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日本にも政府から独立した「国家人権機関」を

馬橋憲男 フェリス女学院大学名誉教授

 外国人技能実習生の自殺・失踪、障害者の強制不妊、政府の障害者雇用水増し、子どものいじめ・貧困、医学部の不正入試、原発、沖縄の基地・・・深刻な人権問題が山積している。肝心の国会は本来の機能からほど遠い。不都合なデータを隠したり、都合よく改ざんしたり、野党の質問にきちんと答えず、まともな審議を避けて強行採決を繰り返す。日本の民主主義が危機的状況にある。

厳しい海外の評価

ジュネーブの国連欧州本部で、女性差別撤廃委員会の対日本勧告について記者会見するジャハン委員ら(右)=2016年3月7日
 こうした国民の不安は、奇しくも海外の評価によく表れている。
・世界経済フォーラム(WEF)の2018年報告書によれば、日本のジェンダーギャップ(男女格差)は149カ国中110位で主要7カ国中最下位。とくに国会議員の比率などの政治分野は125位である。
・国際NGO「国境なき記者団」の2018年報道の自由度に関する調査では、日本は180カ国・地域中67位。
・国連の2015~17世界幸福度調査で日本は155カ国中で54位。

 国民の人権はどう守ればいいのか。最終的には裁判という手もあるが、あまりにも時間と費用がかかり、実用的でない。しかも、司法の独立性と信頼性にかつてなく疑問の目が向けられている。

 そこで、日本にはないが、多くの国で人権擁護の中心的機関として活動している「国家人権機関」に着目したい。

守られない国連勧告

 日本は1998年以降、国連で国家人権機関の設置を再三再四勧告されている。2017年の国連人権理事会の普遍的定期的審査(UPR)では、日本に対する勧告でもっとも多くの国が求めたのが死刑廃止と並んでこの国家人権機関の設置である。各種の人権条約の対日国連審査でも、毎回同様な勧告が繰り返されている。

 「日本的な人権」なるものがまことしやかに説かれる。戦争の教訓から、人権は普遍的であり、国籍、性別などを問わず、すべてのひとに保障されるべき権利とみなされる。そのために各国は国連であらゆる人権について共通の世界基準を作成し、それに基づいて実施する。言うまでもないが、この基準を作成するのは、日本をはじめ国連加盟国の政府であり、間接的には国民である。

 この世界基準の最たるものが国際人権条約であり、現在30以上制定されている。そのうち主要な市民的・政治的権利(自由権)に関する国際規約、女子差別撤廃条約、人種差別撤廃条約、障害者の権利条約などは、締約国が条約を守っているか定期的に国連で審査し、改善に向けて勧告を行う。

 この国連審査が日本では単なる「通過儀式」のように軽んじられ、その後の改善につながらない。冒頭の人権問題のうち、早くから指摘を受けているものも少なくない。

 例えば外国人技能実習制度は国連の2008年自由権規約委員会で取り上げられている。「外国人研修・技能実習生が国内労働法令、社会保障の保護から除外され、法定最低賃金を下回る研修手当を受け、無休で残業を強いられ、しばしば雇用主に旅券を取り上げられている」と懸念。日本政府に彼らの権利を保護し、低賃金の雇用よりも能力開発に焦点を当てる新制度への切り替えを勧告した。2014年にも繰り返し勧告し、2018年には別の人種差別撤廃委員会も同様の勧告を行っている。

 この制度が「国際貢献」の名のもと多くの犠牲者を出していたことが、最近になって判明した。報道によれば、2010~17年に174人が死亡。低賃金・未払い、ハラスメントなどを理由に過去4年間に毎年5000人もが失踪しているという。

 強制不妊問題にいたっては、なんと20年前の1998年にやはり自由権規約委員会が、「障害を持つ女性の強制不妊の廃止を認識する一方、法律が強制不妊の対象となった人達の保証を受ける権利を規定していないこと」を遺憾とし、日本政府に必要な法的措置を取るよう勧告している。

 こうした国連勧告には法的な拘束力がない。実施するかどうかは、あくまでその国次第である。そのため勧告の多くは時と共に忘れ去られ、また、しばらくすると蒸し返される。このパターンの繰り返しである。これこそが政府間機関である国連の限界であり、創設以来、最重要課題として取り組んできた人権における永年の課題である。

国家人権機関-人権への新たな対応

 国連の人権問題への取り組みが1990年代に大きく改革される。

 1993年の国連総会で「国家人権機関」を設置する決議(通称「パリ原則」)が採択されたのである。現在約140カ国で設置され、先進国でないのは日本と米国だけである。

 国家人権機関の最大の特徴は、政府から独立し、中立・公平な点である。そのためにNGO、学識者、弁護士など政府職員以外で構成される。人権について事実上、国の最高機関として広報・啓発、人権侵害の調査と救済・調停、人権教育など幅広い活動をになう権限を与えられる。

 例えば、子どものいじめである。この深刻な問題に日本ではなかなか有効な対策が取れず、自ら命を絶つ子どもが後を絶たない。学校や教育委員会による隠ぺいや内部調査の不備も次々と明るみに出ている。オーストラリアの場合、国家人権機関がホームページで生徒からいじめの訴えをワンクリックで受け付け、速やかに調査し、必要ならば改善を促す。

 今回、国家人権機関の活動でとくに注目したいのは、政府の政策や法案に作成段階で人権の視点から独自の意見や勧告を行う点である。今回の改正出入国管理法や来年に予定される消費増税、原発などの政府の社会経済や安全保障などの政策が国民の生活や人権にどのような影響を与えるか。「治療」よりも「予防」を重視し、後で深刻な問題が生じ、被害や犠牲者を出さないための安全弁である。

 他国の例では、

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