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拡大冷え込む夕方、あつあつのビリヤニは、体を芯から温めてくれる。写真は認定NPO法人難民支援協会提供の1枚を除き、筆者撮影

 夏のような陽気もつかの間、一気に気温が下がり、神奈川県内とはいえ雪が降りだしそうな天気が続いた12月初旬。駅前の喧騒を抜け、静かな住宅街へと車を走らせる。急な坂道を上ってはまた下りを繰り返しながら、小高い丘の上に並ぶ団地にたどり着いた。凍てつくような風に吹かれると、家々の温かな灯がなおさら愛おしく見える。「こっちこっち!」と団地の一室から迎え出てくれたのが、カビールさん(57)だ。バングラデシュの出身、今年で日本に来て13年が経つ。「寒さの中、待たせてはいけない」と慌てて迎えにきたのか、寒空の下、サンダル姿で駆け寄ってきてくれた。

拡大冷たい風が団地の間を吹き抜ける中、私たちを出迎えてくれたカビールさん

 ドアを開けた瞬間に、スパイスや野菜、みずみずしい料理の香りが私たちを一気に包み込んでくれた。キッチンで妻のジョフラさん(51)が、ちょうど夕食の支度をしているところだった。鍋からは既に、じゅっという食欲をそそる音が響き渡っている。

拡大「いらっしゃい」と物腰柔らかく迎え入れてくれたジョフラさん

周辺国で広く親しまれている「ビリヤニ」

 この日料理して頂いたのは、バングラデシュをはじめ周辺国で広く親しまれている「ビリヤニ」だ。炒めた玉ねぎを、ヨーグルトなどでマリネした肉と一緒に水分が飛ぶまで煮込み、ご飯と混ぜ合わせる。さらには一緒に食べる魚のハンバーグや鶏肉の炒め物、サラダやデザートまで、慣れた手つきであっという間に豊かな食卓が出来上がった。

拡大ヨーグルトにつけこんだ肉は柔らかく、優しい味わいに仕上がっていた

拡大ビリヤニに混ぜる卵は、サフランでほんのり黄色に色づいている

拡大スパイスや調味料は、ジョフラさんが独自に混ぜ合わせ味を調えていく

拡大 他の料理が冷めないように、とジョフラさんが手際よく鶏肉を揚げていく

拡大手作りのプリンは、カモミールの香りが口いっぱいに広がる

 「今はハラール(イスラーム法において合法なもの)の食材店で材料を買っているけれど、日本に来る前はほとんど、お金で買うことなんてなかったわ。魚は夫の実家の池から獲れたし、野菜だって畑で育てていたんですもの」。食事をお皿に盛りながら、ジョフラさんは目を細め、肥沃な大地に恵まれた故郷での日々を語ってくれた。

拡大外食はほとんどせず、家のご飯で日々を過ごしているという

 「ねえねえ、スパイスこっちの方がいいわよね?」「違う、これだ」「いいえ、こっちよ!」という、側から見ると微笑ましいやり取りが続き、2人の過ごしてきた長い時を思わせた。けれども日本での暮らしに至るまで、家族は長年引き裂かれたまま、過酷な日々を過ごしてきた。


筆者

安田菜津紀

安田菜津紀(やすだ・なつき) フォトジャーナリスト

1987年神奈川県生まれ。Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル)所属フォトジャーナリスト。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、カンボジアを中心に、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で貧困や災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。写真絵本に『それでも、海へ 陸前高田に生きる』(ポプラ社)、著書に『君とまた、あの場所へ シリア難民の明日』(新潮社)。『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

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