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「憲法改正を決めるのは主権者」はほんとうか?

国民投票をとことん考える・上

松下秀雄 朝日新聞編集委員(政治担当)

問うべきは「水筒」か「飲みもの」か

 まず、あるたとえ話を紹介しよう。

 学校で、遠足のしおりをつくるとする。そこには「水筒」持参の可否を書くべきだろうか。それとも、書くべきは中身の「飲みもの」だろうか。読者のみなさまは、どうお考えだろう?

 このたとえ話を聞いたのは4月、朝日新聞労働組合東京支部が催した講演会でだ。木村草太・首都大学東京教授が示した答えは「飲みもの」だった。「水筒持参可」と書いても、中に入れていいのは水だけか、ジュースやお酒でもいいのか、何も入れてはいけないのかがわからない。それでは意味あるルールにならないからだ。

 木村教授はこう指摘した。

 「憲法9条に自衛隊だけ書くのは、遠足のしおりに『水筒を持ってきていい』と書くようなもの。ちゃんと中身を書かないと、意味ある改正にはならない」

 「水筒」とは自衛隊。中身の「飲みもの」とは、専守防衛に徹するのか踏みだすのかといった、自衛隊の活動内容のことだ。

 たとえ話を勝手に補足すれば、いまはこんな状況だろう。

大事なことは政治が決める。国民には諮らない

集団的自衛権の行使容認の閣議決定に首相官邸前で反対する人たち=2014年7月1日、東京・永田町 
拡大集団的自衛権の行使容認の閣議決定に首相官邸前で反対する人たち=2014年7月1日、東京・永田町
 ある学校では、遠足に水筒を持参するのがあたりまえになっていて、最近、職員会議で水筒に入れる飲みもののルールを緩めたばかり。それなのに校長が「水筒持参の是非」を全校投票に諮りたいと言いだした……。

 9条を変えたいのなら、2014年に集団的自衛権の行使に道を開く時に試みるべきだった。改憲が発議されれば国民投票が行われ、私たちの手でその是非を決めることができた。ところが首相は、この重い決定を憲法解釈変更でしのぎ、憲法に自衛隊を明記するかどうかを国民に問おうとしている。これではまるで「飲みもの」を勝手に変えた後に、「水筒」を問うようなものではないか。

 首相の方針をもとに、自民党憲法改正推進本部がまとめた9条改憲案をみれば、「必要な自衛の措置をとることを妨げず」と記す一方、その自衛の措置とは何かを書いていない。これでは活動内容がどこまで広がるのかがわからない。

 これだと、「大事なことは政治が決める。国民に諮るつもりはない」という意思の表れとみるしかない。


筆者

松下秀雄

松下秀雄(まつした・ひでお) 朝日新聞編集委員(政治担当)

1964年、大阪生まれ。89年、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸、与党、野党、外務省、財務省などを担当し、デスクや論説委員を経て2014年4月から編集委員。17年秋までコラム「政治断簡」の執筆者の1人を務めた。現在は、主に憲法改正国民投票に関する取材や準備に携わっている。