2018年12月29日
今月14日、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設に向けて、政府が埋め立て土砂の沿岸部の海域への投入を始めました。9月末の知事選挙では、辺野古移設反対を掲げて選挙戦を戦った玉城デニー知事が当選しており、私は、「沖縄の民意」に反したこの土砂投入は、極めて残念なことだと思っています。
ただし、最初に申し上げておきますが、現時点において私は、日米間の合意としても、国の防衛政策としても、普天間飛行場の辺野古への移設が決定されていること、それ自体を否定するものではありません。
政治を語る上で「民意」という言葉は良く使われますが、実は民意というのは思われている以上に複雑なものです。
先に「沖縄の民意」と書きましたが、直近の沖縄知事選において玉城知事が勝利したとはいえ、沖縄にも辺野古移設に賛成な人がそれ相応にいるでしょうし、賛成でも反対でもない中間的な人だっているはずです。それでも「沖縄の民意」が「辺野古移設反対」であるといえるのは、「多数決で多数を占めた方を民意とする。」という民主主義のルールがあるからです。
とすれば、辺野古移設推進を掲げる政府与党が、2012年末の衆院選以来、国政選挙に勝利し続けている現状においては、「国の民意」は辺野古移設推進と示されているとするしかありません。
つまり「民意」というのはそれを問う問い方や問う範囲によって複数ありうるのであって、「沖縄の民意(地方の民意)」と「国の民意」が異なる事はありうるし、実際それがいま起こっている事なのです。
問題は、「沖縄の民意」(地方の民意)と「国の民意」が異なる現状において、政治はそれにどう向き合うべきかという点にあるのだと思います。
この問題について、もとよりそう簡単な「解」はありません。
そもそも人というものは、そう簡単に自分の意見を変えません。沖縄県の基地問題にしても、原発問題を見ても(原発のことを考えると涙が出そうになりますが……)、異なる意見を持つ当事者同士が解決策を見出すというのは、極めて困難なことです。
しかし、です。いきなりマンガネタで恐縮ですが、「諦めたらそこで試合終了」です(バスケマンガ『SLUM DUNK』の名ゼリフです)。非常に青臭く聞こえるかもしれませんが、それがどんなに難しいことであっても、説得によって相手の意見を変え、解決策を見出そうという意思と、それができるはずだという信念は、民主主義を成り立たせる根幹であると私は思います。
国が、地方の民意と異なる国の民意を実現したいなら、なすべきことは実力行使ではないでしょう。まずは十分な根拠を示し、十分な時間を費やしての説得であり、それでも結論が出ない場合は、法律に基づいた民主的プロセスを踏んで決定するべきだと思います。
と同時に私は、国とは異なる地方の民意を実現しようとするなら、地方もまた、十分な根拠を示して国全体を説得し、法律に基づいた民主的プロセスによって国全体の意思決定を変えようとする気概を持つべきだと思いますし、それは可能であると思います(涙が出ます……)。今後、玉城知事をはじめとする辺野古移設反対派の方々が、そうした気概をもって存分に真価を発揮していただけることに期待をしています。
そのうえでの話ですが、冒頭で述べたとおり、人間はそう簡単に自分の意見を変えるものではありません。また、物事には、経緯や状況上いかんともしがたいこともあります。そもそも、こちらの言い分にまったく耳を傾けようとしない人に説得されるような人はいないでしょう。人を説得しようとするなら、自分もまた人から説得される可能性を認めなければなりません。
最初から、なあなあの妥協なぞ目指すべきでも掲げるべきではもありませんが、しかしながら、お互いに全力を尽くした後、地方の民意を100%実現することも、国の民意を100%実現することも、ともに困難な状況になったとすれば、お互いが60%ずつを実現し、トータルで120%を実現するよう結論を見出していくのが政治であると、私は信じています。
そしてその前提となるのが、繰り返し述べている通り、お互いが相手の主張に耳を傾け、お互いが法律と民主主義のルールにのっとって行動することから生じる信頼なのです。
その観点から見ると、今回の政府による辺野古沿岸部への土砂投入は、先に述べた通り、極めて強引な法解釈と運用にもとづいて、誕生して間もない玉城知事の主張にほとんど耳を傾けることなく行われたものとしか言いようがありません。このような状況が続けば、お互いの説得はもちろん、相互に60%ずつ実現するというかたちの結論を得ることなど、夢のまた夢になってしまいます。
その先にあるのは、茫々(ぼうぼう)たる相互不信に基づく民主主義の機能不全です。そしてそれこそが、今回の沖縄の土砂投入が日本の政治に投げかけた最大の危機であると、私は思います。
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