられるようなかたちになっています。そこに、基地建設で使うセメントを本土に発注するというような脅しが政府から来たら、一民間企業の琉球セメントは、協力しないわけにはいかないと思います。

「裏技」として、埋め立て土を運搬船に積み込んだ琉球セメントの新設された桟橋=沖縄県名護市安和

知事選の勝敗予想 私は外れ、学生は当たった

 今年9月の沖縄県知事選の関連では、『朝日新聞』の8月23日付朝刊に「沖縄振興予算 知事選がらみ」という記事が出て、物議をかもしました。内閣府幹部の「新知事の辺野古移設への態度によって年末の予算編成で増減することになる」という発言が書かれていました。政府の言うことをきかないと予算がもらえないかもしれないということで、騒ぎになりました。

 知事選挙の結果をみると、公共事業に依存している離島を中心に、自公が推す佐喜真淳候補(前宜野湾市長)の得票が、当選した玉城候補を上回りました。ところが、公共事業にあまり依存をしていないような沖縄本島内の市町村では、国頭村や佐喜真候補の地元・宜野湾市を除き、玉城候補が圧勝しています。

 私は、今回の知事選では、自公が推す佐喜真候補が勝つと分析していました。前回の知事選で、自民推薦の現職・仲井真弘多氏がとった26万票を基礎票として、今回は佐喜真氏を推薦した公明党の8万票から11万票を加え、さらに今知事選挙では佐喜真氏推薦に回った日本維新の会の下地幹郎衆院議員の前回知事選立候補時の得票7万票を加えると、40万票を超す過去最大の得票になる計算です。

 加えて、玉城デニー候補を推す「オール沖縄」側も、2大企業グループのうちの一方が自主投票を決めていました。オール沖縄は票が2万~3万票減る、あるいは、佐喜真候補に流れるという計算です。「玉城候補の勝算はない」と私も含め多くのメディア関係者が「佐喜真勝利」を予想していました。

 しかし、知事選の結果は、私の予想は大きく外れました。

 私は、いつも知事選挙の前に沖縄国際大学の講義の中で、学生たちに選挙結果の予想を聞いています。投票の自由、投票の秘密は認められているので、誰に票を入れたかではなく、「誰が勝つと思うか」という結果の予想をさせています。

 前回の知事選では、100人中65人が翁長雄志さん、25人が仲井真弘多さん、5人が喜納昌吉さん、5人が下地幹郎さんという割合でした。結果も、ほぼそのようなかたちです。学生たちの予想は意外と当たるものだと、大いに驚かされました。

 今回は、投票日の3日前の授業で聞きました。ちょうど後期の講義開始の初日でしたので、バイアスを掛けずに、誰が当選すると思うかと、リアクション・ペーパーに書いてもらいました。結果は、120人中73人が玉城さん、42人が佐喜真さん、2人が料理研究家の候補者で、3人が「分からない」という結果でした。「玉城候補圧勝」という、私の予想と大きな乖離がありました。

 選挙の結果は、玉城さんの圧勝です。ニュースも見ない、新聞も雑誌もほとんど読まない彼らが、なぜこういう肌感覚で毎回当たるのか。そして、新聞6紙に毎日目を通し、テレビやラジオでニュースをチェックし、コメントしている私は、なぜ外れるのか。若い人たちのすぐれた肌感覚、空気を読んでみごとに当選者を当てていく。これは何だろうと思いました。

沖縄県知事選の当選を喜ぶ玉城デニー氏(中央)=2018年9月30日、那覇市

――その乖離は、何によって起きたのでしょうか。

 学生に聞くと、佐喜真さんの顔つきが「沖縄の顔にふさわしくない」ということでした。投票の3日前にやった1年生のゼミでは18人中15人が「玉城勝利」を予想していました。理由を聞くと「中央政界にこびを売っているようで嫌だ」「玉城候補に対してあまりにもひどいデマを流している。同じ県民なのに酷い」「携帯料金を引き下げるなんて知事の権限でもできない嘘っぽい公約をするのが嫌」など、いろいろ出てきました。

 私は、玉城候補が勝つ理由があるとしたら、恐らく弔い合戦になったときだと思っていました。8月に亡くなった翁長前知事の夫人の翁長樹子(みきこ)さんが出てきたら雰囲気が変わるかもしれないと。

 投票の一週間前になって、それが現実になりました。四十九日も終わらないうちは公の場で発言はしないといっていた樹子夫人が玉城候補の総決起大会の場に姿をみせ、登壇し、「翁長の遺志を継ぐのは玉城さんしかいない」と演説しました。「たった140万の沖縄県民に、オールジャパンと称して政府の権力の全てを行使して、私たち沖縄県民をまるで愚弄するように押しつぶそうとする。民意を押しつぶそうとする。何なんですか、これは」。そんな怒りの言葉が、県民の心を打ち震わせました。「みなさん。頑張りましょうね。命かじり(命のかぎり)。命かじりですよ。がんばりましょうね」(9月22日、那覇新都市公園「うまんちゅ大会」)

 樹子さんが選挙の顔として出てきたとき、この日を境に流れが大きく変わりました。私の高校時代の同級生で医者や経営者になった友人たち、彼らはこれまでずっと自公候補を推してきた保守系の人たちです。その彼らが、「ここまで言われて、佐喜真に入れるバカはいない」と言ってきました。保守系の人たちが、樹子さんの言葉で変わったのです。想定外でした。

 お金に困っている人たちに、「俺の靴をなめろ。なめたら100万円やる」と言われて、どうしようかなと思ってなめた人がいるかもしれない。でも、そこまで人間としての人格を否定されても、なめたりはしないという意思表示です。

 樹子さんの言葉で「そこまで言うならいらない、自分で生きていく、貧乏してもいい」というような気持ちにさせてしまったと思います。

沖縄で暮らしていると痛みは他人事ではない

 これまでの沖縄の選挙を見ていくと、景気がよくなると基地に反対する「革新」が勝ちます。景気が悪くなると「保守」が勝ちます。景気回復、景気浮揚のためにはケインズ経済学でいう有効需要の創出となる「公共事業」「政府予算の投入」が必要になってくる。だから不況になると保守が勝ちます。

 沖縄振興予算(補正後)が、2300億円まで落ちた2011年には、当時の仲井真弘多知事が「辺野古は事実上困難」という内容のことを言い出しました。そうすると2012年度には3300億円に予算(補正後)が上がっています。

 この国の政府は、言うことをきくと金をやらない、言うことをきかない人には最後にはお金を出してくる。そんな分かりやすい政治をやっています。恫喝型の政治、贈賄型の政治、買収型の政治。そんなことが沖縄の選挙では、大手を振ってまかり通る。そんな政府を相手に、そんな政権を相手に常に戦っているのが沖縄という地域です。

 沖縄県は第2次世界大戦後、アメリカに「里子(米軍統治下)」に出されていた27年間、食べることも、学ぶことも十分にできず大変でした。だから日本に復帰した後は、政府が主導して沖縄と本土の格差是正に向けて「特別な後見人(沖縄開発庁)」をつけて、沖縄振興開発計画を展開してきました。復帰から現在まで、46年間に沖縄には16兆円を超すともいわれる政府予算が投入されました。

 しかし、46年経っても、沖縄の1人当たりの県民所得は47都道府県の中で最低のままです。沖縄開発庁をつくって、割り増しの高率補助までして、それから特区や特別な制度までつくっても、なぜか最低のままです。

 最近の数字を見ても、非正規雇用率が沖縄は43.1%。全国は38.2%です。非正規雇用が増えるほど、貧困世帯が増えていきます。沖縄の子どもの貧困率は39%と全国19%の倍の水準です。

 選挙の時だけ有権者は「主権者」になれますが、沖縄では、その主権者が示した意思、民意も政府によって無視されます。沖縄県民の「民意」は、その他の都道府県の国民が選挙で選んだ国会議員たちによって、否定され、制圧されていると言えます。少数意見が大切にされないのなら、これは民主主義と言えません。国民全体が自分たちの問題として受け止めているのかどうか。

 沖縄の基地問題、普天間問題、辺野古新基地建設問題について、国民、国会議員の多くがあまりにも無知で、無関心。問題をメディアが無視することで、問題の解決が先送りされ、最後は放置されてしまっています。

 アメリカでは、疑うことが民主主義だと教えられています。日本のように、お上の言うことは間違いない、と信じてしまうところが違います。沖縄で暮らしていると、その痛みが他人事ではないのです。

キャンプ・シュワブの奥が埋め立てられる大浦湾=沖縄県名護市辺野古

――国民、国会議員、メディアが「無知と無視と無関心」という言葉がありましたが。

 メディアの無視が、国民の無関心を呼び、そして無知を生んでしまいます。だから、メディアがしっかり機能していないのではないか、という気がします。

 メディアの仕事は、対権力が第一の仕事で、権力にこびを売る広報紙ならもういらないと思います。同志社大学の山谷清志教授は「民主主義はメディアから腐る」と再三強調してきました。

 メディアが腐ってしまったら、民主主義はもう崩壊です。チェック機能がないからです。私もメディア出身なので天に向かってつばをしてしまいますが、そういうところをもう一度立て直さないといけません。

――国民自身は変わってきてしまったのでしょうか。

 辺野古の問題も、なぜ必要なのかを議論しません。アメリカは本当に辺野古に新基地を欲しいと言っているのですか?

 新基地の「費用対効果分析」はなぜ議論されないのですか?

 私も国交省の事業評価委員をしてきましたが、B/Cと言って、一定割合以上の効果がないものは事業を止めてもいいという権限が与えられています。防衛の事業、安全保障関係には、費用対効果分析が、なぜ実施されないのか。

 日本政府が言っていた、辺野古基地建設費は2600億円から2700億円という金額ですが、そのうち1600億円はすでに執行されています。しかし、埋め立てはほとんど進んでいません。沖縄県の試算では、このまま基地建設が進むとするなら「2兆5500億円」の予算がかかるという計算になりました。沖縄県のどんぶり勘定の方が、政府の過少額よりまだいいと思います。本当にそれだけの予算を費やすだけの価値があるのかという話しです。

工事が進む名護市辺野古沖の海=沖縄県名護市辺野古

「沖縄は独立してもやっていける」という話も

――沖縄県を訪れる観光客数が、アメリカのハワイに迫っているというニュースがありました。10年前、20年前、30年前よりも、沖縄の人たちは自分たちに自信を持ったり、アイデンティティーは何かを考えさせられたりするようになった面があるのではないですか。

 とても大きいと思います。

 米軍の施政権下の沖縄に、キャラウェイという高等弁務官がいました。「キャラウェイ旋風」と言われるぐらい、沖縄に大きな変革を求めた。そのキャラウェイが何を言ったかというと、「沖縄の自治は神話だ」と言う演説をしたことで有名です。「沖縄では米軍施政権者から琉球政府に権限の委譲があるだけで、現時点では自治は神話であり、かつそれは琉球住民の自由意思で再び独立国になる決定を下さない限り将来においても存在するものではない」と言いました。

 今の沖縄は、安倍政権に「沖縄には自治はない」と言われているようなものです。翁長前知事は菅義偉官房長官に最初にあった時、「常に上から目線で話している」と面と向かって批判しました。その上で安倍政権は「キャラウェイ高等弁務官と重なる」(2015年4月)と言ったのです。

 そういう自治神話論と同じようなことを日本政府にやられたとき、翁長前知事が「イデオロギーじゃない、アイデンティティーの問題だ」というような意識が沖縄の中で出てきたわけです。

 琉球新報と沖縄テレビ放送が行った2015年の電話世論調査では、将来の沖縄の方向性について聞くと、「日本国内の特別自治州などにすべき」が21.0%、「独立すべき」が8.4%でした。こういう声は、安倍政権になって顕在化してきています。

 沖縄では数年前から、「自己決定権」という言葉で語られています。自分たちのことを自分たちで決める権利が大事だということです。

 もう一つ、沖縄県民に自信が付いてきたことで言うと、政府からの沖縄関係予算と沖縄県民の国税徴収額が、逆転しています。納めている額の方が多いわけです。そうすると、ちょっと待てよ、もらっている額の方が少ないというのは、どういう意味かと考えるようになります。

 だったら、独立してもやっていけるのではないか、基地が返還された方が儲かるのではないか、という話が出てきます。騒音被害などによる逸失利益を考えると、沖縄には基地がない方がいいという考えになっていきます。

米軍普天間飛行場近くに掲げられていた横断幕=沖縄県宜野湾市

県民投票で「辺野古賛成」が勝つという見方も

 ――県民投票が2月に行われる予定です。どういう見方をしていますか。

 辺野古賛成が多数を占めるのではないか、と見ている学生もいます。

――なぜ、辺野古賛成が多数を占めるのではないかとみる学生がいるのか、もう少し詳しく教えてください。

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