2018年12月25日
東京都港区が、表参道駅にほど近い一等地に100億円規模の予算で「港区子ども家庭総合支援センター(仮称)」、いわゆる児童相談所(児相)を建設する計画を打ち出したところ、地域の住民から「地価が下がる。」「青山のブランドイメージが下がる」「相談に来た子供が経済ギャップを感じて可哀想?」などの反対論が噴出し、議論を呼んでいます。
その当否については、すでに様々な識者の方々が議論を展開していますから繰り返しませんが、それ以前の問題として、短い間とは言え地方自治の現場にいたものとして、私は反対派住民の方々が掲げた様々な理由に、正直、「ああここでもか……」という思いを禁じえませんでした。
いきなり個別の名称で恐縮ですが、表参道・青山エリアの道沿いには、アルマーニやルイ・ヴィトンといった広々とした高級ブランド店が目白押しです。さらに、Avexやら伊藤忠やらOracleやら、内外の巨大企業の本社ビルが立ち並び、大通りからちょっと中に入っても、「きっと芸能人の方々がお住まいなんですね」という感じの、色々な意味でお高くみえるマンションやら戸建てやらが並んでいます。
そのどれひとつを見ても、200億円や300億円は簡単にしそうで(さすがに戸建てはそんなにしないでしょうが)、そんな中でたった一棟100億円の公共ビルができたところで、上げる方にも下げる方にも完全に焼け石に水、周辺地価に対する影響は皆無でしょう。
ブランドイメージも同様で、あれだけのブランド店舗とレストランと、今ならイルミネーションと人通りの洪水の中に、出来上がってしまったら、道行く人のほとんどがその存在すら知らなくなるであろう児童相談所が立とうが立つまいが、青山ブランドに与える影響など、良いほうにも悪いほうにも皆無だと思われます。
「子供が経済ギャップを感じて可哀想」はさらにわけの分からないところで、ランチが高ければ、並び立つビルのあちこちにあるコンビニやファーストフードでおにぎりでもハンバーガーでも好きなものを買って食べればよく、そこに行く子供にとっては、山手線か地下鉄の駅の一つであって、最寄り駅が表参道だろうが巣鴨だろうがほとんど全く差はないものと思われます。
にもかかわらず、何故これがこれほど大きな問題になっているかというと、第三者からはいかに荒唐無稽に見えても、そこに住む住民にとっては、それが「疑いようのない真実」として固定観念化されているからで、恐らく反対派の住民の方々は、本気で児童相談所ができると青山の地価が上がったり下がったりすると信じていて、これに異を唱えると、「非南青山民」扱いされかねないと思われます(冗談です-笑。)。
ただ、実は地方自治の現場は、往々にして、各地にそれぞれの形で存在する、こうした住民の「固定観念」に振り回され、多大なエネルギーを浪費しているのです。
少々問題発言であることは承知のうえ、しかし、心ならずとは言え現在のフリーの立場になってしまったので言わせてもらうと、私が知事をつとめていた新潟県における住民の「固定観念」のひとつが、「新潟空港に新幹線が乗り入れれば、新潟は大発展する」であろうと、私は思います。
ただ、それ以前の問題として、「大発展」の理由として新潟では、「新潟空港に新幹線が乗り入れれば、首都圏の第3空港となり、東京都や埼玉県、群馬県から多くの人が新幹線に乗って新潟空港から海外旅行に出かけるようになる」という説が、「疑いようのない真実」として住民の間に固定観念化して流布していて、これに異を唱えると、時と場合によっては非県民扱いされかねない状況にあります(冗談です-笑)。
あまり好き勝手に言うのもなんなので詳細は控えさせていただきますが、それこそ表参道・南青山の街角に立って「上越新幹線が新潟空港に乗り入れたら、新潟空港からハワイに行きますか?」と聞いた場合、特に児童相談所の建設に反対されておられる生粋の(?)南青山民の方々がどう反応するかを考えるのは、なかなか興味深いです。恐らくその回答は、立つ場所をさいたまアリーナ前に変えても、高崎大仏像前に変えても大差ないでしょう。
さて、なんだかとりとめのない感じで長くなってしまいましたが、結局、私が何を言いたいかというと、南青山であろうが新潟であろうが、こういう地域に厳然と存在する「固定観念」は、
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