2018年12月27日
保守色が強いロシアの政治的土壌にあって、女性の政界への進出はそれほど歓迎されているとはいえない。
今年3月の大統領選挙の半年前にあたる2017年10月の世論調査では、国家の各種最上級ポストに女性が男性と並んで就くことに、賛成は約60%とそれなりの支持を集めた。
ところが、「今後10~15年の間に女性大統領の誕生を望むか」との質問に、賛成は34%に過ぎなかった。反対は53%にのぼった。
「女性の大統領になりうるのは誰か」との質問には、マトビエンコ上院議長との答えが一番多く、6.1%だった。以下はいずれも1%前後と、支持は極めて低かった。
注目すべきなのは、前稿で紹介した元「美しすぎる検事」ナタリア・ポクロンスカヤ下院議員が、人気テレビキャスター出身で3月の大統領選挙で4位となったクセニア・サプチャークさんと並んで0.4%の支持を受け、4位に入ったことだ。
サプチャークさんがロシア改革派のかつての指導者アナトリー・サプチャーク元サンクトペテルブルク市長の娘であるように、ポクロンスカヤさん以外はいずれもエリツィン前大統領時代の1990年代からの活動歴を持ち、全国に広く顔が知られる存在だ。2014年の「クリミアの春」で初めて全国的な知名度を得て、16年秋に下院議員になったポクロンスカヤさんがすでにこうした女性たちと並ぶ位地にあることは、女性にとって有利とはいえないロシア政界への急速な進出ぶりを象徴する。
その人気ぶりは、同じ17年秋に行われた「メディアの言及が多かった下院議員」の調査結果によく示されている。ここでポクロンスカヤさんは堂々の1位となった。
ロシア紙ベドモスチが伝えた調査結果によると、17年秋の下院会期中、メディアによるポクロンスカヤさんへの言及は4万1153件と、元大統領府第1副長官で政権与党「統一ロシア」の重鎮であるボロージン下院議長の3万8272件を大きく引き離した。3、4位で続いたロシア政治の長老ジリノフスキー自由民主党党首、ジュガーノフ共産党委員長も、言及件数でははるかにポクロンスカヤさんに及ばない。
確かに、映画『マチルダ 禁断の恋』に対するポクロンスカヤさんの活動(前稿参照)は、ロシアの社会一般から強い支持を得たわけではない。ロシアでの映画の封切りに合わせて2017年10月下旬に実施された世論調査では、「正教の信者の感情を侮辱するため、映画の上映を禁止するべきだ」との主張を支持したのは17%に過ぎず、反対が48%を占めた。
しかし、結果的にポクロンスカヤさんはメディアに最も言及される下院議員という地位を手に入れた。自身は政党としての「統一ロシア」の党員ではなく、無所属のままで下院の「統一ロシア」会派に所属している。下院に転身後はあまり注目されることがなかっただけに、『マチルダ』での行動は、まさにハイ・リスク、ハイ・リターンの「ハイプ」といえる。
このポクロンスカヤさんのハイプ的資質を、政治評論家のスタニスラフ・ベルコフスキー氏は自由ラジオで、「自分が無条件に信じることだけを話している。非常に一貫して自らの道を歩んでいる。その意味で彼女は本物であり、フェイクではない」と説明する。
今回のインタビューで『マチルダ』に対する上映反対運動を振り返るポクロンスカヤさんは、今もなお意気盛んだ。
「それなら歴史的な事実の範疇に収まらなければならない。お金は盗まれたのです。製作した監督らのお金の使い方に対する監視や問い合わせを通じ、私たちの指摘した事実は裏づけられています。そのほか映画の精神的な部分に関して言えば、皇帝、つまり神聖で世界で最も大きな強国であるロシア帝国の第一人者を、ドイツから招いた俳優が演じました。彼は悪魔崇拝を演じたことで有名です」
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