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[115]国会の空洞化報道さえ空洞化して

金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

安倍晋三首相(右)が出席した参院法務委で答弁する山下貴司法相=2018年12月6日安倍晋三首相(右)が出席した参院法務委員会で答弁する山下貴司法相=2018年12月6日

12月4日(火) 午前中「報道特集」の定例会議のあと、雑務、雑務で時間が過ぎていくばかり。夕刻から専修大学で日本ペンクラブ「子どもの本」委員会等の主催で、メディア状況に関する講演会。メディアのありようが看過できない状態になっていることを、メディアのなかに一応今もとどまっている自分が他人事のように発言し続けるわけにはいかない。どこかで落とし前をつける作業を同時並行的にやっていかなければならないのだ。講演会のあとの懇親会には20人近くの人が参加していた。年長者が多い中で、ひとりだけ若い人がいた。もがきながら必死に生きている感じの人だったが、話をしてよかった。

 中東取材の準備をしようとE、N氏らと断続的に話をする。

12月5日(水) 朝、早起きしてプールへ。ゆっくりと泳ぐ。ニコンプラザ新宿のギャラリーで写真家インベカヲリの写真展『理想の猫じゃない』。ひりひりするような写真展だ。家族の解体のなかで被ったこころの傷や、社会生活のなかでの性暴力で生きづらい状況にある女性たちのポートレート写真の数々。それらの写真が撮影された奇怪な<シチュエーション>は、被写体と撮影者・インベカヲリ氏との話し合いによって決められたようだが、その<シチュエーション>の造作自体が、傷の深さと癒えなさを露わにしているようで、みていてひりひりする。写真に添付されていたキャプションの文章も簡にして深く、インパクトがあった。写真家たちの方が、報道メディアよりも、今の時代状況を深く伝えていると思う。同時開催されていた千葉県在住のバングラデシュ人家族の写真展、田川基成『ジャシム一家』にも興味をひかれた。入管法が審議されている現下の状況ではなおのことだ。

 その後、東京オペラシティのコンサートホールでバイオリニスト、ヒラリー・ハーンのバッハ楽曲の演奏を聴く。バッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ、ソナタ」を聴く。あまりにも気持ちがよくなって、バカなことに眼鏡をどこかに落としてきてしまった。何やってんだか。ホールに電話をしてみたら、メガネが1個届いているという。ひと安心。

今や立法府は政府の「下請け機関」

12月6日(木) 朝、オペラシティに眼鏡を取りに行く。その後、入管法審議の取材で国会の参議院へ。法務委員会は別館で開かれている。安倍首相が午後3時から2時間だけ委員会に出席するという。今国会の最重要法案のひとつ、入管法の改正案をめぐる審議。委員会の前には僕らも含めてたくさんの報道陣(記者とカメラマンら)が陣取っている。

 安倍首相は、昨夜の経済人との宴会で「時差が残っているなか、あしたは法務委員会に出てややこしい質問に答えることになっています」などと国会を舐め切った発言をしていた。委員会室に首相が入っていく時に、カメラで撮りながら「ややこしい質問にどう答弁するのでしょうか」と喋っていたら、幹事社とかいう某社の人物が「ここはリポート禁止だよ」とか言ってきた。よくわかりにくい取材規制が今や国会内に蔓延しているのが現実だ。

 野党が技能実習生たちの悲惨な実態を追及しているのだが、与党や法務省側はそれに向き合うどころか、審議も尽くさずに時間切れで採決に持ち込もうというスケジュールが見え見えになっている。山下貴司法務大臣の横に着席した安倍首相はものすごく眠そうにしている。山下法相が首相への質問に割って入る場面が何度もあった。これが国会の空洞化というやつである。ところが取材する側もこの状況に慣れきっていて、国会空洞化報道自体が空洞化しているのではないか。

 17時50分に委員会の理事会終了。室内から怒号が聞こえてくる。法務委員長の解任決議案が出されたらしいが、その扱いをめぐってもめているようだ。今夜の強行採決はどうやらなさそうだ。国会前の「勝手に決めるな」「まともな国会運営を」という、入管法、水道法などの強行採決に抗議する集会に行ってみた。安保法制の時のような熱気や人出はない。それ以上に、地上波のテレビ局が僕ら以外にどこにも見当たらないではないか。あしたも取材を続けなければならない。いくつかの予定をキャンセルしなければならない。当たり前だ。

 夜、遅くに帰宅して、沖縄の大工哲弘さんから贈っていただいたソーキそばを食べる。うまい。

12月7日(金) 朝、早く目が覚める。フランスのパリで大規模デモが起きていたが、マクロン政権は予定していた増税を見送るという。「クレスコ」の原稿を書く。T氏に電話をして今夜の会は参加できない旨を伝える。

 午前10時から参議院の本会議。法務委員長の解任決議案等をめぐる審議。与党議員席からは笑い声や品のないヤジ、机を叩くノイズが聞こえてきて、全く緊張感がない。審議と呼べるようなものではない。山本太郎が「一人牛歩」をやっていた。一強政治の長期化の末に、今や立法府は政府の「下請け機関」になっていることが、議場で長時間傍聴していて痛いほどわかった。その後、再び法務委員会。今度は法務大臣の問責決議である。

 一旦、局に戻る。今後、この仕事を続けていくうえで、今年もっとも不愉快な出来事があった。記憶にしっかりとどめておこうと僕は心に誓った。入管法改正案の取材の最中なので、少し頭を冷やさなければ、これ以上仕事を続ける気力を維持できない。ほとんどのことがどうでもいいような気持ちになりかける。どう自分をコントロールするか。手元にある本やリーフレットを手当たり次第読む。『FORUM90』の青木理と安田好弘弁護士の対談の記録を読む。面白い。音楽が聴きたい。バッハのマタイ・パッションを聴く。こころに沁みる。

 参議院に戻る。旧知の有田芳生議員と話す。ある与党議員が、委員会休憩中に廊下で「審議が夜までかかるから、予約していたワインパーティーのキャンセル料が32万かかったよ」とか聞こえよがしに吹聴していた。こういう議員というのは、

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