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官僚冬の時代~平成の官僚を振り返る~

中野雅至 神戸学院大学現代社会学部教授

佐川元財務省理財局長の胸のうち

拡大衆院予算委の証人喚問で、答弁する佐川宣寿・元財務相理財局長=2018年3月27日
 今現在においても何が真実なのかはよくわからないとしても、時の総理大臣や官邸の関与が疑われて、自らはおそらく「忖度」で行動を起こしたにもかかわらず、国会で吊し上げられマスコミや世論に執拗に追われたのが佐川元局長である。

 颯爽と演台まで歩いてきてやや硬直した表情ながらも「交渉記録は破棄しました」と断言し続けた佐川元局長。その背中を頼もしく見つめる総理や官房長官や財務大臣。この対照的な風景をみていると、佐川元局長が闘鶏で、総理などが圧倒的な立場にいる飼い主のようにみえたのは筆者だけだろうか。

 関係者には失礼な表現であるとは思うが、あえて言わせていただくと、自らの意思ではなく飼い主の意思で無理矢理闘わされている受け身の姿勢の気がした生物。彼の胸の内に何が去来していたのかは定かではないが、かつての誇り高きエリート官僚の多くも程度差こそあれ、佐川元局長と同じような状況下にあると考えられる。

 そうであれば、佐川元局長の胸のうちを探ることは、今現在の官僚の胸のうちを探ることにも通じるのではないか。一体、どんな気持ちで国会答弁に立っていたのだろうか。

 まず、総理や財務大臣をかばうことで、覚えめでたき存在になり出世することである。理財局長から事務次官にはなれないかもしれないが、時の最高権力者の覚えめでたき存在になれば将来何かが待っている。あのとき、佐川氏の頭にあったのは財務事務次官や財務省の大物OBではなかったはずだ。

 野党への軽蔑である。政権を担った野党は矛盾に満ちている。こんな人間に追及されて真実を話すくらいだったら黙秘する。民主党政権時代を知っている官僚の多くはそんな感情を胸に秘めている。

 政権に迷惑をかけられないという自責の念。総理夫人が関連していたとはいえ、必要以上に詳細に記録していた決裁文書という負い目がどこかにあったのか、自分が行動を起こすことで長期政権に傷をつけてはいけない。

 ここで迷惑をかければ財務省や財務省の政策にも大きな影響を与える。これから消費税の引き上げが待っている。ここで官邸に恩を売っておくことで消費税は引き上げやすくなる。したたかな財務官僚ならそう考えたかもしれない。

 最後は同調圧力に屈した。何となく余計なことは話すなよという雰囲気が霞が関や永田町全体から漂っていて、日々、アルミ缶の中にいるような窒息感だった。

薄くなっている「省」というものの存在

 どの要素が最も強かったのだろうか。様々な考え方があるだろうが、はっきりしていることは佐川氏だけでなく、多くの官僚の頭の中から「省」というものの存在が薄くなっていることである。

 もちろん、「省」というものを打ち壊し、日の丸官僚を作り上げるのが改革の目標だったことを考えると、これは改革が成功した証ともいえるが、日の丸官僚で輝くことができるのは政権の覚えめでたきごくごく一部の官邸官僚であり、その他大半の官僚は「省」という存在が薄れつつある器の中でアイデンティティクライシスに陥り、自らの役割など考える余裕もないというのが実態だと思われる。

 しかも、省を通じて国益や国民を考えてきた官僚にとって、省の存在が薄くなるということは国益や国民の存在が見えにくくなるということも意味している。

弱体化した省益がもたらすプラスとマイナス

 官僚の力の源泉でもあり、良くも悪くも、官僚のアイデンティティを作ってきたのは省であり省益である。日本国に採用されるのではなく、特定の省に採用され退職後は関連団体に天下る。その間、

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筆者

中野雅至

中野雅至(なかの・まさし) 神戸学院大学現代社会学部教授

1964年生まれ。90年に旧労働省に入省。旧厚生省生活衛生局指導課課長補佐、新潟県総合政策部情報政策課長、厚生労働省大臣官房国際課課長補佐などを経て公募により兵庫県立大学大学院助教授、教授。2014年4月から現職。著書に『天下りの研究』『公務員バッシングの研究』『没落する官僚-エリート性に関する研究』(明石書店)など。