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「美しすぎる」ポクロンスカヤ議員のハイプ的行動

大野正美 朝日新聞記者(報道局夕刊企画班)

「ハイプ」な政治家

検事の正装姿の近影拡大検事の正装姿=ポクロンスカヤさん提供
 ロシアでは、こうしたポクロンスカヤさんの政治活動の特質がしばしば「HYIP(ハイプ)」という投資用語で説明されている。日本語では「高収益投資プログラム」だ。預金ではないため投資した資金の保証はなく、運営サイトの業績悪化で突然消えることもあってリスクはとても高い。その半面、高配当利回りなので、うまくいけば極めて大きな利益が期待できる。

 確かに、映画『マチルダ 禁断の恋』に対するポクロンスカヤさんの活動(前稿参照)は、ロシアの社会一般から強い支持を得たわけではない。ロシアでの映画の封切りに合わせて2017年10月下旬に実施された世論調査では、「正教の信者の感情を侮辱するため、映画の上映を禁止するべきだ」との主張を支持したのは17%に過ぎず、反対が48%を占めた。

 しかし、結果的にポクロンスカヤさんはメディアに最も言及される下院議員という地位を手に入れた。自身は政党としての「統一ロシア」の党員ではなく、無所属のままで下院の「統一ロシア」会派に所属している。下院に転身後はあまり注目されることがなかっただけに、『マチルダ』での行動は、まさにハイ・リスク、ハイ・リターンの「ハイプ」といえる。

 このポクロンスカヤさんのハイプ的資質を、政治評論家のスタニスラフ・ベルコフスキー氏は自由ラジオで、「自分が無条件に信じることだけを話している。非常に一貫して自らの道を歩んでいる。その意味で彼女は本物であり、フェイクではない」と説明する。

 今回のインタビューで『マチルダ』に対する上映反対運動を振り返るポクロンスカヤさんは、今もなお意気盛んだ。

ニコライ2世の肖像を手に、皇帝一家殺害の地ウラル地方エカテリンブルクで追悼の行進に参加したポクロンスカヤさん(中)=2017年7月、ロシア正教会エカテリンブルク教区主教座撮影拡大ニコライ2世の肖像を手に、皇帝一家殺害の地ウラル地方エカテリンブルクで追悼の行進に参加したポクロンスカヤさん(中)=2017年7月 撮影・ロシア正教会エカテリンブルク教区主教座
 「国からこの映画に大きな補助金が出ています。これは税金です。これだけの金額を使えば年金生活者の問題を部分的に解決できます。なぜ私は反対してきたのか。映画は『国民映画』と名乗っていたのです。歴史的なブロックバスターだと。それなら歴史的な事実に基づかなければなりません。歴史家と正教会の同意を受けていなければなりません。なぜなら、私たちにとって神聖なものを具象化しているからです。『マチルダ』をつくったアレクセイ・ウチーチェリ監督が自分のお金で撮ればかまわなかったのですが、国民映画でも歴史的ブロックバスターでもないのに、国のお金が入っているのです」

 「それなら歴史的な事実の範疇に収まらなければならない。お金は盗まれたのです。製作した監督らのお金の使い方に対する監視や問い合わせを通じ、私たちの指摘した事実は裏づけられています。そのほか映画の精神的な部分に関して言えば、皇帝、つまり神聖で世界で最も大きな強国であるロシア帝国の第一人者を、ドイツから招いた俳優が演じました。彼は悪魔崇拝を演じたことで有名です」

インタビューに答える「マチルダ」のウチーチェリ監督=今年7月、大野正美撮影拡大インタビューに答える『マチルダ 禁断の恋』のウチーチェリ監督=2018年7月 撮影・筆者
 記者の方から「東京でウチーチェリ監督に会いましたが、彼は『映画はニコライ2世の別な人間的な側面を描こうとした。国家からのお金はたいへん少ない。映画をつくる時にいつも国家から出る額くらいで、標準並みだ』と言っていました」と聞いてみた。
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筆者

大野正美

大野正美(おおの・まさみ) 朝日新聞記者(報道局夕刊企画班)

1980年、朝日新聞社入社。水戸支局、外報部、東京社会部などを経て、1986年からサンクトペテルブルクに留学、モスクワ支局勤務は3回計11年。論説委員、編集委員、国際報道部・機動特派員を経て、現在は報道局夕刊企画班。著書に『メドベージェフ――ロシア第三代大統領の実像』『グルジア戦争とは何だったか』(いずれもユーラシア・ブックレット、東洋書店)など。

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