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小泉進次郎氏が語るポスト平成の老後のかたち

ポスト平成を担う政治家が描く22世紀を見据えた新しい社会モデル(中)

小泉進次郎 自民党衆院議員

 今年4月以降に届く「ねんきん定期便」()のスタイルが、変わる。人生100年時代に、新しい社会モデルを模索する小泉進次郎さんが先頭に立ち、「全面改定とも言える見直し」にこぎつけた。人生後半の生き方に大きくかかわる年金は、一人ひとりの老後のかたちに直結する。「非常に大きな第一歩」と言うけれど、書類の形式を変えるだけで、ちょっと大げさすぎませんか。(聞き手・伊藤裕香子  朝日新聞論説委員)

小泉進次郎さん=2018年12月17日、東京・永田町小泉進次郎さん=2018年12月17日、東京・永田町

大事な情報がなかったねんきん定期便

――小泉さん自身はこれまで、自分あてのねんきん定期便には、しっかり目を通してきたのですか。

小泉 正直言って、読む気はしなかったですね。「これが定期便か」と思い、きちんと保険料を納めているかを確認するくらいで、終わりでした。いま自分が一番伝えたい「60歳で年金を受け取るなら3割カット、70歳からなら42%アップ」なんて、どこにも書いてない。いちばん大事な情報のはずなのですが。

――どうして「42%アップ」が、大事なのですか。

小泉 60~70歳の間の何歳から年金を受け取るかは、自分で選べるんです。でも、これまでは十分に伝え切れていませんでした。70歳からの受給を選ぶと、65歳で受け取るのに比べて1.42倍、最大で42%の金額になります。現在は、70歳からの受給を選ぶのは1%ほどの方だけ。しくみを知られていないからでしょう。

注・ねんきん定期便
日本年金機構から毎年1回、自分の誕生月に、国民年金や厚生年金の加入者にはがきや封書で送られてくるもの。加入記録の確認などができる。自民党厚生労働部会の国民起点プロジェクトチームが、2019年4月以降について内容を見直した。35歳、45歳、59歳にくる封書には「大切なお知らせ 受給開始を繰り下げると年金は増額できます。70歳で最大42%UP」と書いたチラシを同封する。
http://shinjiro.info/181211_nenkinteikibin1.pdf

年金は「自分でつくる」イメージで

国民目線からの改革の最初に打ち出した、ねんきん定期便の見直し。自民党本部での記者向けの発表では、パネルをつかい、わかりやすさと意義を強調した=伊藤裕香子撮影国民目線からの改革の最初に打ち出した、ねんきん定期便の見直し。自民党本部での記者向けの発表では、パネルをつかい、わかりやすさと意義を強調した=伊藤裕香子撮影
――文字のサイズが大きくなって、字数も減りました。棒グラフのイメージ図も入って、「老後の生活設計について考えてみませんか?」と表現もやわらかくなりました。でも、これだけで行動が変わりますか。

小泉 講演でこの話をすると、二つわかりやすい反応があります。学生さん、それから私と同世代、現役世代のみなさんは、「70歳までがんばろう」という前向きなリアクション。すでに年金を受け取っている方からは「早く言ってよ」という返事です。つまり、早く知っていたら、行動は変わったということです。

 若い人は、知った瞬間から、今後の人生設計を変えようとする。年金は老後に考えること、老後に初めて「自分ごと」になるのではなく、人生の早い段階できちんと知ってもらうことが、社会全体、そしてその人個人にとっても、ものすごく大切なこと。年金は「もらう」というより、「自分でつくる」イメージですね。これこそ、まさに若い人たちに伝えたいことです。

まずは情報を届け切る

――知名度のある小泉さんがPRすれば、多くの人も気づきますか。

小泉 いまは、みんなすごく飽きやすく、情報が消費されるのが早く、メディアも細分化している。マスに届ける難しさを、すごく感じます。情報を届けることの難易度が、かつてないほど上がっている時代だな、と。

小泉進次郎さん=2018年12月17日、東京・永田町小泉進次郎さん=2018年12月17日、東京・永田町
――「ナッジ」と呼ばれる手法を、採り入れたそうですね。

小泉  そっと後押しする、という英語ですが、その人の意思決定を尊重しながら、よりよい政策のほうへと誘導していくことです。イギリスや、アメリカのオバマ政権も採用していました。日本人が得意なことを洞察し、前向きな行動変化につなげていくねらいがあります。

 前からずっと言ってきたことですが、長生きをリスクにしない、選択する社会保障を確立するには、一人ひとりの多様な生き方、選択を支えることが大事です。年金は、国民の多くが関心を持ち、ときには政権をゆるがすテーマなのに、制度に対する情報提供という肝心なことが、欠落していた。それがゆえに、国民のみなさんも制度の中身を知らない。それなら、まずは情報を届け切ろうと、目をつけた改革です。さらに言えば、「人生100年型年金」を具現化する、一つの措置でもあります。

年金の開始年齢の幅を広げる

――年金の受給開始年齢を引き上げる提案ですね。2016年10月の「人生100年時代の社会保障へ」にも盛り込まれていました。

小泉進次郎さん=2018年12月17日、東京・永田町小泉進次郎さん=2018年12月17日、東京・永田町
小泉 開始年齢はいま、60~70歳の10年の中での選択です。この幅をより広げる。たとえば、75歳にして、受給額を1.5倍以上に増やしたっていい。一人ひとりの選択肢を増やしたい。安倍首相も昨年9月の自民党総裁選で、70歳を超える選択もできる制度改正をする、と繰り返し言っていました。

――しかし、2017年3月に提唱し、社会保険料を上乗せして保育の無償化などの政策にあてる「こども保険」は、関心を呼びましたが、議論は現在、動いていません。

こども保険のメッセージは死んでいない

小泉 この間、消費税の使い道を変えて、幼児教育・保育を無償化する(注)という、総理の一つの政治判断がありました。ですが、子ども支えるための環境整備は、これで終わりではありません。まだまだやるべきことがいっぱいある。

 そして間違いなく、そこでは財源の話が出てくる。しかも数千億円を1回つくればいいものではなくて、兆円単位で、しかも恒久的に必要になる。すると、選択肢はおのずと限られます。「こども保険」に込めたメッセージは、死んでいない。

小泉進次郎さん=2018年12月17日、東京・永田町小泉進次郎さん=2018年12月17日、東京・永田町
――こども保険を打ち出したとき、「子どもがいないのに、子育て政策なんてわかるのか」などと言われたそうですね。

小泉 逆にありがたいと思いました。「そうではない」と、真っ向から言い返すチャンスですから。子どもがいないから子育て政策を語る資格がないなら、農業政策は農家以外、かかわってはだめですか?中小企業政策は中小企業経営者しか、かかわれない? そうだとしたら、多様性のない、本当に貧弱な、たこつぼの世界ですよ。

 社会全体で子どもを支える国づくりの方向性は、子どものいる、いないに関係ない。挑発的に言わせてもらえば、いままで子どもがいる人も含めて少子化対策を考えてきたのに、結果が出ていませんよね。もともとうまくいっていないなら、子どものいない独身の僕みたいな人間が加わったって、心配する必要ないでしょう。多様性が問われている時代です。

注・幼児教育・保育の無償化
安倍晋三首相が、2017年10月の衆院選の目玉公約に掲げた政策。2019年10月に消費税率を10%に上げたときの増収分の使い道を変え、3~5歳と、所得が低い世帯の2歳児以下の幼稚園や保育所の費用を無償化する、2兆円規模の方針を打ち出した。
もともとは、税収増となる5兆円超のうち4兆円程度は、過去の借金の返済に充て、残り1兆円程度で社会保障を充実させる予定だった。大学などの高等教育の負担軽減策のほか、待機児童をなくすための保育の受け皿づくりの計画前倒し、保育士・介護職員の処遇の改善も含まれる。

政治家に必要なのは想像力

――自分のなかで、負い目を感じることはないのですか。

小泉 政治家は、すべてにおいて想像力が必要です。「お前、子どもがいないから、わからないだろう」っていう声は、「高齢者ではないから、高齢者のことは語るな」「共働きではないから、共働きのことは語るな」「クリーニング屋ではないから、クリーニングのことは語るな」となりますよね。経験したことしか語れないのであれば、個人の経験に基づく発言しかできなくなる。それを僕は正しいとは、思わない。

 政治家が「最後は言葉だ」と言われるゆえんは、「この人は子どもがいないのに、子ども子育て政策でこんなにも心に響くこと話すのはどうしてだろう」と国民に感じてもらえることではないですか? その人の立場にたって想像したとき、どういう景色が見えるかどうか、です。想像力をどこまで持てるのかが問題であって、子どもがいるかどうかではありません。

 もちろん、結婚願望も、子どもを持ちたい気持ちも、ありますよ。=続く

(撮影:迫和義)

「ポスト平成を担う政治家が描く22世紀を見据えた新しい社会モデル(下)」は3日に「公開」予定です。