奄美の島で小学生だった祖母は特攻隊員たちに会っていた
2018年12月23日
12月25日は、僕が生まれ育った喜界島が日本に復帰した日である。
1995年生まれの僕は、生の戦争も、米軍統治下の奄美群島も、もちろん知らない。それでも2018年10月18日、実家から歩いて5分ほどの民家の敷地内で戦時中の不発弾が爆発したとみられる大事故のニュース速報をLINEで見たとき、僕は故郷の島と戦争の密接な関係を感じずにはいられなかった。
それは民家の倉庫1棟が半壊する大事故だった。地面には最大で幅10メートル、深さ3メートルの楕円形の穴が開いたという。周辺からは金属の破片が複数見つかり、地中に埋まっていた不発弾が爆発した可能性があるということだった。
近所の住民は「窓ガラスがガタガタと揺れた。地震でもないし何だったんだろうねという話もした」「何で爆発したか分からないと、住民は心配。原因を調べてほしい」などと話したという。
喜界町では、去年12月と今年6月に不発弾が見つかり、自衛隊により爆破処理されている。いずれも太平洋戦争中の米軍の不発弾で、今回の爆発も同時期の不発弾の可能性があるということだった。
「戦争」と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、小さい時によく遊んだ「戦闘指揮所跡」だ。
小学生だった僕はそこが何かよくわからなかった。民家に隣接された頑丈なコンクリートの異様な建物には、入ってはいけない危険な匂いが漂っていた。冒険心を刺激され、僕は何度もそこに潜入した。
入口は4ヶ所。階段が残っているのは2ヶ所のみ。頑丈なコンクリートの要塞の地下壕は、真夏でも重い雰囲気と少しひんやりした空気が流れる。真っ暗闇のなかに、無造作に置かれた錆びた食器やおちょこを見つけ、一目散に逃げ出したこともあった。
機関銃で撃たれた跡が残っていた。のどかで平和な島にも数十年前には戦場だったんだ。そう気がついたのはもう少し後になってからである。
喜界島は、本土(鹿児島)と沖縄の中間に位置するため、太平洋戦争中は沖縄防衛の中継備蓄基地と位置づけられた。
当時の海軍航空基地は1945年(昭和20年)、米軍が沖縄に上陸した後、戦争遂行上の最重要基地として連日連夜にわたり米軍機の猛攻撃を受けた。70年前、祖母がまだ小学校4年の頃、僕が遊んでいた戦争指揮所跡地付近は連日のように空襲にあっていたのだった。
「まだ、あれはまだばあちゃんが4年生だった頃ね。あの当時はほんとに食べるものがなくてね~。海に貝とか海藻を採りにいってたのよ。そしたらね、海の向こうからゴゴオオっちいう音がしたと思ったらね、アメリカの飛行機が低空飛行でばあちゃんのところに飛んできたのよ。ばあちゃんはすぐに岩場に隠れたんだけど、空をぐるぐるずっと回ってね、ゴゴオオっちいう音が近づいてきり離れたり繰り返して動けなくてよ。そしたらだんだん潮が満ちてきて腰ぐらいまで水に浸かってた。結局海に帰って行ったけど。あれはほんとうに怖かったね~」
小学生だった祖母は、戦争の事を尋ねると必ずこのエピソードを話してくれる。
祖母に改めて戦争について尋ねてみた。特攻隊員が喜界島に立ち寄ると聞くと、当時貴重であった生卵を集めて届けたという。初めて聞いた話だった。
当時、沖縄への特攻機は本土の飛行場から喜界島に整備・給油のために飛来していた。特攻兵たちは、この指揮所内で最後の杯を仲間たちと交わし、翌日、敵艦隊に向けて喜界島を飛び立ったといわれる。
沖縄を包囲するアメリカの艦隊に片道分の燃料で体当たりをする二十歳前後の若者たちに、娘たちはそっと野の花を贈った。特攻隊員たちは喜界島の上空から野の花を落としていったという。その花の種が風に舞い、70年経った今でも喜界島の滑走路付近に咲く。島の人たちはそれを「特攻花」と呼ぶ。「平和を願う花」として語り継がれてきた。
特攻花、別名テンニンギク。
葉の中心が朱色にマゼンタが入った色で花びらの先は黄色く生まれたばかりの赤ちゃんのようだ。不思議なことに、満開に咲いている花、今から咲くであろう花、咲き終え種を飛ばしている花が同時に一箇所に密集している。
学校で特攻隊を習っても、どこか空想上の出来事で本当にそんなことがあったのか、実感がわかない人は多いだろう。僕が特攻花の存在を知ったのは小学生の頃だった。大学生になった今、祖母が特攻隊員たちと実際に接していたという話を聞いて、初めて「ああ、本当にあったんだ」と一気にジブンゴトになった。
そして、祖母が「隣の爺さんがアメリカに行った」と言っていたのを思い出した。アメリカに行ったとは「渡米した」という意味ではない。亡くなったという意味だ。島の老人たちは今でも戦争の揶揄し、亡くなった人を「アメリカに行った」というのだ。
そして今年もあの日がやってくる。
12月25日。それは私たち奄美人にとっては特別な日だ。
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