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中島岳志の「自民党を読む」(5)岸田文雄

当たり障りのないことを言う天才。何をしたいのかが極めて不明瞭。本当にリベラルか?

中島岳志 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授

安倍首相には従順、福田首相には共感

 岸田さんは1957年生まれ。祖父・正記と父・文武はともに衆議院議員という政治家一家に生をうけました。

 岸田さんが6歳のとき、政治家になる前の父がアメリカに駐在することになり、ニューヨークのパブリックスクールに通うことになりました。そこでの人種差別体験が、政治家を志すきっかけになったといいます。とにかくおかしいと思ったことには声を上げなければいけない。「政治というものを通じて正していかなければならない」(「山本一太の直滑降ストリーム ゲスト:岸田文雄・外務大臣」2014年1月20日)。そう考えたといいます。

 その後、二度の大学受験失敗を経て、早稲田大学に入学します。卒業後は、日本長期信用銀行に入社。約5年の勤務ののち、衆議院議員になっていた父の秘書となります。その父が1992年に65歳で他界。岸田さんは後を継ぎ、1993年夏の衆議院選挙で初当選しました。この時の初当選組に、安倍晋三さんや野田聖子さんなどがいます。

拡大森喜朗内閣不信任案に賛成票を投じると発言した加藤紘一自民党元幹事長は、反主流派の合同総会に出席した議員から押しとどめられ、涙を浮かべた=2000年11月20日、東京都港区
 宏池会に所属した岸田さんにとって最大の難関となったのが、2000年に起きた「加藤の乱」でした。宏池会を率いる加藤紘一さんが森喜朗内閣を批判し、野党が提出した内閣不信任案に同調する意向を示した騒動ですが、当初、岸田さんは不信任決議に賛成票を投じる決心を固め、自民党からの除名処分を覚悟したといいます。

 しかし、党幹部のなりふり構わない切り崩しによって宏池会はバラバラになり、加藤さんも本会議欠席にとどまったことから、岸田さんも共同歩調をとります。反乱失敗によって加藤さんは自民党内での地位を失い、総理候補からも外れることになります。その後、宏池会は分裂。岸田さんは加藤さんのもとを去り、堀内派に所属しました。

 岸田さんは順調に出世し、小泉内閣では文部科学副大臣に任命されました。岸田さん以上に小泉内閣で台頭したのが、同期の安倍晋三さんです。北朝鮮の拉致問題で強硬な姿勢をとり世論の支持を獲得すると、2003年には幹事長に抜擢され、次期総理大臣候補にのし上がりました。

 2004年4月に岸田さんの選挙区・広島のシンポジウムに迎えられた安倍さんは、文部科学副大臣として活躍した岸田さんを「『スーパー副大臣』と呼ばれていました」と称賛。二人の蜜月関係をアピールしています(「大臣も見えてきた岸田文雄衆議院議員」『ビジネス界』24巻4号、2004年5月)。

 2006年に首相の座を射止めた安倍さんは、翌2007年、第1次安倍改造内閣で岸田さんを内閣府特命担当大臣(沖縄及び北方対策、規制改革、国民生活、再チャレンジ、科学技術政策)に任命。岸田さんにとって、これが念願の初入閣となりました。

 岸田さんは、思想的には異なる立場の安倍さんに対して、従順な態度を貫きます。首相に就任して数か月後の安倍さんを手放しで絶賛し、「非常にバランス感覚の優れた方で、極めて安定していた」と述べています(『中国新聞』2006年12月20日)。

 一方、安倍内閣が崩壊し、続く福田康夫内閣でも内閣府特命担当大臣に任命されると、今度は「『ハト派』色の強い福田内閣は共鳴する部分も多い」とコメントし、福田首相の考え方にシンパシーを示しました(「広島の顔 岸田文雄さん」『ヴェンディ広島』2007年12月1日)。

 民主党政権時代に野党生活を経験した後、第二次安倍内閣では外務大臣に就任し、専任としては歴代最長を記録します。そして、2017年8月には自民党の政調会長に就任し、現在に至ります。安倍首相とは考え方の相違はあるものの、現実的な対応が重要と述べ(「オバマ広島訪問に期待する」『文藝春秋』2016年6月)、従順な態度をとっています。このそつのなさが、岸田さんの安定した地位の基礎となってきたといえるでしょう。

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筆者

中島岳志

中島岳志(なかじま・たけし) 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授

1975年、大阪生まれ。大阪外国語大学でヒンディー語を専攻。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科でインド政治を研究し、2002年に『ヒンドゥー・ナショナリズム』(中公新書ラクレ)を出版。また、近代における日本とアジアの関わりを研究し、2005年『中村屋のボース』(白水社)を出版。大仏次郎論壇賞、アジア太平洋賞大賞を受賞する。学術博士(地域研究)。著書に『ナショナリズムと宗教』(春風社)、『パール判事』(白水社)、『秋葉原事件』(朝日新聞出版)、『「リベラル保守」宣言』(新潮社)、『血盟団事件』(文藝春秋)、『岩波茂雄』(岩波書店)、『アジア主義』(潮出版)、『下中彌三郎』(平凡社)、『親鸞と日本主義』(新潮選書)、『保守と立憲』(スタンドブックス)、『超国家主義』(筑摩書房)などがある。北海道大学大学院法学研究科准教授を経て、現在、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。

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