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国民投票で「意見をお金で買う」のは自由か?

国民投票をとことん考える(下)

松下秀雄 朝日新聞編集委員(政治担当)

国民が運動当事者になる

 国会が改憲案を発議し、国民投票が行われると決まった時、あなたは何をするだろうか。ちょっと想像してみてほしい。

 仮に、自民党が検討している4項目がすべて発議されたとしよう。9条への自衛隊明記、緊急事態条項、教育無償化、参院選の合区解消がその4つである。

 私たちは、それぞれの項目について、判断をくだすことを求められる。これがなかなか難しい。合区解消のための条文変更の利点と欠点を知り、だから良いとか悪いとか、判断がついている人がどれほどいるだろうか。

 たぶん多くの人が、判断材料を集めようとする。テレビや新聞、ネットに目を凝らすことも、家族や友人と意見を交わしながら考えることもあるだろう。考えが固まれば「こっちに投票しようよ」というかもしれない。

 特定の投票行動を誘えば、それは国民投票運動だ。つまり、改憲案の是非を考えることと運動することはつながっていて、私もあなたも運動の当事者になりうるということだ。

がんじがらめの選挙。規制が少ない国民投票

市民団体の要請を受け、「国民投票のテレビCMについて公平なルールを求める超党派の議員連盟」に加わった衆参の議員たち。左から3人目が会長に就いた船田元氏=2018年8月29日拡大市民団体の要請を受け、「国民投票のテレビCMについて公平なルールを求める超党派の議員連盟」に加わった衆参の議員たち。左から3人目が会長に就いた船田元氏=2018年8月29日
 国民投票法をつくる時、「仕事帰りに居酒屋で憲法談義をし、上司が飲み代を払う」という例がしばしば語られた。上司が「こっちに投票しようよ」といい、帰り際に部下のぶんまで飲み代を払ったり、少し多めに出したりしたとする。それが買収罪に問われるようだと、憲法談義をやめてしまわないか――。

 政治家たちはそう心配し、買収も、組織的に数多くの人を買収するのでなければ罪に問わないことにした。お金の力で意見が曲げられるおそれより、自由に意見を交わせる利点のほうが大きいと判断したのだ。

 このように、国民投票には運動規制が少ない。これに対し、選挙運動はがんじがらめだ。たとえば候補の名を記したビラには枚数制限があり、勝手にプリントアウトして配ることはできない。選挙ではもっぱら政党や候補、その運動員が運動を担うことを想定しており、近年、解禁されたネット選挙運動をのぞいて、一般の人はかかわりにくい仕組みになっている。

 スポーツ競技にたとえるなら、選挙は、国民が観客席にいて、政党や候補による競技(運動)を観戦するイメージだ。一方、国民投票は、国民もグラウンドに降りていき、いっしょに競技に参加できるというイメージで制度が設計されている。

 私見をいうなら、選挙の時だって競技に加われるようにすべきだと思う。日本くらい、がんじがらめのルールを持つ国はめずらしい。問題はむしろ、公職選挙法のあり方にある。

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筆者

松下秀雄

松下秀雄(まつした・ひでお) 朝日新聞編集委員(政治担当)

1964年、大阪生まれ。89年、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸、与党、野党、外務省、財務省などを担当し、デスクや論説委員を経て2014年4月から編集委員。17年秋までコラム「政治断簡」の執筆者の1人を務めた。現在は、主に憲法改正国民投票に関する取材や準備に携わっている。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです