メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

無料

握手に全く応じてくれなかった法務省側担当者に違和感

 ただ、と言葉を選びながらカビールさんが続ける。「今でも忘れられないのは、自分の難民認定証を手渡した法務省側の担当者のことです。“ありがとう”と握手のために差し出した私の手に、全く応じもしてくれませんでした」。買い物先の店や飲食店でも、単に「仕事」として人に接し、「感情」が感じられないことへの違和感が増していったという。「忙しすぎるんではないでしょうか。まるで常に何かに追われているように」と。私自身も全く同じ違和感を抱いたことがある。カンボジアの村で穏やかな日々を過ごしてから帰国した際、新宿駅で急に寂しくなり、うずくまったことがあった。これだけ人々がいるのに、なぜ目も合わせず、先を急ぎながら歩き去っていくのだろう、と。そこには私たちが時間に追われる日々の中で、すり減らすように失ってきた何かがあるかもしれない。

イギリスの長男、長女も難民認定

 今年の10月、カビールさんの父親が亡くなったという知らせが故郷から届いた。亡くなる前に手を握ることも、葬儀に参加することも叶わなかった。けれども同じ日、今はイギリスにいる長男、長女が難民認定を受けられたと連絡があった。スマートフォンのアプリを通して送られてくる孫の動画を見つめる時、カビールさんの顔は一瞬、ほころぶ。父親との再会は叶わなかったが、せめて今生きている家族と再び平穏な日々を共に過ごせる未来を、カビールさんは夢見ている。

拡大お孫さんが誕生日ケーキのロウソクを吹き消す動画が送られてきていた。いつか一緒にこの瞬間を過ごしたい、とカビールさん

 カビールさんたちをはじめ、迫害や危険から日本に逃れてきた人々が、今度は「孤独」で追い詰められることのないように。私たちの社会は今、どう変わるべきなのだろうか。

拡大自室の壁には、バングラデシュの国旗が大きく掲げられていた。「国旗は日本と似ているのにね」、と

※この連載の関連イベントを2019年1月31日に開催します。詳しくはこちら。 

(この連載は毎月第4土曜日に掲載します) 

       

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

安田菜津紀

安田菜津紀(やすだ・なつき) フォトジャーナリスト

1987年神奈川県生まれ。Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル)所属フォトジャーナリスト。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。現在、カンボジアを中心に、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で貧困や災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。写真絵本に『それでも、海へ 陸前高田に生きる』(ポプラ社)、著書に『君とまた、あの場所へ シリア難民の明日』(新潮社)。『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)。上智大学卒。現在、TBSテレビ『サンデーモーニング』にコメンテーターとして出演中。

安田菜津紀の記事

もっと見る