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フランスは「生き埋め状態」のゴーンを救えるか?

一方的な情報発信、日本流の取り調べにやきもきするフランス人だが……

山口 昌子 在仏ジャーナリスト

西川日産社長批判で反撃するが……

 「執行人」という、死刑執行人を連想させる見出しの記事は東京特派員によるものだ。

カルロス・ゴーン会長の逮捕を受け、記者会見する日産自動車の西川広人社長=2018年11月19日、横浜市西区拡大カルロス・ゴーン会長の逮捕を受け、記者会見する日産自動車の西川広人社長=2018年11月19日、横浜市西区
 「彼? カルロス・ゴーンを取り巻く日産幹部の中で最も卑劣な奴だ。この20年間、躊躇(ちゅうちょ)することなく主人の指図に従ってきた男だ」
「日本人が彼を嫌悪するのは、常にゴーンの影に隠れていたから。フランス人が彼を嫌悪するのは小心よくよくで臆病者だからだ」
などの証言を列記し、「虎の威を借るキツネ」的な西川社長のイメージづくりを試みている。西川社長が1999年4月の日産とルノーのアライアンス以来、「彼以上にゴーンに近い者はいない」と言われた側近中の側近だったことは、社内外の一致した見方だ。

 ルノーやプジョーなどフランス車専門のアナリスト、クリストファー・リシテール氏のコメントも紹介している。リシテール氏は「彼(西川社長)がゴーン逮捕後の11月19日夜の記者会見で、雑駁(ざっぱく)な告発でカルロス・ゴーンを生き埋めにするのをこの目で見た。ブルータスによるシーザー暗殺劇を直接、目撃した印象を受けた」と言い、「ルノーでは、もし告発が事実なら、日産も同罪。連座するべきだと考えている」という指摘も伝えている。

 ゴーン氏は2017年4月の西川社長任命時の記者会見で、「私は常に、日本人が自分の後継者になることを望んでおり、数年前から西川氏がそうなるよう準備をしてきた。彼に全面的な信頼を寄せている」と、任命理由を説明した。だが、日産の業績は西川氏の社長就任以来、下降線をたどるなど芳しくない。同年9月には完成車検査の不備問題も発覚するなど、悪いニュースが続いた。

 「ゴーン逮捕」の引き金について、ゴーン氏がルノーと日産の合併問題を画策したからだとか、業績不振の西川社長の更迭をはかろうとしたためだ、などのニュースが報じられている。真実はどこにあるのか。

“精神的拷問”への危惧も

カルロス・ゴーン容疑者への接見を終え、報道陣に囲まれながら東京拘置所を出る大鶴基成弁護士(中央)ら=2018年12月20日拡大カルロス・ゴーン容疑者への接見を終え、報道陣に囲まれながら東京拘置所を出る大鶴基成弁護士(中央)ら=2018年12月20日、東京都葛飾区
 1カ月以上に及ぶ刑務所暮らしの間、三つの国籍(ブラジル生まれなのでブラジル。両親がレバノン人なのでレバノン。高校時代から暮らすフランス)を持つゴーン氏はこの3カ国の在日大使、そして日本人弁護士との面会を許されている。

 在日フランス大使のピッグ氏は早々に面会して以来、「何回か面会に行っている」(フランス外務省日本関係者)。畳で寝る習慣のないゴーン氏の狭い独房に最近、小型ベッドが持ち込まれたのは、大使の請願の結果だという。ただ、食事はフランス料理とはいかず、ご飯とみそ汁といった日本食だ。

 フランスでは許可される尋問時の弁護士の同席は許されていないことにも、フランス側は不満を募らせる。尋問は英語で行われている。ゴーン氏にとって英語でのやりとりは問題はないとはいえ、母国語でない言語での尋問には極度の注意力が必要だし、不安なはずだと関係者は口をそろえる。

 知り合いのフランスのベテラン判事は、「日本でもたぶん同じだと思うが、フランスでは容疑者を有罪にする確実な方法は自白だ。従って検事による尋問は厳しいものになる。耐えられなくなって自白する容疑者は少なくないが、なかには早く尋問から逃れたい一心から、ウソの自白をして後で撤回すればいいという考えに陥る人間もいる。ゴーン氏は精神力が強いからそんなことはないと思うが、1カ月以上も外国の刑務所という特殊な環境におかれていることを考えると……」と、“精神的拷問”への危惧を口にする。

 さらに、「日本は幸か不幸かEU(欧州連合)加盟国ではないので、欧州人権裁判所に告訴されることはないが、EUなら“人権”問題が浮上するのは確実だ。テロリストでも連続殺人犯でも小児性愛者でも連続レイプ犯でもなければ、1カ月以上も拘束する例は多くないはずだ」とも指摘した。

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筆者

山口 昌子

山口 昌子(やまぐち しょうこ) 在仏ジャーナリスト

元新聞社パリ支局長。1994年度のボーン上田記念国際記者賞受賞。著書に『大統領府から読むフランス300年史』『パリの福澤諭吉』『ココ・シャネルの真実』『ドゴールのいるフランス』『フランス人の不思議な頭の中』『原発大国フランスからの警告』『フランス流テロとの戦い方』など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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